後悔させない「入学金と寄付金」の知識

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苦しい受験を乗り越え、喜びに満ちた入学手続き。しかし、そこで始まるのが「学費」との戦いだ。皆が平等に払う授業料や施設費とは違いグレーゾーンも多い2つの費目について知っておきたい基礎知識と最新情報を集めた。

■いい学校ほど、高いものなのか

私立受験を決めた時点からある程度の覚悟をしたとしても、できれば余計な出費は抑えたいものだ。特に、入学時には一気に出費がかさむもの。

受験コンサルタントとして活躍する森上教育研究所代表の森上展安氏と、「お受験じょうほう」など各種受験サイトを運営するバレクセル代表の野倉学氏に、入学金と寄付金の最新事情を聞いた。

合格後、学納金としてまず初めに支払うのが入学金だ。首都圏の私立中高一貫校の金額を見てみると、平均額は24万4000円だが、少ない学校は5万円、多い学校では45万円と、9倍もの開きがある(バレクセル調べ)。

「金額に差があるのは、学校の方針や経営力の違いが理由」と説明するのは野倉氏。

「高ければいい学校だという図式は必ずしも成立しません。たとえば女子御三家(桜蔭、女子学院、雙葉)の人気に迫る豊島岡女子学園は18万円と、平均より安い。授業料なども含めた初年度納入金で見ても、71万8000円と、首都圏の平均額より低く抑えられています」(野倉氏)

なお、中高一貫校の場合、入学金は高校に上がったタイミングでもう一度徴収されることがほとんどだということは頭に入れておきたい。

ここで気になるのが納入期限。第1志望の合格発表を待たずに併願校の納入期限が来た場合、やむなく後者に支払わなければならない。もし第1志望校にも受かったら、うれしいことだが、入学金は二重に支払うことになる。いったん納めたお金は、取り戻すことができるのだろうか。

「基本的に、返還の要求はできません」と言うのは、森上氏。

「ほとんどの学校は募集要項やホームページに『入学金は、いかなる理由があっても一切返金しません』と書いています。まれに返金するケースもありますが、表ざたにはならないことが多く、返還をめぐって訴訟になったというケースもあまり聞きません」

一方で大学受験では、2006年に入学辞退者が入学金や授業料などの返還を求めた訴訟を起こしている。国民生活センターによると、この際の最高裁の判決は、大学側に「入学金を除く授業料の返還を命じる」というもの。つまり、入学金には返還の義務はないとされた。

理由は、入学金を「入学できるという地位を取得する対価」と定義したからだ。対して、授業料や施設費は、授業の受講や施設の使用に対して支払うお金なので、入学して授業を受けたり施設を利用したりしないかぎり、支払いの義務がないというわけだ。中学に至っても、こういったケースが考えられるのだろうか。

「中学では、ある程度の学校の合格発表が終わった後に納入期限を設ける学校がほとんどです。ただし、たとえば1月に入試を行う立教新座(埼玉)のように、2月の東京・神奈川の主要校の入試結果を待たずに締め切ってしまう人気校もあります。『うちを選んでくださいね』という自信の表れでしょう」(野倉氏)

不必要な支払いはできるだけ避けたいが、子供の将来のための安心材料とすれば、滑り止め校へ納める入学金は高くはないのかもしれない。

もうひとつ、入学時に親の頭を悩ませるのが「寄付金」だ。本来、金銭や財産を無償提供する寄付金は、任意であるはずだが、これから子供が6年間お世話になるであろう学校には、納めておいたほうがいい気もする。もし納めなかった場合、子供の学校生活に影響はあるのだろうか。

一説によれば、納付率が8割に達する生徒や保護者の愛校心が強い学校もあれば、5割に満たないところもあるとのことだが、私立高より私立中、私立中より私立小と、学校の段階が下がるにつれて、寄付金を払う雰囲気が強くなる現象が見られる。

「私立小に入るのはお金持ちの子供が多く、横並び意識が強いため、寄付金を気にする風潮があります」

と説明するのは森上氏。しかしそれが中学、高校へ上がると、中間層の生徒が増えていくので、「絶対に払わなければいけない」という雰囲気は薄まっていく。

「公立から入学した生徒に至っては、『学費はちゃんと払うんだから、寄付金は別にいいでしょ?』と初めから考えていない親も多く、意識が全く違います」(森上氏)

また野倉氏によれば、学校にとって寄付金は大きな財源ではないという。たとえばホームページで財務状況を公開している獨協中・高を見てみると、その収入の内訳は入学金や授業料など、学生生徒等納付金が64%で、補助金が29%。この2つでほぼ9割を占め、寄付金の比率は4%と決して高くない。学校側も「いただければ、幸いです」というスタンスであることは十分に考えられる。

さらに原点に返ってみると、寄付とは金銭的に余裕のある者が、社会貢献の一環として行うものであり、「払える人が払えばいい」という発想は間違いではない。「実際、子供を私立に入れる親の中には、さまざまな事情で高収入を得ている者が少なからずいます」と野倉氏。

「多額の税金を納めるのであれば子供に役立てるほうがいい」という考えのもと、数百万円単位で寄付する大企業の経営者や、毎年数千万円を提供する富豪の存在もある。

「教育環境の充実を期待して、大金を寄付する人は意外に多い。みんなで支えるやり方も悪くないけれど、そんな余裕はないと思うご家庭は心配しなくていいんです」(森上氏)

私立中受験を控えた親の中には、寄付金を払わなければ学校推薦がもらえなかったり、教師に冷遇されたりするなど、現場で差別を受けないかと心配する声もあるが、これに関して心配は全く無用。

学校法人は法律上、現場の教師と金銭の管理をする事務方は完全に別の組織に分かれているため、寄付金を払ったかどうかに関しては、教師たちには何も知らされずノータッチである。寄付金を払わないことが、子供の学校生活にマイナスを及ぼすことはないのである。

学校側が寄付者の名前を名簿にするケースもあるが、それは感謝の意を示すのが目的で、「載っていないから肩身が狭い」と受け取る必要はない。寄付した者に対して、素直に拍手を送ればいいだけの話なのだ。

そもそもこの寄付金、募集している学校は実はそれほど多くはない。東京都が発表している「寄付金・学校債の募集状況」によれば、東京都の私立中高一貫校の中で寄付金を募集している学校は184校中81校。全体の約4割強にすぎない。それとは別に、資金調達のために募集される学校債は184校中9校が発行。こちらは基本的に無利子で、卒業時に元本が返還される。

「最近は『寄付金を取らない』と明言する学校も増えてきました。多くの場合、納付を積極的に募集するのは入学初年度だけですが、慶應義塾のように毎年募集する学校もあるなど、取り組み方はさまざまです」(野倉氏)

では、寄付金はいったい何に使われているのだろうか。気になる寄付金の行方だが、森上氏によると、「一般の寄付金はほとんど設備費に使われている」という。

「一号基本金といって、学校は建て替えのための資金を常にプールしておく決まりがあります。しかし周年事業のようなタイミングで施設を建て替える際、何十億円レベルの莫大な費用がかかるので、その資金は寄付金に頼ることが多い」

森上氏は、今後、新しい寄付金の使い道として奨学金に注目する。

「近年、成績優秀な生徒の学費を免除する特別奨学金制度が増えていますが、高額の寄付金が入ったら、学校はそれを新入生に回していく。その結果、優秀な人材を輩出すれば、学校の名声が上がって在校生も誇りに思うので、考えようによっては設備に使うよりもメリットは大きいはずです。これからは奨学金のような“積極的な使い道”を、学校側も模索していくのではないでしょうか」

寄付金とはあくまで「志」。たとえ今は払わなくても、子供が卒業後に大成したら将来的に寄付すればいい、ぐらいの心構えで十分なのかもしれない。

(鈴木 工=文)