[Ina Fassbender / Reuters]

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 どうやら香川真司がドルトムントを去りそうだ。まだ結論はわからないが、ここまでの流れを見ていると濃厚と言える。確かに新しいチャレンジをするならリスクはつきものだ。後から振り返れば、転機を1年先延ばしにしたことで、致命的に暗転してしまった例も数多く見てきた。

 しかし一方で非常に惜しまれるタイミングでもある。香川にとって、ドルトムントはまさに相思相愛のようなチームだった。互いの間合いを詰め、シュートパスを中心にスピーディーな展開を続けるスタイルの中心には、一貫して香川がいた。ドルトムントは理想的な選手を獲得したことになるが、香川の方もC大阪時代とはプレースタイルを変え、チームの攻撃に加速をつける役割を演じた。Jリーグ時代にドリブルでアクセントをつけていた香川は、中央にポジションを移すと、ボールを引き出し、効率良く的確な判断で展開し、さらにゴールに絡むという新境地を開拓したのだ。

 今シーズンは、バイエルンが欧州チャンピオンズリーグで決勝に進出した。だがドルトムントは、そのバイエルンを抑え、ブンデスリーガの連覇を達成している。しかも来シーズンは、ボルシア・メンヘングラードバッハから売り出し中のマルコ・ロイスを獲得し、マリオ・ゲッツェの復調も見込まれる。もし香川が残れば、バイエルンを下した戦力にさらに上乗せされ、若いメンバーだけに成熟という武器も加わる。欧州チャンピオンズリーグで旋風を巻き起こす可能性も十分にあった。


 もはや香川がステップアップできるクラブは、欧州を見渡しても限られている。そして今の香川のプレースタイルで、そのままフィットできるとしたら、バルセロナかアーセナルあたりだったろう。有力視されるマンチェスター・ユナイテッドは、オファーとしては魅力的だが、レギュラーとして生き残っていくためには、さらに個の力強さが求められる。

 天王山のバイエルン戦、さらにはシャルケ04とのルールダービーと、ブンデスリーガ終盤の2試合を見てきた。限界近い疲労と戦いながら、香川も当面のライバルからの連勝に貢献した。だが特にバイエルン戦では、少しでもボールを持つ時間が長くなると、体をぶつけられて阻まれ、ボールを突かれた。だからこそ「攻撃はシンプルに」と、反省を生かしてシャルケ戦のフル出場につなげたわけだが、さらに激しいプレミアで常時活躍し続けるのは、今より確実に難しい課題となる。

 もし香川が所属クラブで十分な出場機会を確保できなければ、当然日本代表のパフォーマンスにも影響が出る。せめてブラジルW杯まではドルトムントで良かったのでは、との懸念が、杞憂に終わることを願うばかりである。