「福島はどこにでもある 今こそ原発廃止を!」と訴えかけるドイツ語のメッセージの横に、「原子力? おことわり」という毛筆調の邦訳が見えます

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2011年の日本を象徴する漢字が「絆」であったことは、報道で知りました。ドイツにも、日本で選ばれる「今年の漢字」に相当するようなものが存在しています。それは、ドイツ語協会(ドイツ語に関する研究組織)が毎年12月に発表する、「今年の言葉」、平たく言うと「流行語大賞」です。

過去に選ばれた「今年の言葉」を振り返ってみますと、「金融危機(2008年)」、「9月11日(2001年)」、「ミレニウム(2000年)」などは、まだ記憶に新しいところでしょう。いずれも、ドイツのみならず、世界規模で注目をあびた出来事でした。また、ドイツ初の女性首相に選出されたメルケル現首相は、「女性首相(2005年)」という流行語も生み出しました。余談ですが、メルケル首相は、大きな国際試合のスタンドで、握りこぶしを突き上げながら声援を送るほどのサッカーファン。ドイツでサッカーW杯が開催された2006年に、「ファン マイル(パブリック ビューイングのこと)」が「今年の言葉」に選ばれたことにも、大満足だったことでしょう。

さて、もう少し時間をさかのぼってみますと、1990年10月の東西ドイツ統一と関連して選ばれたのが、「新連邦州(1990年)」と「旅行自由化(1989年)」。また、世界を震撼させた原発事故を教訓に、「チェルノブイリ」も、1986年の「今年の言葉」になっています。

さて、2011年の暮れ、記念すべき第40回目の「今年の言葉」に選出されたのは、日本でもなじみのある「ストレス テスト」でした。もともと人間医学用語として使われていたストレス テストは、ストレスへの体の反応を検査する手段ですが、近年では医学の垣根を乗り越えて、政治、経済、さらには日常生活のさまざまなシーンで、広く見聞きされる言葉となりました。

例えば、ドイツで新たにストレス テストの対象となったものとして、金融機関、シュトュットガルト21(ドイツのシュトュットガルト鉄道網改革プロジェクトの名称)、バーデン・ヴュルテンベルク州(ドイツ南西部の州)で誕生した緑赤連合新政権(緑=緑の党、赤=社会民主党)、そして、ドイツでも稼働する原発の数々が挙げられます。

「ストレス テスト」に続き、「今年の言葉」の5位には、日本語の言葉も選出されています。「Fukushima」です。東日本大震災が、そして福島の原発事故が発生するまでは、日本はおろかアジア圏に縁もゆかりもなかったドイツ人でさえ、世界地図を開いて「Fukushima」の位置を正確に指差すことができるようになったほど。国会でも、メディアでも、井戸端会議でも、ドイツ全土で聞かれ、語られ、警鐘を鳴らす言葉になったことは間違いありません。
(柴山香)