ドイツで当て逃げに遭った話 第2話
当て逃げで明けた2012年。ドイツで当て逃げ被害に遭うのは5回目なので、初めての当て逃げほどのインパクトはないものの、事故が正月2日に発生したことは、年末年始のほろ酔い気分を一掃するのに、十分すぎる効果を発揮してくれました。
ピンポーン! 新年2日の早朝だというのに、玄関のベルを鳴らすのは一体誰だろう? 応対に出ると、近所に住むドイツ人男性が、新年の挨拶も、お早うございますの言葉もないまま、一気にまくしたてました。「お宅の車、すぐに見にいったほうがいいですよ。派手に壊されてますよ」と。とっさに、初めて当て逃げされた日のことが頭をよぎりました。あの日も、玄関のピンポーン! から始まったんだっけ……。
カメラと車のキーを手に、自宅前に駐車してある愛車のもとに走ると、破損した車より先に、路上に散乱しているバンパーの破片が見えました。被害の度合いでいえば、5回の当て逃げのうち3番目のひどさで、バンパーが割れ落ち、後輪が丸見えになっている状態。車の周囲を見回すと、何度も切り返したタイヤ跡もくっきり残されています。もしかして犯人のものでは?
大慌てで家を飛び出してきたため、薄着の私。急に寒さを感じながら、破損箇所や付近の路上を手当たり次第カメラにおさめ、警察に通報すべく再び自宅へ。震える手で受話器を握りました。
「当て逃げの被害に遭ったので電話しました」
「ああ、そうですか〜。それでは、まずはこちらへいらして下さい」
「え? は? 私が行くんですか? 事故現場に来てもらえないんですか?」
「まず、こちらへ来て下されば、事情をお聞きしますので」
「あの、でも、現場には破片も散らばっているし、タイヤ跡もあるんです。証拠写真を撮らなくていいんですか?」
「現場の写真は、撮りたければ、どうぞお撮り下さい。こちらへ来て下されば、破損した車の写真は、警察の方で撮影しますから」
現場写真を撮りたければご自由にって、そういうものですか? 犯人検挙の手がかりが残っているかもしれないのに、現場を見る気など毛頭ないという対応です。当て逃げ犯への怒りと、のらりくらり警察への憤りが混在する中、とにかく車をスタートさせました。
警察署についたら、嫌みのひとつも言ってやろうと意気込んで来たものの、顔に「いい人」と書いてありそうなほど温厚な警官が応対に出てくれたことに拍子抜けしてしまい、「年末年始は忙しいんでしょうね」なんて、予定とはまるっきり反対のセリフを吐いてしまった、情けない私。
破損した車の写真撮影に続いて、事故状況の説明、私の身分証明書、車両登録証明などの必要書類チェックをひと通り済ませ、当て逃げした白い車の塗装が残っているバンパー破片を警官に渡したところで、今日は終わり。この間、せいぜい20分程度だったでしょうか。
「何か思いついたことがあれば、いつでもお電話下さい。24時間態勢で勤務していますから。警察側からも、進展があれば必ずご連絡します」
そんな心強い言葉とは裏腹に、温厚警官の顔には、さきほどまで書いてあった「いい人」の代わりに、「諦めて下さい」の文字が浮かんで見えました。
こうなったら自力本願あるのみ。
年明け早々、「目撃情報を捜しています」のチラシを作ってプリントアウトし、路上駐車中の車や、ご近所の郵便受けに配り歩いている私です。万が一にも何らかの進展がありましたら、コネタとしてご報告いたします。必ず。
(柴山香)
ピンポーン! 新年2日の早朝だというのに、玄関のベルを鳴らすのは一体誰だろう? 応対に出ると、近所に住むドイツ人男性が、新年の挨拶も、お早うございますの言葉もないまま、一気にまくしたてました。「お宅の車、すぐに見にいったほうがいいですよ。派手に壊されてますよ」と。とっさに、初めて当て逃げされた日のことが頭をよぎりました。あの日も、玄関のピンポーン! から始まったんだっけ……。
大慌てで家を飛び出してきたため、薄着の私。急に寒さを感じながら、破損箇所や付近の路上を手当たり次第カメラにおさめ、警察に通報すべく再び自宅へ。震える手で受話器を握りました。
「当て逃げの被害に遭ったので電話しました」
「ああ、そうですか〜。それでは、まずはこちらへいらして下さい」
「え? は? 私が行くんですか? 事故現場に来てもらえないんですか?」
「まず、こちらへ来て下されば、事情をお聞きしますので」
「あの、でも、現場には破片も散らばっているし、タイヤ跡もあるんです。証拠写真を撮らなくていいんですか?」
「現場の写真は、撮りたければ、どうぞお撮り下さい。こちらへ来て下されば、破損した車の写真は、警察の方で撮影しますから」
現場写真を撮りたければご自由にって、そういうものですか? 犯人検挙の手がかりが残っているかもしれないのに、現場を見る気など毛頭ないという対応です。当て逃げ犯への怒りと、のらりくらり警察への憤りが混在する中、とにかく車をスタートさせました。
警察署についたら、嫌みのひとつも言ってやろうと意気込んで来たものの、顔に「いい人」と書いてありそうなほど温厚な警官が応対に出てくれたことに拍子抜けしてしまい、「年末年始は忙しいんでしょうね」なんて、予定とはまるっきり反対のセリフを吐いてしまった、情けない私。
破損した車の写真撮影に続いて、事故状況の説明、私の身分証明書、車両登録証明などの必要書類チェックをひと通り済ませ、当て逃げした白い車の塗装が残っているバンパー破片を警官に渡したところで、今日は終わり。この間、せいぜい20分程度だったでしょうか。
「何か思いついたことがあれば、いつでもお電話下さい。24時間態勢で勤務していますから。警察側からも、進展があれば必ずご連絡します」
そんな心強い言葉とは裏腹に、温厚警官の顔には、さきほどまで書いてあった「いい人」の代わりに、「諦めて下さい」の文字が浮かんで見えました。
こうなったら自力本願あるのみ。
年明け早々、「目撃情報を捜しています」のチラシを作ってプリントアウトし、路上駐車中の車や、ご近所の郵便受けに配り歩いている私です。万が一にも何らかの進展がありましたら、コネタとしてご報告いたします。必ず。
(柴山香)