ドイツの公共交通機関は、使いこなせばとても便利。車がなくても快適な都市生活が送れます。

写真拡大

ドイツ滞在17年にして、愛車を当て逃げされるという被害に、すでに5回も遭っています。

ドイツに来て初めての当て逃げは、その幕開けもドラマチックでした。その日はちょうど週末で、家族揃って自宅でくつろいでいたところへ、突然玄関のベルが鳴りました。ドアを開けると、そこに立っていたのは2名の制服警官。法に触れるような悪行はしていないのに、膝が震えてしまったのは小市民がゆえ。警官に促されるままに自宅前の路上に出ると、合法路上駐車してある愛車のバンパーが割れ、破片が散乱しているのが見えました。

事故の経過は次の通りです。現場は、乗用車2台が十分すれ違える舗装道路。そこには路線バスも運行しているのですが、乗用車とバスがすれ違うのにはかなり神経を使う道幅なので、運転中にバスに出会ってしまうと、はずれくじを引いたような気分になります。なぜなら、バスは1時間に1本しか運行していないからです。

事故の当日、近所に住む81歳のおばあちゃんが、メルセデスCクラスを運転していたところ、正面から路線バスがやって来ました。「滅多に来ないバスに出会うなんて、運が悪いこと」と、おばあちゃんも動揺したに違いありません。その後、無事にバスとすれ違うことだけに全身全霊を傾けていたおばあちゃんの視界には、かたわらに駐車してあった私の車など、まったく入らなかったのでしょう。

バスを避けようとしたおばあちゃんのメルセデスは、私の車の後方バンパーに衝突しました。ところが、おばあちゃんはそれに気づく様子もなく、無難にバスとすれ違うと、そのまま走り去ったというのです。

やはり悪いことはできないもので、一部始終を目撃していた人物がいました。ほかでもない、おばあちゃんとすれ違った路線バスの運転手さんです。運転手さんは、逃走車のナンバーを車内無線で即座に警察に通報。知らせを受けた警察は、そのわずか数時間後、郊外の国道を走行中のおばあちゃんの車を発見し、おばあちゃんは、即刻ご用となったわけです。
メルセデスのヘッドライトも派手に破損していたらしいのですが、おばあちゃんは「何も知らない。覚えていない」の一点張り。81歳という高齢を考えると、あながち嘘の供述ではないかもしれませんが、事故に気づかないようなドライバーが路上に出ていては、危険この上ありません。過去のコネタでも触れた通り、運転免許証が生涯有効であるからこそ、自ら引き際を見極める判断力と勇気が求められるのです。

さて、当て逃げ事故の翌日、近所のおじさんから「新聞見たぞ!」と声を掛けられて気づいたのですが、事故の経過が地元紙に詳しく掲載されており、不謹慎ながら記念に2部も買ってしまいました。そして、正義の味方である路線バスの運転手さんには、お礼に赤ワインをプレゼントしました。「あくまで仕事が終わってから、飲んで下さいね」と。
(柴山香)