「今日アップで走っているときから、『ウッシー』『ウッシー』ってサポーターが声をかけてくれた。なんでだろうねぇ。アジア人だからかな……」

2月15日、敵地で1−1の引き分けに終わったチャンピオンズリーグ決勝トーナメント初戦、バレンシア戦後、シャルケ04の内田篤人は不思議そうに話した。ちなみにウッシーというのは、チームメイトやサポーターが内田を呼ぶときの愛称だ。

「ウチダとかアツトとか言えないみたいなんだよね」と本人は苦笑いだが、練習中でも「ウッシー、グッドジョブ!!」とチームメイトが叫ぶくらいに定着している。そして、熱狂的なことで有名なサポーターからも内田が認められている証拠なのだ。

大会直前にスタメン落ちしたW杯南アフリカ大会後にドイツへ渡った。鬼軍曹と呼ばれるマガト監督のもと、ハードなキャンプを乗り越えた。しかし、9月の代表戦で足の指を骨折する。スタメンを手にするうえで重要な時期だった。

「やりながら治せるってドクターが言うから、練習は普通にやっていたよ」

負傷を抱えながらも練習に打ち込む内田の姿勢をマガトは評価する。しかし、9月末の試合復帰後は、なかなか思うようなプレーが出来ずに苦しんだ。

「怪我のことは言い訳にしたくないし、怪我が原因でプレー出来ないなら試合に出なければいいからね。あの時期は『自分のプレーが出来ればやれるのに』という気持ちだったけど、それが出来ないでいた。サッカーでも生活面でも余裕がなくて、朝起きたときから『もっと時間をくれよ』という感じ。そんなときにマガトが『お前は才能がある。慣れるまでには時間がかかるのは当然。あせらずにやればいい』と言ってくれて。それで楽になれた」

10月中旬以降はリーグ戦11試合、CL4試合、ドイツカップと先発に定着する。それでも日本代表のアジアカップ出場のためチームを離れる内田に対して、「ポジションは保障されているとは限らない」とマガト監督は告げた。

見事アジアカップ優勝を果たしてドイツへと戻った内田は、ドイツ国内最大のダービーと言われるドルトムント戦に先発する。

「(試合に)出られないかもしれないという覚悟はあった。でも、もしそうなったら、またイチからやり直せばいいやと考えていた。(自分が)チームに居ても居なくてもレギュラー争いは常に激しいし、毎日厳しい競争をしているから、ボーっとしている暇はない」

淡々と話す姿には頼もしさが漂っていた。試合のあとには腕や臀部が痛いと笑うが、その表情に喜びが垣間見える。

「腕は守備するからかな。お尻はピッチが原因なのかもしれないね。僕は一生懸命やらないでいい環境だと、サボっちゃう。だからここ(ドイツ)に来た。海外でプレーする理由に『サッカーがうまくなりたい』という選手もいるだろうけど、俺は『勝ちたい』だね。下手でも勝つほうがいい」

冒頭のバレンシア戦。先制点に繋がるクロスを許したが、その後は相手の攻撃を何度もヘディングなどで跳ね返し続けた。

「ゴール前の守備、跳ね返すとか競り合いとかは、かなり良くなってきている。でかい相手でもポイントとタイミングがしっかり合えば、競れるなっていう手ごたえはある」と自信を見せた。

「なんで海外ってアウェイとホームでこんなに違うのかな。雰囲気というか。ブンデスもそうだけど、アウェイだと相手が強いよね。Jリーグだとホームもアウェイもそんなに関係ないけど。同じサッカーをしているんだけど、なんなんだろうね。次は(相手が)アウェイだから、しっかり借りは返したい」

失点に絡んだ悔しさがあるのか、アウェイでの1−1という結果に満足する様子は全くなかった。

そのCLセカンドレグの前には、2位だった昨季の成績を考えると、不本意な成績に低迷している国内リーグ戦もある。そして、3月2日はドイツカップ準決勝のバイエルンミュンヘン戦が、敵地で行われる。

「あの、赤くなるスタジアムに行くのは初めてだよ。ロッベンにリベリーでしょ? 俺も新聞読んでるからね。もちろんドイツ語の新聞だよ、ドイツ語。あぁでも写真だけだけどね(笑)」とおどけたが、昨年のドイツカップでもバイエルンを前にシャルケが散ったことを聞かされると、内田の目が輝いた。その瞳には、プロフットボーラーとしての生活の充実度や手ごたえが漂っていた。(了)

【取材・文/寺野典子】