川頭「(高島氏の部屋を見渡して)それにしても、このパスは壮観ですね」

松山UFCも昔からちゃんとパスを出していたんですね。写真入りパスもありますし」

高島「どうだろう?正直、自分の記者人生がこんなことになると思っていなかったので、最初の頃のパスは捨ててしまっていると思います。顔写真入りパスはMGMの大会ですね。もうUFCにはスポーツ紙まで記者を派遣している。なら、専門誌の人間の役割として、自分は違う場所を求めたくなる」

川頭「開拓していきたいということですか?」

高島「ただ、アフリクションに興味があるかって聞かれると、正直、分からないですね。やはり僕は日本人。日本人ファイターがそこで活躍できる土壌があるのか。それが、まず自分の視線の先にあると思います。まぁ、現地に行くからこそ意見できるという部分でEXCのCBS大会には行ったのですが、やはりリングの中自体にそれほど興味を持つことができない大会は、取材していても――。何にせよ、アフリクションなら自分が行かなくても他に伝えてくれるところが絶対にあるので、それで良いと思っています」

松山「そうですね。僕がMMA PLANETを見ていて感じる一番の強み、一番の説得力は、現場に記者がいること。現場の記者から情報を貰っていることだと思うんですね。全部は見えなくても、どこを切り取るか。ちゃんと人の目を介している。で、これは?(と、あるパスを指差す)」

高島「これは、MFCですね。イーブス・エドワーズと小谷(直之)選手がやった試合ですね。自分がUFCに頻繁に行くようになったのも、ライト級が始まってから。それ以外の大会も、やはりライト級、日本人が活躍できる基盤があると思っていたから。UFCに関して言うと、それ以上の素晴らしさを感じるようになり、従来のグレイシー・シンドロームにくるまれて、ベースにプロレスがある記事では、ちゃんと伝わらないっていうもどかしさは僕の原動力にもなりましたよね」

松山「ブラジルで行なわれていた頃のムンジアルも以前から取材をされていて、茶帯の頃のジャカレイやホジャーの試合も見ている。今ではカリフォルニアで開催されてアクセスも楽になって取材しやすくなったし、ネットにも試合結果が出るようにもなりましたね」

高島「そう。すると、自分の中では少し熱が冷める(笑)。ただ、身近になったからページ数が取れないのかというと、それは違うとおもうんです。よく“編集者が理解してくれないからページが取れない”って若い記者の子は言いますけど、そうじゃなくて、いかに編集者を説得してページを取るか。身近だろうが、辺境だろうが、“こいつに任せたらページが増えるんだ”って思ってもらえるよう、自分が頑張ればという気持ちで頑張ってほしいです」

松山「最初の読者である編集者を説得できなくて、どうやって読者を説得できるんだ、と」

高島「“これを表紙にしなかったら、他の原稿書かない”って、食いっぱぐれるようなことを言うのも、今となってはどうかと思うんですけど(笑)。そのぐらい必死になって、試合を見ていない編集部の人を説得する。そこがスタートだった。だから、川頭さんのようにIFLもWECもOKと即決してくれた人は、本当に稀です(笑)」

川頭「話も尽きませんが(笑)、この辺りで座談会を締めさせて頂きたいと思います。さて、今後、ゴング格闘技&MMA PLANETで、より海外を知ってもらうために、どのようなことを考えられているのか。そこをお伝えてして、この座談会をお開きにさせて頂こうかと思います」

高島「自分は、自分の目で見て、信頼している海外の知人の言葉を信じて、良いと思ったものを媒体を問わず、伝えていきたい。それしかないです。あと自分も年寄りなので、早くバトンタッチがしたい。若い子に、ものおじせず海外で取材をしてほしい。

伝えるのなら、雑誌のなか、PCの画面、YOUTUBEでなく、雰囲気を知ってほしい。読者と同じマテリアルのなかで格闘技を伝えても限界があります。格闘技をサッカーでなく(笑)、食事に例えると、割烹料理もピザも、居酒屋のつまみ、奥さんが作ってくれたご飯、いろいろなものがある。そこで本当の味って、高級料亭なのか、子供が笑っているダイニングなのか、騒々しいカウンター席なのか、その場の雰囲気と調和してこそ生まれるもの。美味しいご飯を伝えるのなら、食材や分量だけでなく、食す場を知る。雰囲気を大切にしてほしい」

松山「僕は、入り口としては、まずはテキスト速報でも動画でもいいから興味をもってもらうこと。そこにMMA PLANETのように現場を直に見た人間の目が介されている文章があれば、自分の見方との違いを感じることができる。そこから、雑誌メディアとしては、取材者の特権である選手本人や関係者に話しを聞くことが出来るし、ジムに足を運ぶことができる。そこで、実際にマットに上がるまで、そしてマット上で何が起きていたのか、選手がどんな思いで戦ってきたのかを伝えたい。それは、格闘技の奥深さとそれを知る楽しさの部分。アメリカのボールパークのフェンウェイにあるグリーンモンスター(※)じゃないけど、オクタゴンの大きさひとつをとっても団体によって異なるし、角がないケージもある。

それに、煽りVもシンプルだけど、ダナ・ホワイト代表や解説のジョー・ローガンが見どころをアツく語るビデオは、個人的にはウェット過ぎないアメリカで見ると心地良い作りだと感じる部分もあるし、大会の休息前に流される試合ハイライトは、これでもか、というくらいエモーショナルだったりする。その空気も伝えることで、読者が『一度、生で見に行こうか』と腰を上げてくれたら大成功。『久しぶりに後楽園ホールで格闘技を生観戦するか』でもいい。そしてついでにプロモーションにも『この選手、面白そうだから日本に呼んでみようか』と“無知の強豪”が招聘されたら日本のファンにも楽しんでもらえるかもしれない。どんなメディアも取捨選択がなされているし、そこに主張もある。あとは、自分の目で確かめてもらいたいですね」

川頭「私は、自分達で立ち上げたコンテンツですから、まずはMMA PLANETというブランドをしっかり構築していきたいと思っています。お陰様で、ゴング格闘技さんや、スポーツサイト最大手・スポーツナビさんとの提携も始まりました。これにより、livedoorユーザ、格闘技ファンのみならず、一般スポーツファンへの訴求も大幅に強みを増しました。

こうした動きをとることで、一人でも多くの人の目に留まるようになるのはもちろん、体制や予算なども含めた強化も可能となる。そうなれば、当然、もっと面白い取材やコンテンツ作りもできます。そして、今後も多くのアライアンスを組み、格闘技界のみならず、スポーツ界に食い込んでいきたいですね。とにかく知って貰わないことには始まらないし、最終的には、それが業界の底上げにもなる訳ですから」

※ボストン・レッドソックスのホーム球場フェンウェイ・パークにある特徴的なレフトフェンス

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