目の前に冠水道路、とるべき選択肢は基本ひとつ(オリーブめだか / PIXTA) ※写真はイメージ

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8月13日から14日にかけて、線状降水帯の発生などにより千葉県で記録的な豪雨となった。23日時点で、死者13名、水没車両は1万台を超える可能性もあるという。

水没車が補償を受けるには任意で「車両保険」に加入している必要があるが、その加入割合は全国で47.4%、千葉県では50.5%(※)。2人に一人は自腹を強いられる計算だ。

こうしたことから、任意の車両保険への加入の重要性が改めて注目されたが、それ以前に水没車両に取り残され、車内で亡くなってしまった方もいた。“熱帯化”した日本で、ドライバーが今回の豪雨災害から学ぶべき教訓とは何か。

最優先はもちろん、命を守ることだ。そうした観点から、またいつ発生してもおかしくない豪雨時にドライバーが知っておくべきことを整理してみた。(自動車コラムニスト:山本晋也

※損害保険料率算出機構調べ

保険の水没車はどうなるのか…

千葉県を一瞬にして水没させた今回の豪雨。水没した車両のレッカー移動におけるコストや、その後の修理費用なども話題となっている。

たとえば、雨水が侵入したクルマは、車内が泥だらけになっており、内装のクリーニングや電子パーツの交換などが必要になることが多い。

よほどの高級車や貴重なクルマでもない限り、修理費用が車両の価値を上回ってしまい、実質的な廃車になってしまうことが多い。

その対策として、任意保険において車両保険をつけておくべきという話も出てきている。多くの車両保険は、地震による水没は対象外だが、台風などの天候による水没については保険金給付の対象となっている。そのため、車両保険に入っていたおかげで助かったというオーナーもいることだろう。

今回の千葉の件に限らず、昨今は大雨による雨量が道路や地域の排水能力を超えてしまい、車両が水没するケースも増えてきている。こうした気候に対するリスク管理として車両保険に加入しておくべき、と再確認したユーザーも多いと思う。

被災時、命を守るために取るべき行動

とはいえ、車両保険を云々できるのは大雨後の話でもある。昔から「命あっての物種」というが、豪雨に見舞われたその瞬間においては命を守る行動を最優先するべきだ。

ここでは車両の水没というアクシデントにフォーカスして、注意点を整理していこう。

まずは「水没しないこと」が最優先となる。千葉県線状降水帯による豪雨は発生したのが夕方から夜にかけてという時間帯だったこともあり、前方の状態が不明なままクルマを進めてしまい水没したケースも多かったようだ。

水没と聞くと、いかにも車体が沈んでしまうほど深い水たまりでしか起きない現象と思うかもしれないが、クルマが進めなくなってしまう状態が水没といえる。

そして、基本的に自動車というのはタイヤが水に浸かってしまうと、前進も後退もできなくなる。短い距離であれば、勢いで抜けだせることもあるが、タイヤが半分以上水に浸かっているような状態ではにっちもさっちもいかなくなると認識すべきだ。

アクセルを踏んでいてもクルマが進まなくなったら、クルマを乗り捨ててでも、脱出・避難すべきといえる。その段階でも30cm以上の水深になっているだろうから、非常に危険ではあるが、車内に残ったままで水かさが増えてしまうと本当に逃げられなくなる。

なぜなら、ドアの半分以上までが水に浸かってしまうような状態になると、水圧によってドアが開かなくなるからだ。完全に水没してしまい、車内に水が満ちてしまえば内外の圧力差はなくなるのでドアは開くが、水に浸かった状態で車内が空気で満ちた状態ではドアを開けるのには非常に大きな力が必要になる。

水に浸かったことで電装系が壊れるとパワーウインドウが開かなくなることもある。そうしたケースを想定して、ウインドウを割るための脱出用ハンマーなども売られているので、車内に常備しておくのもいいだろう。窓ガラスを割ることで脱出経路が確保できるからだ。ただし、深い水たまりに服を着たまま入ると溺れてしまうリスクも高まる。クルマから脱出できれば、それで助かるとはいえない難しさもある。

また、マフラーの出口が水没している状態でアクセルをオン/オフすると、その負圧によって水がマフラー内部に吸い込まれてしまう。そうでなくとも、吸気側の入口から水を吸い込むこともある。いずれにしても、水がエンジン内部に達するとエンジンは止まってしまうし、修理には多くの費用がかかることになる。

なお、短い距離ならば勢いで抜け出せることもあると書いたが、クルマの被害を考えると、おすすめはできない。プールに腹から飛び込んだときに大きな衝撃を受けるといった体験をした人は多いだろうが、同じことは勢いよく水に進入したクルマにも起きる。

フロントバンパー、ラジエター、エアコンコンデンサーなどの損傷を防ぐには、たとえ10cm程度の水深であっても、冠水路を走行するときは徐行して、車体への影響を抑えることが重要だ。

車高に余裕のあるSUVは安心の誤解

ちなみに、こうした水没するような天災の報道をみると「車高に余裕のあるSUVを選べば安心だ」といった考えを持つ人もいるようだ。

たしかに、市販されている国産SUVでは、トヨタ・ランドクルーザーが最大渡河水深70cmと高い走破性を誇っているが、それとて最徐行が求められる性能であって、波を立てて勢いよく走らせたりするとトラブルにつながることもある。

まして、セダンやハッチバックと同じ基本設計で、車高を上げただけのクロスオーバーSUVにおいては、タイヤが大径なぶんだけ冠水路走行で余裕がある(かもしれない)といったレベルであり、「SUVだから大丈夫」という過信のほうが危ない。

なお、ハイブリッドカーやEVは水没時に感電するから危険といった見方もあるようだが、単純に水に浸かっただけで漏電するような作りにはなっていないので、安心してほしい。むしろEVはエンジンを積んでいない分だけ、前述したエンジンが水を吸い込むリスクがないといえそうだ。

いずれにしても、自動車は想像する以上に水たまりに弱い、と認識すべきだ。

余談めくが、水が引いたら、すぐにエンジンをかけて水没車両を動かそうとするのはNGだ。電子パーツが濡れた状態でスターターを作動させると各部がショートして致命的な故障につながる可能性がある。クルマのイグニッションはオンにせず、レッカー車で修理工事まで運ぶというのが鉄則となることも覚えておきたい。

■山本 晋也
1969年生まれ。編集者を経て、2000年頃よりフリーランスとして活動開始。過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コラムニストとして執筆活動を継続中。二輪と四輪のいずれも愛車とする視点から次世代モビリティを考察するのもライフワークのひとつ。