永遠の憧れ、アルファ・ロメオ・ジュリア(後編)【日本版編集長コラム#74】
思い出したのは左ハンドルのヴェローチェ
取材車となった限定車、ヴェズヴィオグレーの『アルファ・ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオ・エストレマ』に乗り込んだ瞬間、左ハンドルであることがしっくりきた。思い出したのはそう、2017年に初めて乗った同じ左ハンドルのジュリア・ヴェローチェだ。
【画像】昨年11月に発売された46台の限定車!『アルファ・ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオ・エストレマ』 全51枚
日本の公道で右ハンドルに乗るべきなのは当然の話として、その一方で左ハンドルは本国仕様を正確に味わえるのが魅力。コクピットでポジションを合わせてみると、エストレマのスポーツレザーシートは張り出しがちょうどよく、かつてのクアドリフォリオほど座り心地はハードでなかった。

取材車となった限定車、『アルファ・ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオ・エストレマ』。 平井大介
ディテールを観察すると、シフトノブのイタリア国旗や赤いボタンエンジンスターターボタンが目に入ってきた。そしてステアリングのアルファ・ロメオ・エンブレム! 気持ちが高まるトリガーは数多くあり、動かす前からアルファ・ロメオが長年キーワードとしてきた『クオーレ・スポルティーヴォ(=スポーツ魂)』が呼び起こされるようだ。
乗り出してみると、街中の低速コーナーでも前後バランスよくキレイに曲がるのが伝わってきた。デビューから10年以上経っているが、基本的な運動性能がしっかりしていれば古くならないお手本のように思える。この『ジョルジョ・プラットフォーム』はまさに名作だ。
まるで駆動ロスがゼロのようなスムーズさもジュリアの特徴だが、エストレマはさらに10psアップの520ps/61.2kg-mものハイスペックを持つ後輪駆動。油断大敵……という緊張感もまた、今どきの新車ではなかなか味わえないものだ。
クアドリフォリオはオーバースペック
クアドリフォリオに関して、実は当時オーバースペックだと思っていた。前編で引用したカー・マガジンNo.475の原稿で、私はこう記している。
『ところが、最後に乗ったクアドリフォリオが大問題だった。音がやる気満々なのはさて置き、ツインターボの加速はあっという間にレッドゾーンに達し、とにかく速すぎる……というか、自分のウデと某峠というシチュエーションでは、とてもその速さを引き出せないのだ。

クアドリフォリオに関して、実は当時オーバースペックだと思っていた。 平井大介
サーキットでレースモードにして簡単にクルマを横に向けられる人じゃないと楽しめないとさえ思う。現地試乗記の広報写真にその手のカットがたくさんあったことに、ようやく合点がいった』。
その気持ちは今も変わらないが、一方でこれを『使わない贅沢』だと思えるようになった。年を重ねて50歳代になった筆者は、その余裕を楽しめるようになったのかもしれない。
アクセルを強く踏めば相変わらず圧倒的に速いけれど、いい意味で速度感がないのに驚いた。恐らくシャシーのキャパシティが高いからで、これはよくできたクルマの証ではある。しかし初期モデルで感じた鋭角なナイフのような過激さがなくなり、落ち着いて乗ることができたのだ。
これを熟成と呼ぶなら、その進化の幅たるや半端ない。そして乗っていて思い出したのは、156GTAだった。足まわりや走りの緊張感に似たものがあり、イタリア人が好きなスポーツカー像、正確にはアルファ・ロメオ像が見え隠れする。
完全にジュリアと一体になった
一番よかったのは、DNAモードをD(ダイナミック)にして、同モードで初めて使用できるサスペンションのソフトボタンを押した時。パフォーマンスと乗り味のバランスが絶妙になり、高速道路で状態のよくない路面をキレイに駆け抜けた時、完全にジュリアと一体になった気がした。
「あちゃぁ、これはヤバい! よすぎる!」

DNAモードをDにすると、真ん中のサスペンションソフトボタンを押すことができる。 平井大介
言い回しは違うかもしれないが、ひとり車内で叫んでいたような気がする。その後PAに到着しそのスタイリングを眺め、改めてカッコイイなぁと感心。そこには夢中で約100kmを駆け抜けた、あの日と変わらぬ感動があった。
そこから1週間以上を共にしたわけだが、つい遠回りをしてしまうため、早々に給油を告げる燃料計の警告灯が点いた。最近はEVやハイブリッドの取材が多く、燃料が空になるまで乗ることは意外と少ないのだが、今回はあっという間であった。
これは燃費がよくないという話ではなく、夢中になった結果であることは言うまでもない。アルファ・ロメオは156の時代からリアルタイムで取材し、カー・マガジン、ワールド・カー・ガイド、スクランブル・アーカイブ、そして専門誌『アルフィスタ』などで、多くの編集を担当してきた。
だからこのような感動話は山のようにあり、ずっと感じてきた『クオーレ・スポルティーヴォ』が今もこうして生き続けていることは、感慨深いものがある。
いつまでガソリンを燃やしてスポーツカーに乗れるか、その保障はどこにもない。だからジュリアの生産が続いている間は、リアルタイムで味わい、楽しんでおくべきだと心の底から思う。
残念ながらエストレマを新車で購入するだけの予算は持ちえていないが、この原稿を書きながら何度かジュリアの中古車検索をしたことだけは告白しておこう。
