立花孝志氏が自己破産、負債は12億円超…名誉毀損の賠償もチャラになるの? 弁護士が解説
立花孝志氏が、令和8年(2026年)3月11日、破産手続開始決定を受けたと、自身の公式サイトで発表しました。
同サイトの発表によると、個人の債権者は240名、負債総額は約12億4400万円にのぼります。個人の資産は約1500万円とされていますが、確定申告に伴い1500万円を超える所得税の納税が必要となるため、現時点で配当できる財源はないとのこと。
一方、政治団体「NHKから国民を守る党」(以下、NHK党)は破産せず、私的整理で対応するとされています。「なぜNHK党だけ破産しないのか」「裁判中の賠償責任などもチャラになるのか」など、いろいろな疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。解説してみます。
●「破産」とは?「破産管財人」とは?
破産とは、払いきれない借金について、裁判所の手続きを経て残った財産を債権者(お金を貸している側)に分配し、最終的に債務の責任を免れる(「免責」という)手続きです。
今回は「管財事件」として扱われます。管財事件とは、裁判所から選任された「破産管財人」が、破産を申し立てた人の財産を調査し、債権者に財産を配分したりする手続きです。
破産管財人の板橋弁護士は、立花氏の財産を管理・調査し、債権者に公平に分配する立場です。つまり、立花氏の味方というわけではありません。立花氏への郵便物も管財人に転送され、開封・調査されます。
●なぜNHK党は破産しないのか
NHK党は法人格を持たない「権利能力なき社団」として扱われると考えられます。法人格がないから破産できないのでは、と思うかもしれませんが、権利能力なき社団でも破産手続きを行うことは可能とされています。
法人の場合には、東京地裁では、代表者が個人破産を申し立てる場合、法人と同時に申し立てる運用がされています。財産の混同がないかを管財人が一体的に調査できるようにするためです。
今回は立花孝志氏個人のみの申し立てとなっています。法人の場合と同じに考えるのであれば、この運用を外れていることになりそうです。ただ、法人と同じに考えてよいのかも問題となりますし、運用の問題でもありますので、違法というわけではありません。
なぜNHK党は私的整理を選んだのでしょうか。その理由は必ずしも定かではなく、あくまでも私見になりますが、立花氏本人のサイトの記述などからすると、主に2つの理由が考えられます。
第一に、党の活動継続です。破産は財産を清算する手続きであり、清算されれば組織の活動は困難になります。 つまり、党の存続のためと考えられます。
第二に、少額の債権者への配慮です。立花氏の公式サイトによると、10万円以下、という比較的少額の債権者には満額を支払い、10万円から100万円の債権者には10%+10万円を提案するとしています。
仮にNHK党が破産を選択した場合には、公式サイトによれば、全員が一律10%弱の按分配当になるとされています。つまり、大きな債権を持っている人ほど、より大きな金額の配当を受けられることとなるということになります。
たとえば、1億円の債権を持っている債権者がいたとすれば、10%なら1000万円の配当を受けられます。一方、10万円の債権を持っている債権者は1万円の配当、ということになります。
つまり、少額の債権者にとっては今回の私的整理のほうが有利な条件です。私的整理では、このような柔軟な分配設計が可能です。
もちろん、高額な債権者が黙っていない可能性はあるでしょう。事例は多くありませんが、債権者側から上のような私的整理に異を唱え、債権者平等の原則に従った配当を実現するために破産を申し立てることも考えられなくはありません。
また、もし今後NHK党が、結局破産するような事態になった場合には、少額の債権者への弁済は、支払い不能な状態で特定の債権者を優遇するような弁済をしたものとして、後で取り消されるリスクもあると考えられます。
●管財人は何を調査するのか
管財人は、立花氏個人の財産を調査する中で、NHK党との資金の行き来についても調べることになるでしょう。
個人の財産と党の財産が実質的に混在していたと認められる場合、管財人が個人から党への資金移動が無効だと主張し、取り戻そうとする可能性があります(否認権(ひにんけん)といいます)。
●名誉毀損の損害賠償や罰金もチャラになるのか
立花氏は、名誉毀損をめぐって民事・刑事の訴訟を抱えています。
立花氏は、令和6年(2024年)11月の兵庫県知事選の期間中の言動が名誉毀損にあたるとして刑事で起訴されており、兵庫県の丸尾牧・奥谷謙一両県議からもそれぞれ損害賠償を求める訴訟を提起されています。
仮に立花氏に対するこの請求が認められる場合、これらは免責されるのでしょうか。
免責されると、破産開始決定の前に原因が生じた債権(「破産債権」)について責任を免れます(破産法253条1項)。
名誉毀損行為の時期は令和6年(2024年)11月の知事選中であり、破産申し立ての前と考えられますから、免責の対象になり得る債権です。
ただし、破産法253条1項2号は、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」を、免責されない債権(「非免責債権」)として定めています。
ここでいう「悪意」は、「故意を超えた積極的な加害意思(害意)」を意味すると解されています。
単に誤った事実を述べたのではなく、たとえば他人を傷つける意欲を持って行動したか、といった点が問われます。
丸尾議員への損害賠償訴訟では、令和8年(2026年)1月、神戸地裁尼崎支部が「デマを用いてでも世論を誘導しよう」とする行為と認定し、立花氏に330万円の支払いを命じる判決を下したと報じられています(立花氏は控訴中)。
このような認定が控訴審でも維持されれば、2号の「悪意の不法行為」に該当すると判断され、免責されない可能性もありそうです。
次に、刑事事件についてですが、仮に有罪判決で罰金刑が確定した場合、この罰金は免責されません(破産法253条1項7号)。
なお、今回の刑事裁判では、有罪判決であれば罰金刑よりも拘禁刑(懲役刑)のリスクの方が高いとは思います。
●破産しても選挙権・政治活動には影響はない
「破産したら選挙に出られなくなるのでは」と思う方もいるでしょう。
しかし、現行の公職選挙法11条が定める選挙権・被選挙権の欠格事由に「破産者」は含まれていません。
NHK党の政治団体としての資格についても同様です。
政治資金規正法3条は、政治団体を「目的と活動の実態」で定義しており、財務状況は資格要件ではありません。
仮にNHK党が破産した場合でも、解散の届出(政治資金規正法17条)をしない限り、政治団体としての登録は維持されます。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)
