東京23区における中古マンションの平均希望売り出し価格は、1億円を超えている。もう家を買うことはできないのか。長年「住みここちランキング」に携わってきた麗澤大学教授の宗健さんは「平均にイメージを引きずられてはいけない。都心のタワーマンションには1億どころか2億、5億といった物件もあり、そうした超高額物件が平均値を引き上げている」という――。
写真=iStock.com/kokoroyuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokoroyuki

■日本では持ち家が多数派

持ち家vs賃貸論争は、アクセスが稼げる鉄板ネタのようで多くの動画や解説がネットにある。そして、「どちらがいいかは個人の価値観や暮らし方によるから結論はない」という意見も多い。

しかし、一部にある持ち家はリスクであり賃貸を選ぶべきだ、という強い主張とは別に、世の中では、持ち家が多数派だ、という動かせない事実がある。

2023年の住宅・土地統計調査によれば、全世帯の持ち家率は60.9%で過半数を占め、60歳以上の持ち家率は79.6%だ。要は、日本国民は持ち家を支持している、ということだ。

そして、当然だが政治は多数派を前提に国の制度を作っていく。

現実には、持ち家派が多数派だから、年金も社会保障も住宅ローン減税も、持ち家を前提に作られていく。

賃貸派のメディアなどでの発信の多さとは関係なく、日本社会は持ち家に軍配を上げているのだ。

※ 本稿では持ち家のほうが賃貸よりも総合的に考えればオススメであり、買えるのであれば家を買った方がいいと言っているだけで、賃貸住宅そのものを否定しているわけではないことは強調しておきたい。世の中には賃貸住宅を必要としている人たちがいて、ビジネスとして賃貸住宅を供給、経営している人たちがいる。賃貸住宅は社会的に必要とされている存在であり、賃貸住宅事業は社会的意義のあるものだ。そして賃貸住宅事業に携わっていることと、考え方として持ち家を支持するか賃貸を支持するかは全く関係がない。

■持ち家の7つのメリット

持ち家のメリットを箇条書きにすると以下のようになる。

? 住宅ローンには、団体信用生命保険(団信)が付帯している。

借主が死亡したらローン支払いが無くなり、残された家族は家の心配がなくなる。団信の保険料は金利に含まれていることが多く、保険料自体も、個人で別途、死亡保険を契約するよりも抑えやすい。この安心感は大きい。

? 持ち家には、高齢時にも住み続けられるという安心感がある。

日本の借地借家法では、賃借権は相続されるため、高齢者は借りにくい。実際、借りられなくて困っているという話は多い。

持ち家の場合は、住宅ローンが終われば非常に少ない負担で住み続けられるという安心感が大きい。その意味では持ち家とはいわば、強制積み立ての個人年金のようなものだ、とも言える。住宅ローンが保険料で、配当は老後の家賃無料特典、ということだ。

? 場所や面積、品質などが同じなら賃貸よりも持ち家のほうが、一定期間のキャッシュアウトが少ないことがほとんど。

家賃には、そうした名目で請求されていないだけで、固定資産税や補修費など持ち家で発生する費用も含まれている。加えて、持ち家では発生しない滞納リスク、空室リスク、広告料、仲介手数料、管理料、家主の利益、持ち家よりも高いローン金利、持ち家よりも短い借入期間によるローン返済などさまざまな費用が含まれている。

さらに持ち家の住宅ローンは、金利が優遇されており、現在は減税もあり、メリットが大きい。

■一生の間の支払額に圧倒的な差

? 一生の間の総支払額は、持ち家のほうが圧倒的に少ない。

持ち家の価値がたとえゼロになったとしてもそうなる。

持ち家と賃貸の負担を比較したSUUMOの記事(「持ち家vs賃貸はどっちが得?老後に備えて比較、メリット、デメリットを確認」)を一例として見てみよう。持ち家と賃貸での30歳からの50年間にかかる費用を比較すると、持ち家のほうが約1000万円低い結果になっている。

また、この記事では80歳までローンを支払う想定だが、妻が5歳下の場合、ローン完済時には妻75歳だ。女性の平均余命の90歳までの15年間を入れると、持ち家のほうがさらに有利になる。不動産価格がゼロになったとしても、そしてその処分費用を数百万見込んだとしても、持ち家の総支払額が賃貸よりも高くなることはない。

別の言い方をすれば、持ち家とは自分自身を対象とした極めて確実性の高い賃貸事業だ。その事業の利益が全て自分のものになる、ということだ。

写真=iStock.com/sommart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sommart

■年金は持ち家が前提の制度設計

? 国民年金も厚生年金も持ち家を前提に制度設計がなされている。

年金では8割の人が持ち家という前提だから、実質的には家賃がほどんど考慮されていない。厚生労働省の国民年金についてのパンフレットでは、標準的な65歳夫婦の1カ月の生活費が約25万と記載されているが、そのうち住居費は約1万5000円とされている。

これは明らかに持ち家を前提にしている。そして、厚生労働省の「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、平均支給月額は、厚生年金が約14万7000円、国民年金が約5万8000円となっている。

? 持ち家にはインフレ耐性がある。

家賃には粘着性があり、インフレしたらすぐに上がるものではないが、2年ごとの契約更新や住み替え時には確実に上がっていく。

持ち家の住宅ローン金利もインフレ時には上がっていくが、その上昇速度は、過去のデータを見ると消費者物価指数の上昇よりも遅れる傾向にある。

そして、金利は上昇しても借り入れ元本は変わらないから、相対的に借入負担は小さくなっていく。また、インフレ時には不動産価格が上昇する。これは常に全国で起きるものではないが、ここ最近の都市部のマンション価格の上昇を考えれば、買っておいた人の資産が大きく増えたことは明らかだ。これがインフレ耐性と呼ばれるもので、インフレ時には、現物資産である、金や不動産が強いと言われるゆえんである。

また、インフレ時には不動産価格が上昇する。これは常に全国で起きるものではないが、ここ最近の都市部のマンション価格の上昇を考えれば、買っておいた人の資産が大きく増えたことは明らかだ。

■金銭換算できない「情緒価値」

? 金銭換算できない価値がある。

住宅には、おもに資産価値、使用価値、情緒価値の3つがある。資産価値とは金銭的なもの、使用価値は住む場所がある、便利に暮らせるという価値だ。

そして情緒価値には、高齢時に非常に少ない負担で住み続けられるという安心感、人生をここで送ってきたという愛着、壁にフックを付けたり少々汚したりしても気にしなくて良いといった気軽さなど、多くの要素がある。こうした、金銭換算しにくい要素も大きい。

写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

ただし、この部分の評価は人によって大きく異なる場合もある。

さらに、これは持ち家のメリットというわけではないが、住宅ローンを借りられるというのは、人々が持つ能力のひとつであることも認識する必要がある。語学に堪能、数学が得意、コミュニケーション能力に長けている、忍耐力や集中力がある、リーダーシップがある、といった個人の能力と同じだ。だとすれば、せっかくの能力は生かした方がいい。

そして、住宅ローンは、お金を借りるという意味では非常に有利だ。35年以上もの長期間で、低い金利でしかも固定金利を選べるというのは住宅ローンだけだ。

■「賃貸派の主張」への8つの反論

賃貸派の主張への反論を箇条書きにすると以下のようになる。

? 空き家が社会問題化するほど多いのだからいずれ借りやすくなる、家賃も安くなる。

実際には都市部を中心に多くの地域でそうはならない。なぜなら実際には空き家がそんなに多くないからだ。筆者の研究では空き家が800万戸以上あるというのは過大推計であり、実際の空き家数は半数以下である可能性があることが示されている。また空き家率が家賃に与える影響も非常に少ない、という研究結果になっている。

? 隣に変な人がいても持ち家は引っ越せない。

持ち家は引っ越せない、ということは全くない。確かに簡単に売れない場所はあるが、都市部ではすぐに売れるし、もし売れなくても貸せばいいだけだ。

地方で借り手が見つからない、というのはとてもそのままでは住めないような築数十年の物件の場合で、築20年以内であれば、多くの場所で借り手は見つかるはずだ。

そして、ほとんどの場合、銀行に申告してローン金利が多少上がったとしても住宅ローンや管理費、固定資産税を賄うことができるだけの家賃で貸せる。

■失業、離婚、予期せぬリスクは…

? 賃貸ならいつでも自由に引っ越せる。

持ち家でも、いつでも自由に引っ越せる。引っ越し先が賃貸なら、元の家が賃貸でも持ち家でも手間も費用も同じだ。また、自由に引っ越せるとはいえ、家賃10万円なら、前家賃、仲介手数料、敷金、引っ越し代などで数十万円の費用がかかる。

持ち家の場合は、引っ越した後、貸すか、売るか、そのままにしておくか、といった問題が残るが、それは自由に引っ越せるかどうかとは、基本的には関係がない。

? 離婚などで売るとき損する。

バブル崩壊後は確かに損することも多かったが、少なくともここ10年くらいの都市部では売却してローンを精算できなかったというケースはかなり少ない。

? 失業したりしてローンを返せなかったら持ち家は大変なことになる。

失業したりする確率を考慮していない。実際には、いきなり失業して住宅ローンが払えなくなって家計が破綻することは少ない。なぜなら、普通はある程度の貯蓄があり、失業しても次の仕事が長期間見つからない、というケースがあまり多くないからだ。

また、払えないという意味では、家賃滞納率のほうが住宅ローンの滞納率よりも遙かに高い。

写真=iStock.com/AndreyPopov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndreyPopov

■「平均価格1億円」の実態

? 住宅ローン分を投資に回したほうが有利。

少なくとも住宅ローンと同じだけの金額を投資のために借りることは普通の個人にはできない。

また、住宅ローンは含み損が出ても住み続けている限り大きな問題は起きないが、投資の場合は絶対に元本割れしないという保証はなく、実際、リスクの高い取引も少なくない。

? 平均価格が1億円を超えた現状ではもう買えない。

東京23区の中古マンションの平均価格が1億円を超えたことが大きなニュースになった。東京23区の新築マンションの平均価格が1億円を超えたのは2023年だが、中古も2025年5月に1億円を超えた。

ただし、「平均」にイメージを引きずられてはいけない。東京23区でマンション価格が高騰しているのは、都心のタワーマンションが中心で、1億どころか2億、5億といった物件もあり、そうした超高額物件が平均値を引き上げている。

実際の取引状況はある程度公開されており、国土交通大臣が指定する不動産事業者が物件情報を登録するための指定流通機構である、東日本不動産流通機構の公開データで、2025年7月〜9月の東京都の中古マンション成約件数を価格別に見ると、5000万円未満が48.1%を占め、1億以上は18.4%となっている。

平均価格が1億を超えたからといって、多くの物件が1億近くというわけではなく、場所にもよるが、まだまだ購入可能な物件は多く存在する。

■「賃貸→持ち家」の住み替えは高齢になると困難

? 経済学的には持ち家も賃貸も差がない。

確かに、ミクロ経済学では、市場が完全競争で、借入金利や税制などに歪みがなく、金銭価値以外の効用も考慮すれば、持ち家・賃貸の効用は同じ=差がない、とされている。

しかし、実際には、持ち家と賃貸で金利が違い、持ち家には減税があり、借地借家法によって高齢者は借りにくいなどの市場の歪みがあるため、持ち家と賃貸に差がない、という理想状態にはなっていない。

ここまで持ち家と賃貸について、様々な観点から述べてきたが、どうしてもお金を借りたくないという場合や、なんらかの事情があって家を買えない場合もある。

また、学生や若い社会人や、社宅が用意されている場合など、無理に持ち家を買わなくても良い場合ももちろんある。

本稿の趣旨も、持ち家に固執して賃貸住宅を否定するものではもとよりなく、価値観によって賃貸住宅を選択することを否定するものでもない。

ただし、持ち家から賃貸に住み替えるのは50歳くらいになっても比較的容易に可能だが、賃貸から持ち家に住み替えるのは、年齢が上がると住宅ローンの借入期間が短くなることが制約条件になる、ということには注意が必要だ。

また、本稿では持ち家のメリットと賃貸派主張への反論という形を取っているが、賃貸のメリットと持ち家派主張への反論、といったものも議論の形としてはあり得るだろう。

最終的な判断は、もちろん個々人が行うものだが、持ち家か賃貸かを考えるときに、本稿が少しでも参考になれば幸いである。

----------
宗 健(そう・たけし)
麗澤大学工学部教授
博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。
----------

(麗澤大学工学部教授 宗 健)