野球日本の金メダルの道を断った豪州の衝撃 当事者が振り返る04年アテネ五輪「ちょうどその頃は…」
プレミア12の豪州代表、ロイドコーチが持つWS優勝リングと銀メダル
野球の国際大会「ラグザス presents 第3回 WBSC プレミア12」に出場する日本代表「侍ジャパン」は13日、名古屋市のバンテリンドームで豪州との初戦を迎える。2019年に行われた前回大会をはじめ、その後の東京五輪や昨春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも頂点に立った日本は、堂々の優勝候補。それでも何が起こるかわからないのが国際大会だ。ちょうど20年前のアテネ五輪、金メダルを課された日本代表は豪州代表に準決勝で敗れ、その道を断たれた。当時ベテラン左腕だったグライム・ロイド氏は、今回侍と戦う豪州代表の投手コーチ。一体何が起きていたのか振り返ってくれた。
2004年8月24日、ギリシャ・アテネで日本代表は悔し涙を流し、豪州代表は歓喜に沸いた。両国が激突した五輪準決勝の結果は、1-0で豪州の勝利。豪州は6回に奪った虎の子の1点を、のちに阪神入りするクリス・オクスプリングとジェフ・ウィリアムスのリレーで守った。福留孝介、城島健司、高橋由伸といったプロ野球のスターが並ぶ日本打線は、5安打無得点、8三振に終わった。豪州は決勝でキューバに2-6で敗れたものの、銀メダルに輝いた。
この時、豪州代表の一員だったのがロイドコーチだ。ブルワーズやヤンキースなどで大リーグ通算568試合登板。1996年、98年にはヤンキースでワールドシリーズ制覇も経験している。2003年限りで米国を離れ、この五輪チームに加わっていた。当時と変わらぬ鋭い視線で語ってくれたのは、国を代表して戦う喜び。五輪の銀メダルは、ワールドシリーズの優勝リングよりもはるかに重いと言い切る。
「私はオーストラリアのためにプレーすること、全員オーストラリア人のチームメートと国のためにプレーすることを本当に楽しんでいた。その心に及ぶものはないね。大リーグにたどり着けたのは素晴らしかったし、個人としては素敵なことだったが、国のためにプレーすることは何にも代えがたいものだよ」
豪州は2000年、自国開催のシドニー五輪にも出場していたが、予選ラウンド8か国中7位で敗退。それだけに4年後の躍進は日本を、世界を驚かせた。そして勝った豪州の選手たちにとっては、今にもつながる大きな意味があった。「日本に一度ショックを与えられたね」と笑うロイド氏は「日本に勝てたのは、私たちにとって非常に大きなことだった。オーストラリアの野球にとって重要なマイルストーンだ。私たちも日本を倒せる、世界最高のチームを倒せるんだ。それをまたできたら嬉しいよね」。自分たちはできると信じられる記憶があることは、現在の選手たちの力にもなる。
豪州を進化させる日本野球…快挙再びと信じられる理由
当時のチームは、予選リーグでも日本に9-4で圧勝している。なぜ、このような快挙を達成できたのか。ロイド氏は「ちょうどその頃は、メジャーを経験していたり、その途上にいるような最高の選手たちがいたんだ。当時のチームはかなり選手が揃っていた。残念ながら金メダルを獲得することはできなかったが、日本を倒して決勝に進んだことは一生忘れない経験だった」と、選手の育成サイクルが最高の形で噛み合っていたとする。今回の代表監督で、ブルワーズの主力打者だったデーブ・ニルソンが中軸に座り、投手陣にものちにNPBや大リーグでプレーする選手が揃っていた。
それから20年、豪州代表は再びいい流れをつかみかけている。当時の記憶が残るコーチ陣が、若い世代に技術とハートを植え付けている。「野球はこの20年で大きく変わったよ。よりデータ分析を重要視するようになった」というロイド氏。自身とニルソン監督は「少しオールドスクールな人間だと思うよ」と笑うが、その下の世代にあたるコーチはデータも駆使して、豪州野球の近代化に努めている。「オールドとニューのコーチが一緒になっているんだ。将来的に成功を生み出すために、いい混ざりあいだと思っている」。新たな快挙は、ひょっとしたらこの大会で達成されるかもしれない。
ロイド氏やニルソン監督のように、豪州から大リーグに飛び出し、一流と呼ばれる数字を残す選手が減っている現状も、ロイド氏は「タイミング」だと意に介さない。今回の代表には、豪州出身として初の全米ドラフト1位指名を受けたトラビス・バザーナ(ガーディアンズ)も加わっている。「メジャーにたどり着こうとしている彼らを見てみてよ。またいい流れが、近いうちに起こることを願っているよ」。球界あげての努力が報われる日は近いと見ている。
豪州の野球は、地理的に近い日本の影響も受けながら発展してきた。今年もまもなく開幕するウィンターリーグに、NPBの5球団から計15人が参加する。ロイド氏にはメルボルン・エイシズのベンチコーチという顔もあり、日本野球との交流が進むことには感謝しかないという。
「助けにしかならないよ。日本でスーパースターになる若い選手たちを迎えられるのは素晴らしいこと。日本式のピッチング、異なるタイプの投手を見られるのはオーストラリアの選手にとって素晴らしいこと」。今大会では、注目される初戦で日本と当たる。恩返しの1勝があっても、決しておかしくない。
(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)