「肺結核」を発症しやすい人の特徴はご存知ですか? 原因・症状を併せて医師が解説
監修医師:
高宮 新之介(医師)
昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器外科を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院生理学講座生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。
肺結核の概要
肺結核は結核菌に感染した時に発症する、代表的な症状です。
かつては不治の感染症で「亡国病」と呼ばれていました。しかし1947年にストレプトマイシン療法が開始され、化学治療できる病気になりました。
医療機関と保健所、行政の努力の甲斐あって、2021年には10万人あたり患者数10人以下の低蔓延国になりました。
結核菌は治療には時間がかかりますが、適切な治療で完治が可能です。
しかし長期間の入院と通院、薬の副作用など、患者さんにとっては大きな負担になります。
結核は医療費公費負担制度が適用され、治療費の大半が助成されます。治療費の不安はありませんが、薬の副作用と治療期間の長さ、服用の面倒さが最大の障壁です。
そのため治療を無理なく続けられる環境を作ることも、肺結核治療に求められます。
保健師と提携して治療の継続、薬の服用忘れを防ぐための確認など、切れ目のない治療とサポートが欠かせません。
結核は感染症法の2類感染症です。感染を確認したら、ただちに最寄りの保健所への報告が義務付けられています。(感染症法第12条第1項)
肺結核の原因
結核菌は、感染者の咳やくしゃみによって空気中に放出され、その際に飛沫核が生じます。この飛沫核が空気中を漂い、他者が吸い込むことで空気感染(飛沫核感染)します。
結核菌は増殖が遅く、肺胞に到達してもただちに発症することは稀です。
発症までに数週間から数年、あるいはさらに長期間かかることがあります。たとえ発病しても排菌しなければ、周囲に感染しません。
結核菌は、免疫機構により抑え込まれることがあり(潜在性結核感染症)、その場合、菌は潜伏状態で体内に残り、ただちに発病することはありませんが、免疫が低下すると再び発病する可能性があります(二次疾患)。
結核は肺結核という形で始まることが多く、定期健診の胸部X線検査で発見されることがあります。
肺結核の前兆や初期症状について
肺結核の初期症状は風邪に似ています。2週間以上続く咳や痰、倦怠感、体重減少、微熱(37~38℃程度)が続くなどがおもな症状です。
乳幼児から高齢者まで、世代を問わず「2週間咳が止まらない」「痰が止まらない」場合は、ただちに不織布マスクを着用のうえ、呼吸器内科を受診しましょう。
結核は感染しても免疫で抑えられることが多く、感染しても生涯発症しない方も多いです。しかし免疫力が低下している人(HIV、糖尿病、免疫抑制療法など)は、潜伏感染から結核を発症するリスクが著しく高まります。
肺結核の検査・診断
肺結核は確定診断までに多くの手順を踏まねばなりません。
肺結核は多角的な方法で検査を行います。肺のCT検査、感染時に免疫機構が出すインターフェロン値を測るIGRA検査、痰の細菌を培養して判定する結核菌検査が主な検査です。
結核菌の感染の有無を調べるにはツベルクリン反応、IGRA検査を行います。
CT検査
CT(コンピューター断層撮影)は、肺結核や他の肺疾患の診断において非常に有効な検査手段です。
X線よりも詳細な肺の断面画像が得られるため、病変の形状や位置、広がりを正確に把握することができます。
小結節影(結節性陰影)
>結核や非結核性抗酸菌症(NTM)など、肺における小さな結節を識別します。これは、感染や炎症による病変を示す重要な指標です。
空洞形成
結核の進行した段階では、肺に空洞が形成されることがあります。CTはこの空洞形成をより明確に描出し、結核の活動性や重症度を評価するために重要です。
すりガラス影
肺の一部が白く薄い影として現れる所見で、結核を含む感染症や炎症による初期病変を示すことが多いです。これはX線では捉えにくい微細な病変も捉えることができます。
胸部X線検査
多くの結核菌感染は肺に現れます。自覚症状がなくても、定期検診の胸部X線検査で見つかることもあります。
画像に粒状影など、特徴的な影が現れるのが特徴です。
しかし、画像検査だけでは肺結核か非結核性抗酸菌症(NTM症:Non Tuberculous Mycobacteriosis、以下NTM)かを区別することは困難です。
NTMは結核菌と同じ抗酸菌属に属する別種の菌によって引き起こされる疾患で、近年、増加傾向にあります。
症状は結核と類似していますが、進行が遅いことが多く、他者への感染リスクは低いとされています。また、NTMの治療には長期間を要し、現在のところ治療の成功率や再発リスクに課題が残っている点が、結核とは異なる特徴です。
結核とNTMを正確に区別するためには、喀痰培養やPCR検査などの結核菌検査が不可欠です。
感染の有無を確認する検査(IGRA検査)
血液検査で行う検査法です。結核菌に特異的な抗原を用い、産出されたインターフェロンγ産生量を測定します。
BCG接種の偽陽性を防ぎ、高い精度で感染の有無を検査できます。
結核菌検査
結核菌検査は主に喀痰を調べ、活動性結核の確定診断に用いられます。喀痰を3回採取し、結核菌が検出された場合、活動性結核と診断されます。
塗抹検査(顕微鏡検査)
喀痰を染色して顕微鏡で確認する検査です。抗酸菌(マイコバクテリウム属)の有無を調べることができます。
結核菌は抗酸菌の一種で、ハンセン病、NTMも抗酸菌です。この時点ではまだ肺結核と確定できませんが、強い疑いがあると考えます。
塗抹で菌が検出されるのは、他者に感染させるリスクが高い状態です。ただちに隔離、入院する必要があります。
培養検査
検体を培地に入れ、増幅して結核菌の有無を調べる検査です。塗抹検査では判別できない結核菌とそのほかの菌の区別、多剤耐性結核菌かを判定します。
従来型の培養(小川培養)は30~60日、液体培養(MGIT)は10~14日の期間が必要です。
核酸増幅検査(PCR検査)
細菌の細胞に含まれる核酸を、特殊な薬剤で増幅させる方法です。COVID-19の流行で一般的になった検査で、早ければ数時間で確定できます。
迅速に診断結果が得られますが、死菌が含まれていても陽性になる可能性があるため、他の検査と組み合わせて診断を確定する必要があります。
肺結核の治療
結核の治療は抗結核薬(抗生剤)の長期服用です。
標準治療では6ヶ月間投薬を行います。最初にリファンピシン、イソニアジドを軸に4剤を使い結核菌を大幅に減らします。
続いて2~3剤を用い、わずかに残った結核菌を殺菌します。
結核治療では、1つの薬剤だけ使うとやがて、薬剤耐性菌が生まれます。薬剤耐性菌は効果のある薬が減り、治療が困難になります。
特に、多くの抗結核薬に耐性がある多剤耐性結核は治療が難しく、完治するまで数年以上加療を続けることがあります。治療の甲斐なく亡くなることもある、危険な結核菌です。
現在、抗結核薬は10種類を越えます。薬剤耐性菌を生まないために、たとえ症状が消えても、必ず決められた期間服用することが、治療で最も重要です。
薬剤の副作用で肝障害、末端神経炎、視力、聴力障害などが起こることがあります。副作用が強い場合は、適切な加療を施すことが必要です。
薬の飲み忘れを防ぐため、入院中は看護師が、通院中は保健師が患者さんの服用を目視などで確認します(DOT)。
結核治療は保健所との連携が欠かせません。
耐性結核は、通常の治療よりも多種の薬を長期間服用します。症状が悪化した際は肺切除など外科的治療を行うことがあり、結果亡くなることもあります。
肺結核になりやすい人・予防の方法
結核菌は健康な人が感染しても、免疫で抑えられる間は発病しません。
肺結核になりやすい人は免疫が弱い人です。BCGを接種していない小児、高齢者、糖尿病の患者さん、不摂生な生活を続けている方などが挙げられます。
抗がん剤、ステロイド長期使用者、人工透析を受ける患者さんもハイリスク群です。
HIVなど免疫疾患の方は、重症化しやすく、特に注意が必要です。
症状が出てから長期間放置しやすいのは、30~59歳の患者さんです。
仕事の都合などでなかなか医療機関を受診せず、症状が悪化し集団感染することがあります。
外国出生者の患者さんも増えています。
外国出生者は若年者であっても患者になるリスクが高く、平成12年は全患者数の約5%だったのが、平成22年には約12%まで増加しています。
外国出生者の患者数も増え、平成18年には1,667名に達しています。
医療従事者もハイリスク群です。
2020年の潜在性結核感染症新規登録者数における医療職(看護師・保健師、医師、そのほか医療職)の割合は19.4%もあります。
割合は以前に比べ下がっていますが、今後も適正な防疫体制が欠かせません。
N95マスク着用、手指消毒、換気など、基礎的な感染対策を怠らないことで感染リスクを下げます。
ホームレス、日雇い労働者もハイリスク群です。
地域別では、伝統的に大阪府(結核罹患率10万人あたり13.3人)、特に大阪市は高蔓延地域です。
2021年調査では長崎県が最も多く、13.5人を記録しました。徳島県、沖縄県、愛知県も高い数値です。
最大の予防法はワクチン接種です。
乳幼児期にBCGを接種すると、結核の発症は52~74%程度、重篤な髄膜炎や全身性の結核は64~78%程度予防することができると報告されています。効果は10~15年と考えられています。
BCG接種をしても発病は抑えられますが、感染は防げません。
個人でできる予防は規則正しい生活を送り、免疫を保つことが唯一の方法です。
禁煙、飲酒をできるだけ控えることも大切です。毎年定期健診を行い、胸部X線検査を受け早期発見につなげましょう。
排菌している患者さんはサージカルマスクの着用、換気の徹底を行い、他者への感染を防ぐことが求められます。
多剤耐性結核の増加、感染者の高齢化、旅行や移民の増加による結核リスクの上昇は今後も懸念される要因です。
参考文献
公益財団法人結核予防会結核研究所「結核の基礎知識」
国立感染症研究所結核の法的取扱いの変遷(結核予防法, 感染症法)
東京都医療機関における結核対策の手引
厚生労働省2020年結核登録者情報調査年報集計結果について
首相官邸結核対策