【天皇賞・秋】忘れえぬ、弾丸のような王者の走り ドウデュースが武豊とともにタイトル奪取!

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天皇賞・秋 武豊騎手騎乗のドウデュースが優勝(c)SANKEI

「まるで弾丸だ」――今年の天皇賞(秋)、最後の直線を疾走するドウデュースの姿を見て、筆者は率直にそう思った。

ただ、ドウデュースが弾丸のような走りをしたのはこの日が初めてではない。もっと昔に見た憶えがある。

...思い出したのは2年前のダービーだ。まだ3歳だったドウデュースは最後の直線で進路を求めて大外に出て、残り300mを過ぎた辺りで鞍上・武豊が左鞭を入れられると鋭く反応。

それまで後方にいたドウデュースはあっという間にトップスピードになり、残り200mを過ぎには先頭に立って迫りくるイクイノックスの追撃を凌いでダービー馬となった。

あの直線での加速はまさに弾丸そのもの。上がり3ハロン33秒7というドウデュースの最大の武器がダービーの直線で炸裂した。

だが、それからのドウデュースはこの時のような切れ味を見せることはなくなったように思う。

凱旋門賞を目指して挑んだフランス遠征では道悪馬場に持ち味を殺され、昨秋の天皇賞(秋)、ジャパンCは急造コンビとなった戸崎圭太とのタッグで勝ち切れず。

武豊とともに復活の勝利を挙げた有馬記念はタイトルホルダー、スターズオンアースとの競り合いとなり、末脚のキレというよりもダービー馬の意地、類まれな勝負根性が勝因になったように感じる内容。

そして5歳になった今年はというと2戦とも馬券圏外に敗れていた。

「もう、あの時の弾丸のような走りをするドウデュースは見られないのか」...今年の天皇賞(秋)のレース前、そんなことを考えていた。

ダービー馬ドウデュースと1つ下の三冠牝馬、リバティアイランドとの一騎打ちと目されていた今年の天皇賞(秋)。

どちらもこのレースが秋緒戦となるため、その雄姿を一目見ようと、東京競馬場には7万人もの大観衆が集まり、各馬に熱視線を送った。

馬体重発表と同時に大きなざわめきが起こったのは1番人気のリバティアイランド。発表された馬体重は492キロ。

前走が海外のレースだったため比較ができないが、昨秋のジャパンCと比べるとプラス22キロにもなる。大幅な馬体増は成長分なのか、それとも太目残りなのかとパドックで彼女を見たファンたちはさまざまな感想を抱いて、馬券検討に入っていた。

そうした空気の中を歩いていたドウデュースはと言うと、前走の宝塚記念時と比べるとマイナス4キロとなる504キロ。

丸みを帯びた流線型のフォルムは美しいの一言につき、「サラブレッドは芸術品」という格言を地で行くかのよう。オーソドックスな鹿毛で特別目立つわけではないが、出走全15頭と見比べても馬体の美しさは頭一つ抜けているように思えた。

そんな美しい馬体を持つドウデュースは数分後、自らの走りでファンに感動を与えた。

ニシノレグラントが出遅れた中、ホウオウビスケッツ、シルトホルン、そしてベラジオオペラといった4歳勢が先手を取りに行きペースを握る展開に。

先行争いをする4歳牡馬たちのすぐ後ろに同世代の牝馬であるリバティアイランドが付けて、その隣に同い年のダービー馬タスティエーラがマークする形で動いて行った。

忙しそうな前を見ながら......という形でドウデュースが付けたのはなんと後ろから2番目という位置。

前半1000mの通過タイムが59秒9と例年と比べるとだいぶスローな流れになっているだけに、このポジションでは後ろすぎるように思えたが、鞍上の武豊もドウデュース自身も平然とこの位置で折り合いをつけるかのように走っている。

その姿はまるで「動くには、まだ早いよ」と言わんばかりだ。

大ケヤキを過ぎてもなお、ドウデュースのポジションは後方から2番目のまま。

対照的に先行策を取っていたリバティアイランド、ドウデュースをマークするように少し前に位置していたレーベンスティールらはポジションを徐々に上げていき、最後の直線へと入った。

それまで逃げていたホウオウビスケッツが残り400mを過ぎたところで後続を離すように追い出しに入ると、リバティアイランドがそれを待っていたかのように仕掛けだす。

1番人気の彼女が動いて行ったことで他の馬たちも追い出しに入るが、リバティアイランドに本来の伸びがない。

川田将雅が手綱を押しても鞭を入れても反応は鈍いまま。むしろ前のホウオウビスケッツとの差は広がる一方だった。

このままホウオウビスケッツが大金星を挙げるのかと思われた瞬間、外から飛んできた馬がいた。

それがまさに、ドウデュースだった。

直線を向いた直後、大外に進路を取ったドウデュースは残り200mを迎えるころ、武豊の左鞭が2発入ったところでエンジンが全開に。

まるで弾丸のようと評したように切れ味鋭い末脚であっという間に馬群を飲み込んでいく。その姿は2年前のダービーの直線と全く同じ光景だった。

残り100mを過ぎたころ、逃げるホウオウビスケッツを捕まえてドウデュースは先頭に立つと、最後は内から迫ってきた1つ下のタスティエーラの追撃を1馬身1/4ほど凌いでゴール。

およそ2年ぶりに弾丸のような鋭い走りを府中の直線で爆発させたドウデュースは最高のパートナー・武豊とともに天皇賞のタイトルを掴んでみせた。

「めちゃくちゃ嬉しいです」――

インタビューで開口一番にそう答えた武豊は直線でのドウデュースの走りを聞かれると「『何とか届いてくれ』と思ったけれど、ものすごい末脚だった。この馬本来の末脚を使えたので大丈夫だと思った」と、愛馬をねぎらった。

最後に武豊は「やっとこの馬の力を出すことができて、改めて強い馬だと思った。いいラストシーズンにしたい」と力強く語り、インタビューを締めくくった。

ドウデュースの弾丸のような走りが見られるのはこの秋だけ。その最後の瞬間まで目に焼き付けておきたいと心から思う、会心のレースだった。


■文/福嶌弘

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