あの名番組の人気コーナーが法廷で再現された。「空耳」が争点となった強盗事件裁判で18日、東京地裁はオーストラリア国籍のオットー・ダニエル・マシュー被告(33)に、まさかの一部無罪の判決を下した。

【本人の写真】「強盗だ」と「Go to a door」の空耳を争ったオットー被告の姿

「被害者は『強盗だ』と言われたと言い張っているが、オットー被告が実際に投じた言葉は『Go to a door(ゴー・トゥー・ア・ドア=ドアに行け)』でした」

 東京地裁でオットー被告側はそう訴えたという。

 司法担当記者が明かす。

「被告は東京都内の住宅に強盗目的で忍び込んで住人の男性と鉢合わせし、揉み合いになり、けがをさせたとして強盗致傷と住居侵入の罪に問われていました。その主張は否が応でもあの番組を思い起こさせます」


闇バイトでの強盗が増加している ©AFLO

「空耳」が、よもや強盗事件の公判で取り沙汰されるとはタモリも想定外?

 “誰が言ったか知らないが、言われてみれば確かに聞こえる”。そんな台詞で始まる名物コーナーをご記憶の読者も少なくないだろう。

 タレントのタモリがかつて司会を務めたテレビ朝日系の深夜番組「タモリ倶楽部」の看板コーナー「空耳アワー」だ。外国語の名曲の歌詞が、一風変わった日本語に聞こえる珍現象を視聴者から集め、それを映像で面白おかしく再現。一部でカルト的人気を誇った。

 番組がお茶の間に魅力を再認識させた「空耳」が、よもや強盗事件の公判で取り沙汰されるとはタモリも思わなかったに違いない。

子どもの言い訳のような弁護側の主張は退けられ、懲役2年

 事件が起きたのは昨年6月。検察側はオットー被告が2階ベランダに上って住民男性を「強盗だ!」と脅し、スコップを押しつけてけがをさせたと主張していた。

「一方の弁護側はまさかの無罪主張でした。住宅からガソリンの匂いがしたため、火事が起きる恐れがあると感じて住民に避難を呼びかけるために『Go to a door』と言ったというのが弁護側の理論でした」(前出・記者)

 一見、子どもの言い訳のような申し立てだが、地裁の島戸純裁判長は、検察側の主張の一部を退け、強盗に関しては無罪として、傷害罪などを適用、求刑の懲役6年に対し、懲役2年の刑を言い渡した。

 司法関係者は「判決は被告の発言が『Go to a door』だった、とは認めませんでしたが、『強盗だ』だったとも限らないとし、驚いた住民が発言を取り違えた可能性を考慮したのです。『空耳』が一部とはいえ無罪につながった刑事裁判は聞いたことがありません」と驚きを隠さない。

 ちなみにオットー被告は住居に侵入した理由として、アクロバティックに壁から壁を飛び跳ねるアーバンスポーツ「パルクール」をしていたからと公判で語ったというが、判決では一顧だにされなかったという。

 今後、刑が確定した場合、オットー被告は1年近くの“空耳アワー”を塀の中で過ごす見込みだ。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年10月31日号)