清掃員が独自の判断で書いて貼ると、住人や管理会社とトラブルになりうるのです。ここ数か月は包丁がなくなったのですが、依然としてカミソリやカッターナイフが、刃をむき出しのままで入れてあります」

 不気味であるのは、注射器だ。プラスチック製容器包装を捨てる袋にむき出しで入れてあった。針の先に液がついていた。

「きっと糖尿病の注射じゃないかな。医療機関や薬局などの医療機関に処理を依頼するか、新聞紙などで包んで燃えるごみに入れないといけないはず。針が手に刺さらないように気をつけているけど、怖いから分別をしてほしいな」

◆ごみの分別を根本から知らないから

 古紙として出すのが、ダンボール。中身を出して畳んでゴミ庫に入れるはずが、中の発泡スチロールを入れたまま、捨ててあることがあったという。しかも、とても強力なビニールテープでまとめて包装している。

「きっと家電製品を購入し、それを取り出して、ゴミ庫にそのまま出した」と東谷は見ている。頑丈なテープをカッターで切り、畳むのに10分はかかる。こんなダンボールが、多い日は5個を超える。

 倉庫前に並べ終えるのは、午前7時半前後。1時間半もかかる。その後、エントランスと3階から1階までの階段や廊下の掃き掃除をする。階段や廊下の水拭きは、週に1回。手すりや郵便物入れは毎日、水拭きをする。これらを終える頃に午前9時となる。敷地内の草むしりは、1か月に数回しかできない。ゴミの分別で時間をとられるためだ。

 マネージャーにはその旨を書いてメールを送るが、こんな返答が来る。「独身者が多いので、ごみは少ないはず」「外国人が数人住んでいるから、分別ができていないのかもしれない」「家賃が10万円を超えるから、独身者でも生活水準が比較的高い。分別は、ある程度はできていると思う」。

◆住人の誠意を感じるごみ

 東谷は、バカバカしくなる。結婚の有無や国籍、収入額ではなく、分別を根本から知らないのだと思う。東京都、市役所や管理会社、清掃会社が丁寧に繰り返し説明をしていないところにこそ、問題があるとも考えている。

 それでも、分別の仕事をするのは生活費を稼ぐためである。そして、心を打たれたことがあるからだ。プラスチック製容器包装を捨てる袋に、オーブントースターがつ1入っていた。20を超えるねじをドライバーでゆるめ、バラバラにしてあった。しかも、トレイや焼き網、本体をそれぞれハンマーらしきものでたたき、ぺちゃんこに潰してある。電源コードは、5センチごとに切ってあった。

「きっと3〜4時間かけて、ここまでバラバラにしたのだと思う。たぶん、ほかのごみからして会社員だったはず。仕事を終えてから、マンションの部屋で懸命にこわしたんじゃないかな。大変だった気がする。入れる袋は不燃物にすべきだけど、住人の誠意を感じるから腹が立たない。私もきちんとしないといけない、と思った」
 
 家では2人の子にごみの分別を実体験にもとづき、説明し、教えている。さすがに大人のおもちゃは言えないが、可能な限りでリアルに伝えている。ゴミの分別の最前線では東谷のような清掃員がいる。私たちが生活できるのは、この人たちのお陰でもあるのではないだろうか。

<TEXT/村松剛>

【村松 剛】
1977年、神奈川県生まれ。全国紙の記者を経て、2022年よりフリー