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キャバクラで働く20代女性と8年間、付き合っていたという60代男性から、「女性を結婚詐欺で訴えたい」という相談が弁護士ドットコムに寄せられています。

男性はキャバクラで知り合った女性と8年間、付き合ってきたといいます。その交際はどのようなものだったのでしょうか。

男性が女性に「店ではなく外で会ってほしい」と誘ったところ、昼間は別の仕事をしていて時間がないし、夜間はキャバクラを休めば稼げないからといい、「毎回5万円くれるなら、キャバクラを休んで外で会ってもいい」という条件を提案されたそうです。

男性は毎月3回、合計15万円を手渡しして、会っていたといいます。男性によると、女性から「彼氏」と呼ばれていたそうですが、「結婚するまでは男女関係にはなりたくない」と言われ、手をつないだこともなかったそうです。

男性は当初から女性に「結婚したい」と伝えていましたが、「まだ結婚は考えられない」と断られたそうです。女性は「年が離れ過ぎている」「資格をとって良い仕事に就いたら考える」と言っていたとのことで、男性は「結婚を引き伸ばされてきた」と考えています。

「それでもお金を渡して会っていたのは、女性が今は無理だけど、今後、前向きに考えていくと言ってくれたから」と男性はいいます。

ところが、女性は昼間の仕事はしていなかった上、同棲している彼氏がいることもわかったとのことで、男性の憤りはおさまりません。

男性がこれまで女性に貢いできたのは1000万円以上。男性は「結婚詐欺で訴えたい」と思っているとのことですが、果たして可能なのでしょうか。澤藤亮介弁護士に聞きました…

●「結婚詐欺」は成立困難

--そもそも、結婚詐欺とはどういうものなのでしょうか。

詐欺」は民事事件でも刑事事件でも用いられる用語になりますが、ここでは刑事事件を前提に説明させていただきます。

刑法上、「結婚詐欺罪」という犯罪はありませんが、自分が結婚する意思がないにもかかわらず結婚をほのめかしたり約束したりするなどして相手を騙し、その結果、金銭などの経済的利益を得た場合に「詐欺罪」(刑法246条)が成立して処罰される可能性があります。

詐欺罪は未遂罪も処罰の対象となりますが、既遂の場合(実際に被害者から金銭等の利益を得るに至った場合)の法定刑は10年以下の懲役とされています。

--女性は明確に結婚の約束はしていませんでした。「今は考えられない」などと言っていたとのことですが、女性のこうした行為は詐欺罪に問われるのでしょうか。

詐欺罪の成立には、(1)騙す行為(欺罔(きもう)行為)、(2)騙す行為によって被害者が騙され(錯誤)、(3)その結果、金銭等を渡すに至り(交付行為)、(4)金銭等の利益が被害者から加害者に移動すること(財産上の利益の移転)、(5)これらが一連の因果関係で繋がっていることが客観的な事実としてあることに加え、加害者がその全体につき、最初からこれらを意図していたこと(≒金銭等を騙して取ろうとする意思)が必要となっています。

結婚詐欺の場合は、自分に結婚する意思がないにもかかわらず相手に金銭を払わせるなどさせて自分が利益を得るつもりで、実際に、結婚をほのめかしたり約束したりするなどして騙し、相手に金銭を支払わせるなどして自分が利益を得る必要があります。

この点、詐欺罪は、騙す行為や被害発生などの客観的な事実に加えて、加害者が最初から被害者を騙して金銭等と取ろうとしたという内心(主観)の立証も必要とされるため、窃盗罪などの他の財産犯と比べると立件が難しいと考えられています。

例えば、交際開始当初は女性も結婚も含めて考えており、男性が奢っていたけれど、交際した結果、女性が結婚する意思がなくなって男性がふられた場合には、騙す行為もなければ騙す意思もなかったことになり詐欺罪は成立しないことになりますが、最初から騙すつもりがあったか否かの線引きは人の内心であるためかなり曖昧で、かつ、立証も困難が伴います。

本件でも、女性はそもそも交際当初から結婚の約束をしていないばかりか、「今は結婚を考えられない」と言っていたのであれば、たとえ昼間の仕事や交際している男性がいたことについての嘘があったとしても、交際開始当初から結婚を引き合いにして騙して金銭等を取ろうとした意思があったとはいい難く、この女性に詐欺罪が成立する可能性はかなり低いと思われます。

●貢いだ1000万円は返してもらえる?

--結婚詐欺に当たらないとしても、男性はこれまで女性に貢いできた1000万円を何らかの手段で返してもらうことは可能でしょうか。

男性が1000万円を返してもらえるかは民事事件の話となります。この点、貢いだ1000万円は一般的には「贈与」という契約の一種に該当し、いわゆるプレゼントと同じで女性側に返還する法的義務はないことになります。

他方、騙されて1000万円を支払ったと言える場合は民事上の「詐欺」(民法96条1項)となり、贈与という「契約」を取り消すことができ、その結果、贈与という契約が最初から無効だったことになるため(民法121条)、男性側が返還請求(不当利得返還請求)をすることができうることになります。

また、女性側の行為が不法行為であるとして、不法行為に基づく損害賠償請求をすることも考えられます。

しかしながら、民事上の詐欺も刑事事件の詐欺と同じように騙す行為によって相手を騙して金銭等を払わせようとする意思があったことが必要であり、最初から騙して金銭を支払わせようとしたという内心を立証できない限り、民事訴訟で「詐欺」と裁判所に認めてもらうことは難しいと言えるでしょう。

本件では、確かに交付した1000万円は高額な金額と言えますが、女性と知り合ったのがキャバクラであって、結婚相談所など結婚を前提とした場で知り合ったものではないこと、当初、男性が女性に対して「店ではなく外で会ってほしい」などと積極的に誘っており女性側から来ている話ではないこと、などからすれば、不法行為での請求も含め、男性側の1000万円の返還請求が裁判上で認められることは難しいのではと思われます。

【取材協力弁護士】
澤藤 亮介(さわふじ・りょうすけ)弁護士
東京弁護士会所属。2003年弁護士登録。2010年に新宿(東京)キーウェスト法律事務所を設立後、離婚、男女問題、相続などを中心に取り扱い、2024年2月から現在の法律事務所でパートナー弁護士として勤務。自身がApple製品全般を好きなこともあり、ITをフル活用し業務の効率化を図っている。日経BP社『iPadで行こう!』などにも寄稿。ご相談のご予約は、web上のカレンダーで空き状況をご確認いただきつつweb上で完結することができます。
事務所名:向陽法律事務所
事務所URL:https://www.keywest-law.com