(※写真はイメージです/PIXTA)

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将来への不安からなにかしらの資産運用を始めようと考える人は少なくないでしょう。資産運用の手段として不動産投資を選んだ場合、得られるメリットは家賃収入、節税、売却益と魅力的です。しかし、なかには失敗する人もいて……。本記事では、リノベーションバリューデザイン協議会の代表理事、REISM株式会社取締役の挽地裕介氏が、牧野さん(仮名)の事例とともに不動産投資で失敗しないための方法について解説します。

自己資金少なく始められて、会社員でも節税ができる投資

ここ最近NISAやiDeCo、ふるさと納税、といった資産運用の話題をあちこちで聞くことが当たり前になってきました。37歳の牧野さん(仮名/男性)も、今後のキャリアや老後に少なからず不安を抱えていたため、なにかしら資産形成を始めなくてはと考えている1人でした。牧野さんの年収は700万円、都内のメーカー企業に勤めています。

ですが、貯金がたくさんあるわけでもないのに投資に回していいのだろうか?という不安や、本業の忙しさも相まってネット記事を読む程度で進まずにいました。そんなタイミングでかかってきた中古の区分マンションを取り扱う不動産会社からの電話。電話口の営業担当の話を機に不動産投資へ興味を持ちました。

不動産投資は「自己資金少なく始められる」「会社員でも節税ができる」といったメリットがいまの自分にピッタリの運用だと魅力を感じ、これはうまい儲け話だと思った牧野さん。紹介された新宿区にある築13年、すでに入居中の中古ワンルームマンションを検討します。

シミュレーションを見てみると、月々の収支が5,000円の赤字になっていましたが、「不動産は団体信用生命保険がつくので、生命保険を払う金額でそれ以上の保障を受けられる」「繰上げ返済で元本を減らせばトータルの返済額が削減できる」と教えてもらい、物件を購入することを決意。マンション経営者としての道を歩み始めることになります。

物件の引き渡しから4ヵ月後、次々届く悲報

ところが、物件の引き渡しから4ヵ月後、経営する物件の入居者が退去する旨の解約通知が管理会社から届きました。年末年始のいわゆる賃貸市況が繁忙期に差し掛かるタイミングには当たり前のことだし、申込もすぐ入るだろうとその時点ではまったく気にも留めていませんでした。

しかし、そこで提示された新しい募集賃料は2万円下がった査定。管理会社に問い合わせたところ、「実は、今回退去したのは、新築時からずっと住み続けていた入居者で、いまの周辺相場ではそのくらいでないと賃貸がつかない」と説明されました。次の入居者が入らなければローン返済が滞ってしまうため、悩んでいる暇はありません。やむなく条件を飲むことにしましたが、次にまた泣きたくなるような知らせが届きます。

室内の原状回復費用が60万円の見積書です。10年以上継続した入居で修繕箇所が多く、耐用年数を超えているため入居者の費用負担はほとんどなく、また特殊設備を備えていたためオーナーが全額の負担を背負ってしまいました。

そして不動産取得税、固定資産税などの税金の支払い、手出し少なく始めるつもりが自己資金からどんどん現金が出ていくばかり、さらに月々の収支も当初の目論見から5倍もマイナスです。このまま赤字物件を抱えていても仕方がないと売却査定を行いましたが、提示された金額は購入金額よりも600万円も低い査定。

所有して間もないことからローン残債も減っておらず一括返済の負担は捻出できるわけもなく、赤字のまま持ち続けることになってしまったのです。「こんなはずではなかったのに……」牧野さんは、不動産投資は失敗だったと結論づけるに至りました。

株式のように急落しづらく、価格推移も緩やかな中古不動産だが…

「副収入が得られる」「もしものときの備えになる」「複利効果で運用できる」、不動産業者が営業トークとして伝えた不動産投資によるメリットは決して間違ったものではありません。

ただし、提示された情報をただ鵜呑みにするだけでは同じような失敗を辿ってしまいます。都心エリアで築年も古くなく、入居者もついているし「よさそう」という、目の前の情報だけで物件を選んでしまうことに大きな問題があります。

株式、先物取引、暗号資産などに比べて、不動産は2つと同じ物件はなく個別性が強いとみられがちです。しかし、1990年代のバブル崩壊からリーマンショックを経て、現在の不動産価格の高騰といわれている昨今の状況でも中古不動産の価格推移は緩やかで、株式などのように価値が急落したり、消失したりすることは限定的です。

さらに、収益の安定性や法整備、金融機関の仕組みまでも考慮すると、堅実な資産形成を行うならほかの金融商品よりも不動産で取り組むことが最適にもみえます。では、なぜ牧野さんのように失敗だったと感じる人が後を絶たないのでしょうか?

適切な判断力があればリスクは回避できる

不動産投資はいかにリスクをコントロールできるかが非常に重要なポイントになります。代表的なリスクは空室、滞納、家賃下落、金利、災害といわれ、なかでも空室、滞納、家賃下落のリスクは、正確な情報を知ることで対策できます。

先の牧野さんの事例でもわかるように、物件の内装はどうなのか、どんな入居者がいつから住んでいるのか、一時的な資金が準備できるか、といったことさえ事前にわかっていたら、リスクに備えた選択肢を持てたのかもしれません。

数万円の家電やブランドバッグなどの買い物においては、その商品の性能や状態、持った後のアフター保証までしっかりと店員スタッフへ念入りに確認するにも関わらず、投資においては知識がなかったという理由で正確な判断がなされないケースが多くあります。

失敗しない不動産投資に不可欠なもの

不動産投資においていかに失敗しないか、成功確率を高める要因は「物件を選ぶ根拠があるかどうか」に尽きます。

日本の不動産は、価格に関する情報の透明性がない時代もありました。しかし現在では、大手情報サイトも数多くあり、インターネットで所在地や過去事例をみることも、またはFPなどの専門家へセカンドオピニオンのサービスを受けることも可能です。

ただし、周辺環境や相場を自分自身で確認することはできたとしても、オーナーチェンジ物件であれば室内の状態を見ることはできません。さらに、賃貸借契約の内容や管理状況も把握できません。

加えて、将来の賃料と価格の推移を予測しながらどのような選択肢を持てるのか、それらを総合的に判断する必要があります。そのために物件選びの根拠となるデータや仕組みまでも提供してもらえるか否かを確認することが、結果として不動産会社を見極めることに繋がります。

自分の資産管理を任せるパートナーだからこそ長い付き合いと考えて、電話をきっかけにすべて判断するのではなく、同業者の話ができるかどうかなどを聞いてみながら、信用のおける不動産会社を選ぶことも大切です。

もし仮に10万円の賃料が8万円に下がり、自己資金から2万円を捻出することになったとしても、賃貸がしっかりと付いていれば他人資本によって8万円のローン返済は着実に進み、レバレッジ効果も働くため完済後は数千万円の資産を手にすることができます。一時的な原状回復費用も室内をアップグレードするノウハウを持っていたら家賃を引き上げられるチャンスにもなります。

短期的に目の前の収支が赤字だから失敗だったと判断するのではなく、不動産運用は長期的な目線で計画的かつ余裕を持つことで安定した資産形成を行うことができます。将来の豊かなライフスタイルをもたらしてくれることでしょう。

挽地裕介

リノベーションバリューデザイン協議会 代表理事

REISM株式会社 取締役