iPad miniとApple Pencil Proで、メモアプリにスケッチ。コンパクトでどこにでも持ち運べるAI時代の文具だ(筆者撮影)

なんの前ぶれもなくリリースされて、驚いた人も多いのではないだろうか。

アップルは8.3インチ型タブレット「iPad mini(A17 Pro)」を10月23日に発売する。Wi-Fiモデル、128GBストレージで、7万8800円(税込)〜。iPad miniの刷新は3年ぶりとなる。

発売に先駆けて試すことができたので、先行レビューをお届けする。

最も小型で軽く、毎日、パソコンと一緒に持ち運ぶことができるiPad miniは、デジタル文具としての魅力を放つ、ビジネスに欠かせないツールとなった。

iPad miniを3年間しっかり愛用していたユーザーは、アップグレードをお勧めする。ただし、第5世代、第6世代で利用してきたApple Pencilがそのまま利用できないため、ペンシルの再投資がネックとなる。

3年ぶりの刷新

iPad miniは、10インチクラスのタブレットをスタンダードとするiPadシリーズの中で、小型であることを売りにしている製品だ。

2019年3月に7.9インチのiPad mini(第5世代)が登場。続いて2021年9月にはサイズを拡大・デザインを変更した8.3インチのiPad mini(第6世代)が発売された。

おおむね2〜3年の周期で刷新され、他のiPadシリーズに比べると頻繁とはいえない製品サイクルをもつiPad mini、第7世代の登場は3年ぶりの刷新となる。


iPad mini(A17 Pro))パープル。淡い色合いが心地よい。Apple Pencil Proは側面に磁石でくっつけて充電できる(筆者撮影)

なお、今回から、モデル名が世代の数字ではなく、搭載するチップ名がつけられるようになった。これは2024年5月に刷新されたiPad ProとiPad Airから採用されており、わかりやすさを優先する変更となった。

3年前の第6世代でデザインを刷新しており、これと同じデザイン。ブルーとパープルの淡い色合いと、スタンダードなスターライト、そしてスペースグレイの4色を取り揃える。

今回の刷新で目を引くのは、昨年のiPhone 15 Proと同じ、A17 Proチップを採用した点。これにより、iPad mini(A17 Pro) はデバイス上で処理する生成AI対応機能、Apple Intelligenceが利用できる。

【画像】AIを用いた色調編集、Apple Pencil Proを握ると表示されるスクイーズ機能、ペン先がどこを示しているかがわかるホバー機能、カメラに映った文字をそのままテキストとしてコピーできる機能など

Apple Intelligenceはアメリカで2024年10月から、英語圏で12月から、日本・韓国・中国を含むその他の国々では2025年から利用できるようになる予定だ。

搭載されるA17 Proチップは、8GBメモリーと6コアCPU、16コアNPU(ニューラルエンジン、機械学習処理コア)についてはiPhone 15 Proと共通だが、グラフィックス性能を左右するGPUが5コアと、1つ減らされている。

これは、おそらく「チップビニング」の対象となるチップの有効利用をしているのではないか、と考えている。半導体は、製造上どうしても、求める性能に達しないチップが生じてしまう。これを、より価格が安いiPad mini(A17 Pro)で、GPUを1コア少ない仕様として活用しているのではないだろうか。

ベンチマークアプリ(Geekbench 6)で計測すると、CPUはiPhone 15 Proと同等で7000前後のスコア、GPUは10%ほど少ない2万5000前後のスコアだった。

最も身近なApple Intelligence対応機

しかし3年前のモデルであるA15 Bionicチップと比較すると、同じくGeekbench 6の計測値で、CPUは約20%、GPUは約30%上昇しており、進化としては十分だ。

アップルによると、iPad miniで動画編集アプリのFinal Cut Proも動作するとのことで、プロセッサーのパワーとしては十分な性能を有しているといえる。

筆者は写真編集アプリのLightroomを活用しており、AIを用いた色調編集や写真の修正を素早くこなしてくれる点も快適だった。変更したイメージをすぐに複数作成してくれるため、その中から選択するだけで、思い通りの写真に仕上がる。


Adobe Lightroomでの写真編集。AI編集の候補を素早く処理し、すぐに写真を思い通りに仕上げることができる(筆者撮影)

Apple Intelligenceでなくても、AI活用のアプリは増えており、A17 Proチップはそうした高度化するアプリへの対応という点でも、優れた性能を発揮してくれる。

iPadと組み合わせるペン型デバイスApple Pencilは、iPad miniではぜひとも組み合わせたいツールだ。

iPad mini(A17 Pro)は、最新の「Apple Pencil Pro」(2万1800円、税込)と、エントリーモデルの「Apple Pencil(USB-C)」(1万3800円、税込)に対応している。

前者は、本体の右側面に磁石でくっつけることで、ペアリングと充電が可能。後者はUSB-CケーブルでiPadと接続することで、ペアリングと充電を行う。

Apple Pencil Proは必ず使いたい

可搬性と機能性から、筆者はApple Pencil Proとの組み合わせをおすすめする。

Apple Pencil Proには、握ってツールチップを表示させるスクイーズに対応している。これはiPad miniにとっては、非常に重要な使い勝手の変化をもたらす。


Apple Pencil Proを握ると表示されるスクイーズ機能。Goodnotes 6など、サードパーティーアプリも対応する(筆者撮影)

他のiPadに比べて画面が小さなiPad miniにおいては、ペン先のツールを画面上に出しておくのは邪魔になってしまう。そこで、Apple Pencil Proをぎゅっと握り、ペン先の近くにツールバーを表示させることができるスクイーズ機能が重宝するのだ。

Apple Pencil Proはその他にも、ペンの回転の認識と、触覚フィードバックが備わっている。

iPad mini(A17 Pro)では、ホバーと呼ばれる機能が使えるようになった。これまで、M2以上を搭載する上位のiPadでのみ利用できる機能であったため、個人的には、iPad miniにおける最もうれしい進化だった。


メモや文書校正のような場面でも、ホバー機能は非常に役立つ。写真はファイルアプリでのPDF編集(筆者撮影)

ホバーは、ペン先でディスプレーに触れる前、浮いている状態でも、ペン先がどこを示しているかあらかじめ表示してくれる。うっすらと、ペンそのものの影も画面に表示される。

そのため、ペンを落とした先がイメージとずれていて、消しゴムで消してやり直す、といった非効率が起きなくなる。これはスケッチやグラフィックなどの繊細な作業だけでなく、手書きでメモをしたり、書籍の校正をする場合にも、非常に重宝する機能だった。

iPad mini(A17 Pro)と組み合わせるペンはApple Pencil Proがふさわしいと書いた。

iPad mini(A17 Pro)では、Apple Pencil ProとApple Pencil(USB-C)にのみ対応する。裏を返せばApple Pencil(第1世代)、Apple Pencil(第2世代)には対応していないということだ。

第5世代、第6世代のiPad miniを使ってきた人にとっては、iPad mini(A17 Pro)でApple Pencilを使う場合、必ず買い替えなければならないのだ。前述のとおり、1万3800円〜2万1800円(ぞれぞれ税込)と、少なくない投資をしなければならない。

特にApple Pencil(第2世代)は、磁石でくっつけて充電する方式など、Apple Pencil Proと見た目もほぼ変わらない。にもかかわらず、買い替えなければならない点は、「なぜ」という気持ちになるだろう。

原因は、iPad Proなどで、カメラの位置を上部から右の長辺に移動したことだ。そのため、充電パッド実装を変更する必要があり、これまでのApple Pencil(第2世代)が使えなくなってしまった。

iPad miniには直接的に関係がないが、上位モデルの充電パッドの仕様に合わせる形で、今回のApple Pencil Proの実装の変更につながっている。

ただ第6世代iPad miniも、Apple Pencil(第2世代)も、下取りや買取市場が充実しており、買い換える際の下取りも検討するといい。

iPadOS 18のAI機能を活用

アップルなりの生成AI時代に対する答えである「Apple Intelligence」は、日本語での利用は2025年に持ち越されている。しかし最新のiPadOS 18にも、Apple Intelligenceとは異なるAI機能が多数搭載されている。
メモアプリでは、数式を記入すると自動的に答えを計算してくれたり、グラフを描いてくれる機能が搭載されている。つい暗算や筆算をしてしまうが、複雑な四則計算や方程式も答えてくれて、計算機を開く手間がなくなる。

また同じくメモアプリでは、書類を画像としてスキャンする際、フラッシュを活用して影が入らない綺麗なデータを撮影してくれる。加えて、文字を読み取り、そのままテキストとして入力する魔法のような機能も利用可能になっている。

おそらく写真やビデオの撮影はスマートフォンが中心となるだろうが、写真としてではない画像データの活用という点で、1200万画素カメラとA17 Proチップの画像処理エンジンは、有効活用ができる組み合わせといえる。


iPadOS 18のメモアプリで利用するテキスト認識の機能。カメラに映った文字をそのままテキストとしてコピーできる(筆者撮影)

iPad mini(A17 Pro)に数日間触れてみて、改めて、その有用性を思い知らされた。

片手で軽々持ち運び、ノートパソコンが入っているかばんとも共存できるサイズと重さを実現し、そしてApple Intelligenceを待たずにAI機能が活用できるペンタブレットデバイス、というキャラクターは、iPad miniならではだ。


手軽に持ち運べて、ペン操作からAIを活用できるiPad miniは、デジタル時代のAI文具になる(筆者撮影)

紙とノートを持ち歩かなくなって久しいが、それでもペン、手書きは物事を考え始めるときに直感的で、人にイメージを伝えるときにも手っ取り早い。

これは、ビジネスの現場、クリエーションの現場、そして学校の中でも、イメージを伝えるコミュニケーションには欠かせない要素といえる。特にMacやiPhoneを使っているなら、手書きのデータをすぐに共有して見せることができ、共同編集でビデオ会議をつなぎながらの議論も捗る。

優れたペンとタブレットの組み合わせは、それだけでも重宝する。iPad miniとApple Pencilを持ち歩く理由になる。

ペンでAIを操る新しい活用の広がり

そして今後は、さらにAIの要素が加わり始める。

Apple Intelligenceには、スケッチから画像を生成する機能や、絵文字を生成する機能が利用可能になる。つまりペンでの入力がAIとつながり、イメージを形にしてくれるようになるのだ。

筆者も早くApple IntelligenceとApple Pencilの組み合わせを使ってみたいし、その他のアプリが実装するAI機能にも触れてみたい。

そうしたAI時代の筆記用具、「AI文具」としてのiPad miniの可能性が広がっており、今、最も注目し手に入れるべきデバイスだと感じた。

(松村 太郎 : ジャーナリスト)