SCANDAL、クレナズム

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『聴志動感 2024 ~umeda TRAD Last Season~』2024.10.4(Fri)@梅田TRAD

もはや過去のことになりつつあるコロナ禍に突入した頃……生のエンターテインメントが加速度をあげて姿を消していった際に、なんとかライブエンターテインメントを届けることはできないかと「今できるやり方」を模索しさまざまな方法で発信してきた音楽イベント『聴志動感(ちょうしどうかん)』。2020年にこのイベントを通して出会ったクレナズムとSCANDALが初めてのツーマンライブを『聴志動感 2024 ~umeda TRAD Last Season~』と題して行った。その舞台となったのは、この10月末をもって43年という長い歴史に終止符を打つことが決まっている梅田TRAD。主催者である奏-KANADE-の北岡氏に聞けば、「大阪の音楽シーンを支えたTRAD43年の歴史に華を添えたい」と企画されたのが、今年の『聴志動感 2024』なのだという。名だたるバンドがパフォーマンスを繰り広げてきた梅田TRADのステージで、この夜はどんな音が鳴り響いたのか。SCANDALとクレナズム、彼らが梅田TRADに歴史を重ねた一夜を記しておきたい。

「聴志動感、調子はどうですか?」と高らかな発声で登場したのはこの日MCを務める田中乃絵(FM802)だ。このイベントの歩みについて、そしてその後に語られたのはこの梅田TRADの歩みについてだ。「ここはバナナホールという名のライブハウスとして1981年に開業。その後梅田AKASOと名前を変えたのち2017年から梅田TRADとなり、大阪の音楽シーンを支えてきました。しかし惜しまれながらも今年の10月末をもって、この建物が取り壊しになるということで43年の歴史に幕を下ろすことになります。数々のアーティストとオーディエンスの熱狂と汗が染みついたこの場所で、聴志動感チームとして最後に何か表現できないかと今夜のツーマンライブが決定しました」と、この夜の経緯が伝えられる。さぁSCANDAL×クレナズムのライブが、始まってゆく。

クレナズム

クレナズム

青いライトが幻想的なステージ上。しゅうた(Dr)を筆頭に、萌映(Vo.Gt)、まこと(Ba)、けんじろう(Gt)の4人が現れる。彼らのライブは、幻想的な音がいろんな角度から降ってくるように煌めいた「ホーム」で幕を開ける。キラキラとしたシューゲーザーサウンドに萌映の澄んだ声が乗り、どこまでも開けていくようなサウンドスケープを描き出す。「ホーム」で創り出したいい空気感を引き連れて、曲は「ラテラルアーク」、「眩しくて」へと続く。1曲の中だけでも目まぐるしくメロディーが展開し移り変わっていくのが彼らの音楽の面白さ。特に「眩しくて」のエモーショナルなメロディーラインが、くっきりと歌詞を際立たせていくのがなんとも言えず心地いい。萌映の綺麗な高音がバンドの音にスルリと滑っていくような気持ちよさもある。

クレナズム

3曲を披露し、萌映が話をし始める。今日の来場への感謝と憧れのSCANDALとの対バンであるステージへの緊張。高校の時からSCANDALのカバーをしていたこともあり「寝られませんでした」と言う萌映だが、それとは比にならないほどの緊張を見せていたのがまことだ。特にファンの間でまことのSCANDAL愛は周知の事実で、大学の軽音サークル時代に出会ったまことと萌映が新歓ライブでカバーしたのがSCANDALの楽曲なのだ。そのまことが「初めてライブを見たのがSCANDALで、ありえんぐらいかっこよかったんです。それが原動力になって今バンドを作っていて。僕がバンドを始めようと思った根底にSCANDALがいます」と素直な気持ちを届ける。その言葉に萌映が放った言葉がよかった。「でも今日は憧れを越えなきゃいけない日だなと思っています。次の曲は私とまことが初めて一緒にコピーをしたSCANDALの曲を持ってきたのでよかったら聴いてください」。

クレナズム

そう言って披露されたのはSCANDALの「HARUKAZE」だ。実は当日、関係者が共有していたクレナズムのセットリスト4曲目のタイトルは「????」と表記されていた上、リハでも演奏されることはなく、SCANDALに対する完全なサプライズに……! オリジナルにはない、ピアノの情感豊かなメロディーに萌映が歌声を重ねて始まっていくクレナズム流のアレンジ。軽やかで、旅立ちの春の胸のざわめきを感じさせるような切ない楽曲に仕上がっている。SCANDALの4人はもちろん、彼らを初めて見るSCANDALファンにもうれしいサプライズだ。この曲の演奏をキッカケに演奏にもリラックス感が増した4人は、切なさを含んだ「花弁」、ふわりとした音像の中にも現実を描き出した「酔生夢死」へ、ステージの雰囲気をスーッと変えていくようなセットリストを展開していく。

クレナズム

「梅田TRADは今月末で閉館ということで、いろんな思いを抱えてきた方も多いと思いますが私たちもその中のひとりです。初めて出させていただいたのが2021年……」という萌映にしゅうたが「……今日もだけど、その日も雨だったね」とぽつり。その日はPeople In The Boxとの対バンで、しゅうたは「僕にとっては今日もそうだけど、梅田TRADは憧れの人に会える夢のような場所なんです」と笑う。梅田TRADへの思いも全て丸く包み込むように「次はゆったりユラユラとのれる曲です」と「木村 楓」そして、ギターのノイズ音がまたガラリと空気を変えた「ヘルシンキの夢」へ。ここからラストスパートです! 楽しんでいきましょう! と明らかにギアが一段階上がる。ここ一番のタイミングで疾走感溢れる青春ソング「リベリオン」、どんどん盛り上がる観客の拍手が走っていった「杪夏」、最高潮のエンディング的盛り上がりを見せた「ひとり残らず睨みつけて」まで、特にラスト3曲は1曲ごとに会場全体のボルテージが上がっていくようなステージ。次に登場するSCANDALへの想いが透けて見える、熱いパフォーマンス。全11曲を走り切りとても良い表情を見せた4人は、演奏を終えると深いおじぎをひとつ。憧れを、最高の形で叶えたクレナズムの姿がそこにはあった。

クレナズム

SCANDAL

SCANDAL

クレナズムから託されたバトンをしっかりと受け取り、軽やかにステージへと進み出たのはHARUNA(Vo.Gt)、MAMI(Gt.Vo)、TOMOMI(Ba.Vo)、RINA(Dr.Vo)らSCANDALのメンバー。クレナズムが全員オールブラックだったのに対し、SCANDALは目が覚めるようなオールレッドの鮮やかなコーディネート。ドラムのカウントから始まった幕開けの曲は「瞬間センチメンタル」。観客の手拍子、コールも最初から大音量だ。大阪では大阪城ホール公演も当たり前となった彼女たちの演奏する姿をここまで至近距離で見ることができるなんて、なかなかないことだ。曲の後半のサビでHARUNAが「一緒に歌える?」と投げかけると、大きな歌声が響きだす。まだ、1曲目とは思えない熱の上がり方。そのまま次の曲へと入るとイントロだけで大歓声。それもそのはず「少女S」、「会わないつもりの、元気でね」まで、人気曲が立て続けに披露される。息もつかせぬ怒涛の展開でスタートからたった3曲、会場はまるっと一体化。面白いぐらいに会場全員の心を掴んでしまった。

SCANDAL

少しの静寂の余白もないほど、会場のいろいろな場所からメンバーの名前を呼ぶ声が飛ぶ。「クレナズムのライブでみんなもいい感じにあたたまってるんじゃないかな。入ってきた時から、彼らのライブが最高だったのがみんなを見てすぐわかったよ」とHARUNA。クレナズムと会うのは久々、しかもツーマンは初めて。それだけでも嬉しいのに、あんな素敵なライブを見せてもらったら……! と続ける。さらにHARUNAはさらに嬉しいことがあるという。「クレナズムと初めて会った後に、彼らの曲ですごく好きな曲を見つけて。気に入って聴いていたんだけど、自分が曲作りに取り組むときに助けてもらったというか、インスピレーションをもらった曲があって。それが「眩しくて」で、今日3曲目にやってくれていて!」。ここまで話したところで、RINAが「ファンがいる!」と叫ぶ。どうやらクレナズムのメンバーが舞台袖から見守っているらしく、メンバー同士が手を振り合い微笑ましいやり取りだ。そしてHARUNAが続ける。「あの曲はライブで全然やっていないみたいで、この間対談した時にこの話をしたら今日やってくれて!」。クレナズムのリハを走って覗きに行ったほど嬉しかったそうだ。そんなエピソードに合わせて披露されるのは、「眩しくて」からインスピレーションを受けて作られたという「夕暮れ、溶ける」。夕暮れの美しい空が広がっていくようなキラキラ感と、MAMIの切なさを含んだギターの美しさが際立つ1曲。クレナズムのメンバーたちは、どのような思いでこのステージを眺めていたのだろうか。そしてSCANDALの大人っぽさも含んだキュートな魅力が光った「Plum」、HARUNAがギターを置いてユルくステップを踏みながら歌う姿とTOMOMIとMAMIがステップを踏んだり向かい合って演奏しながら笑い合う姿も印象的だった「one more time」と、最近のSCANDALのモードを魅せるパフォーマンスが続く。

SCANDAL

実は10月丸々1カ月、SCANDALはライブ続き(総本数7本! オファーもらったものをやろやろ! と言っていたら自分たちの休みがなくなったとはTOMOMI談)。「その記念すべき1本目です! こんな日にあんな素敵な「HARUKAZE」を聴いたら、胸がいっぱいだよねぇ……」とHARUNA。RINAも「クレナズムのWikipediaを見たら「SCANDALが好き」と書かれていて。あれってファンの人が書いてくれたりするやん? ファンも公認なんや! とうれしくて」と笑顔だ。

HARUNA「「HARUKAZE」うるっと来たわぁ!」

RINA「鍵盤始まり、いいよねぇ。ああいう曲欲しいよね」

TOMOMI「めっちゃクレナズムになってたよね」

HARUNA「もうすっかりクレナズムの曲だった」

RINA「ぜひ他のライブでもやってくださいね、って感じ!」

TOMOMI「私たちの曲はアニメの『BLEACH』のテーマだったけど、クレナズムのカヴァーはなんか月9みたいだったね」

SCANDAL

そしてRINAが「特別な日だって言ってくれたけど、私たちにとっても特別で、長く活動してきたらこんなご褒美があるんだなって。綺麗な水を注いでもらうような1日があるんだと思った。本当にありがとう!」と話し、 HARUNAが「まだまだ彼らに(SCANDALを)越えられるわけにはいかないなという気持ちで、私たちも「HARUKAZE」をお返ししたいなと思います」と言うと、大きな拍手が起こる。4人の音がドン、と会場に鳴り響いた途端に感じたのは旅に出ていく解放感と開けていく自由さ。これがSCANDALの奏でる「HARUKAZE」だ。疾走していくメロディーにどんどん観客たちの手拍子が乗っていく。あぁ、これを聴いているクレナズムの4人の表情を見せてくれ! と思わずにはいられない。そして勢いそのままに……むしろ勢いを増幅させるようなイントロで「A.M.D.K.J」へ。会場の熱を受けてそれを解き放つように演奏する4人の姿がとても自由で、眩しく映る。HARUNAの「大阪、まだ力残ってる?」という叫びに応えるように観客たちがジャンプし始める。曲はみんなで歌って騒げる「テイクミーアウト」に移り変わる。ピョンピョン飛び跳ねながらパフォーマンスするHARUNA、MAMI、TOMOMIに合わせるように、誰もがとび跳ねて興奮を伝える。そしてラストソング「LOVE SURVIVE」へ。SCANDALも観客も一体となってグルーヴを生み出し、それがどんどんのぼり詰めていく。曲を重ねるごとに全ての人の興奮を高めていく凄みのあるセットリスト。ツーマンライブの後攻バンド、かくあるべき! と言いたくなる盛り上がりだ。「最高の夜をありがとう! また会いましょう!」とのHARUNAの言葉にものすごい音量の手拍子と熱、SCANDALのメンバーがステージを去ってもなお彼女たちの名前を呼ぶ声がやまない。梅田TRADのフィナーレに大きなインパクトを残すツーマンを見せてくれた。

SCANDAL

この日印象的だったのがクレナズムメンバーはオールブラック、SCANDALメンバーはオールレッドに統一された、コントラストの効いた衣装だった。クレナズムがブラックをチョイスするのは日頃からのルーティーンだとしても、そこに対してバッキバキのレッドは目にも刺激的だった。なにか意図があるだろう! と勘繰っていたのだが、その実ただの偶然だったらしい。ドラマチックな妄想をしすぎたが、こういった演出も対バンを楽しめるしかけのひとつになったことは間違いない。そして終演後に感じたのは、なんと対バンであることに大きな意味を持ったライブだったのだろうか! という驚き。曲のセレクト、アレンジ、セットリストの組み方とその展開、先程述べた衣装に至るまで、クレナズムからSCANDALへのバトンの渡し方も、バトンを受け取ってからのSCANDALのラストへ向けた走り抜け方も、その全てに「対バンであること」の意味を感じるライブだった。

SCANDAL、クレナズム、DJ田中乃絵(FM802)

会場内では「多分、TRADに来るのはこれが最後やねんなぁ」というつぶやき声が多数聞こえて来た。バナナホール、AKASO、TRADと名前も変えつつ43年。あのバンド見たなぁ、あの曲聴いたなあ、バーカンの酒濃かったなぁ、筆者の個人的にはライブの前後にかどやで飲むのも好きだったなぁ。10月31日までまだ日はあるけれど、ありがとう梅田TRAD。寂しくなるけど世界に音楽は鳴り続ける。SCANDALもクレナズムも、音楽を奏で続けていくのだから。

取材・文=桃井麻依子 撮影=toya(オフィシャル写真提供)