Photo: Jun Fukunaga

音楽制作ソフトやハードウェアを手掛けるAbletonが、先日から謎の広告を公開し、なにやら新製品を発表すること示唆していました。が、10月8日ついにその正体が判明。

なんと新製品として発表されたのは、まさかのガジェット機材となる「Ableton Move」!

Ableton Moveは、ポータブルなデザイン、シンプルなワークフロー、1,500を超えるサウンド/インストゥルメントプリセットなどを備えた、Abletonが"スタンドアロン・ インストゥルメント"と呼ぶデバイスです。

「Ableton Move」では何ができるの?

思いついたアイデアを逃すことなく直感的に作曲できるこのデバイスには、Abletonの専用コントローラー「Ableton Push」を踏襲した32個のポリフォニック・アフタータッチパッド、16ステップシーケンサーを搭載しています。

"Move"という名前どおり、ポータブル性を重視したデバイスだけあって、本体には内蔵スピーカーとサンプリング用のマイクが付属。外部出力用の3.5mmヘッドフォン出力もついており、こちらにはヘッドフォンだけでなく、スピーカーを接続することも可能です。

サイズも縦15cm x 横31cm x 高さ3.5cmとかなりコンパクト。さらに重さもわずか1kgとバックパックに十分入るサイズなので持ち運びも楽々です。また、バッテリーは1回の充電で最大4時間使用可能なので外出時もバッテリー切れの心配なく使用できます。

Ableton Move本体。コンパクトで持ち運びやすい軽さだが同サイズのMIDIコントローラーよりも手に持った際の重さもあり、重厚感もある。

そんないろいろと魅力あふれるAbleton Moveですが、実際に使ってみた感想をレビューしていきます。

単体で、サクサクと曲を作れる

まず、Ableton Moveは、"思いついたアイデアを逃すことなく直感的に作曲を行なえる"というコンセプトのため、これ一台で1曲まるまる曲を仕上げるのではなく、あくまで直感的に曲のアイデアをスケッチ感覚でガンガン作っていくデバイスとなっています。

そのため、一般的なオールインワンタイプのグルーヴボックスに比べて、使用できるトラックは4つに限られるなど、機能には一定の制限があります。

とはいえ、4つのトラックには、ドラムキット、サンプラー、インストゥルメントを自由に配置可能。ちなみに使用できるのは、Ableton Liveと同じソフトシンセ音源の「Wavetable」や「Drift」、「Drum Sampler」などのインストゥルメント。

また各トラックには、リバーヴ、ディレイといった8種類の内蔵オーディオエフェクトなどから最大2つのエフェクトを使うことが可能です。さらにマスター出力にも2つのエフェクトを使えるなど、トラック数にこそ限りはあるものの、サウンドデザインは本格的に行なえます。

Ableton Moveでは、「ノートモード」と呼ばれる画面を開き、パッドを使ってシンセなどのインストゥルメントやドラムのフレーズを作成します。

Ableton Moveには、キー・スケール指定機能が搭載されているため、ユーザーが指定したキー・スケール内にある音を使って、演奏します。この機能にはインキーモードとクロマッティックモードの2つがあり、ユーザーは好みの設定で使用できます。あらかじめキーとスケールが指定されているため、基本的に音が外れることはないので、思いついたフレーズをパッドでガンガン作成できます。

ノートモードで演奏する際のインキーモード画面。左上のディスプレイに現在のキー・スケールが表示される。設定はディスプレイ下のエンコーダーを回して変更する。
ノートモードで演奏する際のインキーモード画面。指定したスケール内の音のパッドは点灯する。

作成したフレーズは本体左下部分にある「レコーディング」ボタンを押すと、リアルタイム録音できます。また、Ableton MoveにはAbleton Liveと同じ、レコーディングボタンを押さずとも本体が自動で直前に試し弾きしたフレーズを記録してくれる「キャプチャー」機能も搭載されています。本体右端部分についている「キャプチャー」ボタンを押せば、「これは!」と思ったフレーズを録音していなくても後から呼び出してくれるので、アイデアベースでの作曲がサクサク進みます。

また、ドラム演奏の専用モードとして、32個のパッドの半分を使った16パッドでの演奏モードも用意されています。この演奏モードでは、ユーザーが選択したドラムキット音源に入っているキック、スネア、ハイハットなどの各ドラムサンプルが自動で16パッドに配置されます。

さらにAbleton Moveでは「16ピッチ」レイアウトという、ドラムキットの中からユーザーが選択したドラムサンプル音源に音程を付けて、別の16パッドに配置してくれます。この機能を使うことで、ドラムサンプルをメロディー楽器のように演奏でき、たとえば、メロディックなパーカッション・フレーズなどが手軽に作成できます。

16ドラムパッド x 「16ピッチ」レイアウト画面。左部分4x4のパッドがドラムキット。右部分4x4のパッドが16ピッチ。

ちなみにシンセなどのインストゥルメントやドラムはリアルタイムで演奏するだけでなく、一般的なドラムマシンのように16ステップシーケンサーでの入力も可能。たとえば、3つの音を同時に鳴らすコードをリアルタイムで鳴らすのは難しいという人は自分が使いたいコードをパッドで鳴らし、それをステップシーケンサーの任意のステップに打ちこめば、簡単にコード演奏も可能です。

フレーズを作成したあとのアレンジも簡単

ノートモードでは、パッドの下にある16個のボタンがステップシーケンサーとして機能する。

こうして作成したフレーズは、ループの開始位置を調整したり、ナッジしてフレーズのズレを調整したりすることも可能。また、クオンタイズのかけ具合も調整できるので、衝動的に作成したアイデアの微調整も手軽に行なえます。

また、作成したフレーズは「クリップ」として、「セッションモード」画面に配置されます。このセッションモードとノートモードは本体左部にある「3本線」ボタンを押して切り替えます。セッションモードでは、4つのトラックそれぞれで作成したクリップが配置され、中にフレーズが入っているクリップは色付きで表示され、再生中のクリップは点滅する仕様になっています。

作成できるクリップは1トラックにつき、最大8つ。これらは「セッションモード」画面の横列に配置されます。クリップは同時に最大4つまで再生でき、これらはすべて設定した本体のマスターBPMに同期する形で再生されます。たとえば、縦列ごとに異なる展開を構成するクリップを作成した場合、クリップを順番に左から右に再生していくとその構成どおりに展開する曲として再生することもできます。

セッションモード画面。ノートモードで作成したクリップが入っているパッドが点灯する。再生中のパッドは点滅する。

また、クリップはタップすると再生できる仕組みになっているので、たとえば、縦列1に配置されているシンセのクリップを別の縦列に配置しているクリップと入れ替えることも可能。これにより組み合わせをリアルタイムで変更しながら、曲の展開を自由にアレンジしていくことも可能です。

ネットワークに繋げばさらに可能性は広がる

Ableton Moveではこのようにユーザーが感じたままにシンプルな4トラックの音楽制作が可能です。しかし、ここで生まれた曲のアイデアをさらに発展させたい場合は、Ableton Liveでブラッシュアップするという方法もあります。その場合、Ableton Moveの「セット」と呼ばれるセッションデータをAbetonの専用クラウド「Ableton Cloud」もしくはデスクトップベースのオンライン専用管理ソフト「Move Manager」に移します。

また、Ableton MoveはWi-Fiにも対応しているため、自宅のWi-Fiと同じネットワークに接続していれば、この作業も簡単。Moveで作ったセットは、自動で「Move Manager」に保存されます。Move Managerでは、Ableton Live用のセットデータがダウンロードできるほか、Ableton Moveで作成した曲をWAVもしくはMP3でダウンロードすることも可能です。

Jun Fukunaga fka LC · Set 5 by Ableton Move

また、Ableton Moveのサンプリングした音ネタもこちらに自動でアップロードされるので、後からこの音ネタを別の曲にも使えるので非常に便利です。また、セットやサンプル名はこちらでリネームできるので、管理もしやすくなります。

Move Manager画面。アップロードされたAbleton Moveで作成したセットや録音などを管理、ダウンロードできる。

ダウンロード、もしくはAbleton CloudにアップロードしたセッションファイルはAbleton Liveで開けるため、Ableton Moveで作業中に「ここをもう少し手を加えたい」と思っていた部分を発展させる、あるいは大胆に音源を入れ替えるといったことが可能です。また、iPhone用のAbletonのガジェットアプリ「Note」でも使用できるので、Ableton Cloud経由でセットをダウンロードして、スマホで続きのアイデアを作成するといった使い方もアリです。

Ableton Moveで作成したセットをAbleton Liveに読み込んだ画面。セットはMove ManagerもしくはAbleton Cloudにアップロードされる。Ableton Cloudにアップしておけば、直接Ableton Liveからセットを呼び出せる。

さらにAbleton Moveを付属のUSB-CケーブルでPCと接続すれば、コンパクトなLive専用コントローラーとしても使えます。Ableton Pushはサイズが大きく作業スペースに困るといった既存のLiveユーザーからすると非常にありがたいですね。

Ableton Moveは、機能的には限定されながらも、とにかくインスピレーションを逃さずにキャッチアップしたいという人に最適な音楽制作ガジェットになっています。実際に使ってみたところ、特に音源やエフェクト選定時の階層が少ないため、それらの呼び出しがかなりスムーズだと感じました。こうした簡単な操作性は、初めて音楽ガジェットを使う人ならありがたいはず。

使い方としては出先でサクッとアイデア作りに使う方法はもちろんのこと、対応する外部機材との同期機能「Ableton Link」対応機種なので、複数のAbleton Moveユーザーで集まって同期セッションしてみるという方法も楽しそうです。

Ableton Moveのお値段は6万9800円(税込)で「Melodics」による無料練習レッスンも用意されています。また、最新のAbleton Live 12.1「Intro」も付属するので、Ableton Moveで作成した楽曲アイデアをどんどん発展させていきましょう。

音楽ガジェット初心者から経験者まで幅広くカバーするAbleton Move。きっと買って損はないと思いますよ!

Source: Ableton