「老後ひとり難民」予備軍は「7割近くが独居または夫婦のみ」というデータの怖さ…世帯主が65歳以上の世帯はどう生きるか

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配偶者がいたとしても、老後は安心できない。もしかしたらどちらかが認知症になることもあれば、先立たれてしまうこともある。

そうした人たちは「老後ひとり難民予備軍」とも言える。

老後に頼る人がいない「老後ひとり難民」が直面する課題や現実について取り上げている、日本総合研究所創発戦略センター シニアスペシャリスト・沢村香苗さんの著書『老後ひとり難民』(幻冬舎新書)。

増えることが予想される「老後ひとり難民」予備軍と、それに伴う人材不足について一部抜粋・再編集して紹介する。

高齢夫婦2人暮らしでもリスクあり

介護保険の制度設計当初は、「介護保険外」のことは家族や地域が担うものという前提があったわけですが、その「家族や地域」の現実がどうなっているのか、データを見ていきましょう。

国立社会保障・人口問題研究所による「日本の世帯数の将来推計(2024年)」のデータです。

世帯主が65歳以上の世帯について、「単独」「夫婦のみ」「夫婦と子」「ひとり親と子」「その他」の5類型に分け、それぞれの割合を示しています。

2020年には「単独」の割合が35.2%、「夫婦のみ」の割合が32.2%。高齢者だけで暮らす「単独」または「夫婦のみ」の世帯が、実に7割近くにものぼっていることがわかります。

「夫婦で暮らしているなら、さほど心配はいらないのでは?」と思う方もいるかもしれません。

しかし、高齢の夫婦2人暮らしは、一見普通に生活しているように見えても、実は大きなリスクを抱えています。

老老介護が何かと問題になっていますが、いずれかが亡くなれば独居になってしまいますし、夫婦で支え合っている状態では、どちらかが入院するだけでも、たちまち日常生活に支障が出ます。

たとえば、夫が車の運転を担っている場合、その夫が入院すれば、妻は車の運転ができず、外出が難しくなります。そうなると、入院中の夫へのサポートも十分に提供できないかもしれません。

“閉じた”生活が続く夫婦は危険

妻が掃除、洗濯や食事の準備などの家事をすべて担っているという高齢者夫婦はめずらしくありませんが、いざ妻が入院すると、夫は自力ではご飯を炊くことさえできず、うろたえるケースも多々あります。

また、夫婦どちらも介護保険サービスを使うようになることも考えられます。

先に一方が介護保険サービスを使っているとしても、もう一方が新たに介護保険サービスを使うとなれば、また介護保険の利用申請など一から手続きが必要です。

いずれにしても、高齢の夫婦だけの生活は、まるで薄氷の上を歩いているようなものです。一見安定しているようでも、実際には日に日に氷が薄くなっていくのです。

子どもがいても遠方に住んでいる場合や、地域の人たちとの関わりが少ない場合など、夫婦2人だけの“閉じた”生活が続いている状態は、特に危険だといえます。

「世帯主が65歳以上の世帯のうち、7割近くが独居または夫婦のみ」というデータの怖さが伝わったでしょうか。

さらに総務省統計局の「令和2年 国勢調査」のデータからは、ほとんどの都道府県では人口が減少傾向にあることもわかります。

2015年から2020年までの5年間で、人口が増えたのは東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県、愛知県、福岡県、沖縄県のみです。人口が増えている都県においても、単身世帯の割合は年々増加しています。

つまり、高齢者を支える「人」そのものが減っており、「人」が増えているエリアであっても、単身世帯の増加により「家族の支え合い」が期待しづらくなっているということです。

「家族で面倒を見る」時代の終焉

現在は介護保険制度が作られた当初と比べて、状況が大きく変化しています。

1947〜1949年に生まれた、いわゆる「団塊の世代」も高齢となり、要介護者となる方は急増すると考えられます。

この世代の方の場合、地方から首都圏への人口移動が進むなか、子どもが遠方に住んでいるなどで同居していないケースはめずらしくありません。

また、家族観も変化しており、親子間であっても互いに「あまり深く関わりたくない」「迷惑をかけたくない」と考える人も少なくありません。

「家族同士で面倒を見るのが当たり前」という時代は、すでに終わりつつあるのかもしれません。このような家族のあり方の変化は、介護保険制度の創設当時、十分には予測できていなかったのではないでしょうか。

さらに近年では「老老介護」だけでなく、「認認介護」という言葉もさまざまな場面で聞かれるようになりました。

100歳以上の「百寿者」は2000年には1万3000人ほどでしたが、2023年には9万2000人を超えるまでに増加しており、団塊の世代が100歳を迎える2024年には53万人に達するという予想もあります。

予想される介護ヘルパー不足

すでに私たちの身のまわりでは、70代の子どもが90代の親の介護をしたり、80代の高齢者夫婦間で介護し合ったりといったケースがめずらしくなくなっています。

介護保険制度は、長寿化によるこのような変化も、十分に織り込むことができていなかったのかもしれません。

また周辺の環境に目を転じれば、人手不足は年を追うごとに深刻化しています。

介護ヘルパーの有効求人倍率は2022年度に15.53倍でした。これはハローワークに登録して仕事を探している人1人に対して、求人が15件あるということを示します。つまり、求職者の数に比べて求人の数が圧倒的に多い状況です。

また、2022年度の「介護労働実態調査」によると、訪問介護のヘルパーの平均年齢は54.7歳で、60歳以上が38.1%、このうち70歳以上が13.5%でした。

人手不足と高齢化はあらゆる分野で見られる課題ですが、介護分野では特に大きな問題となっています。

さらにコロナ禍以降、人手不足の傾向は顕著になっており、介護保険サービスの十分な提供が担保されるのかについても注視していく必要があると思います。

高齢期の問題を考える際のベースとなる介護保険制度は、今さまざまな課題に直面しているのです。

沢村香苗
日本総合研究所創発戦略センター シニアスペシャリスト。精神保健福祉士、博士(保険学)。2014年に株式会社日本総合研究所入社。2017年よりおひとりさまの高齢者や身元保証サービスについて調査を行っている