豊川悦司が片岡愛之助、菅野美穂、天海祐希らと共演した映画「仕掛人・藤枝梅安」で見せた、苦悩と悲哀が絶妙なバランスの演技
豊川悦司が主演を務めた映画「仕掛人・藤枝梅安」二部作が、10月6日(日)と13日(日)に時代劇専門チャンネルで放送される。時代小説の大家・池波正太郎生誕100年記念作品として2023年に映画化され、藤枝梅安には豊川悦司が起用された。片岡愛之助が梅安の相棒・彦次郎にふんするほか、菅野美穂や天海祐希らキャストが名を連ね、ドラマ「桶狭間〜織田信長 覇王の誕生〜」(2021年)を手掛けた河毛俊作監督と、大河ドラマなどで活躍する脚本の大森寿美男が強力タッグを組んだ。
『仕掛人・藤枝梅安』と言えば、『鬼平犯科帳』『剣客商売』と並び池波正太郎の三大シリーズとして、長く愛されている名作だ。その最大の魅力は、主人公である梅安が、二つの顔を持つ独自の設定にある。人の命を救う「鍼医者」と、悪を闇に葬る「仕掛人」。相反する面を持つダークヒーローだが、実は「人は悪いことをしながら、一方では善いこともする矛盾した存在である」という、池波正太郎ならではの世界観を体現した人物として描かれている。
豊川をキャスティングしたのは、大柄で原作のイメージに近く、人間の陰と陽を絶妙なバランスで表現できる俳優であることが決め手だったという。実は豊川は少年時代から「梅安」の大ファンで、今回のオファーを快諾したという。リアリティを追求するべく、本格的な鍼の指導を受けるなど、並々ならぬ意気込みで梅安役に臨んだ。相棒の彦次郎を演じる片岡愛之助との息もピッタリ。梅安が唯一心を許す女性・おもんを演じる菅野美穂をはじめ、天海祐希、第一作ゲストの柳葉敏郎、早乙女太一ら豪華共演陣もそれぞれの持ち味を存分に発揮している。
「仕掛人・藤枝梅安」の物語はある晩、仕掛けの後に梅安(豊川)が帰り道に、浪人・石川友五郎(早乙女)が刺客を斬り捨てる場面を目撃したところから始まる。その後、梅安は蔓(仕掛けの仲介者)である、香具師の元締、羽沢の嘉兵衛(柳葉)から料理屋・万七の内儀おみの(天海)の仕掛けを依頼される。
しかし、3年前に万七の前の女房おしずを仕掛けたのは他ならぬ梅安だった。梅安は万七の女中のおもん(菅野)と深い仲になり、店の内情を聞き出す。おもんの話ではおしずの死後、おみのが内儀になってから、古参の奉公人たちが次々と去っていき、店の評判は落ちているのに儲けだけはあるという。おみのは店に女中として雇い入れた娘たちに客をとらせていたのである。かつておしず殺しを依頼したのはおみのなのか。仕掛人の掟に反すると知りながらも、梅安は3年前のいきさつを知りたいと思い始める.
これまで『仕掛人・藤枝梅安』はたびたび映像化されており、緒形拳、田宮二郎、小林桂樹、萬屋錦之介、渡辺謙、岸谷五朗といった名優たちが梅安を演じてきた。本作で梅安を演じた豊川は、そんな名優たちに一歩もひけを取らないほど、本当に魅力的だ。何とも言えない色気、陰影のある抑えた演技で、梅安の苦悩と悲哀を申し分なく表現している。
体躯を生かした仕掛けの場面も静かな迫力を感じさせる。Netflixのドラマ「地面師たち」(2024年)での強烈な悪役ぶりで評価がさらに高まっている豊川だが、梅安役では同作とは異なった彼の大いなるポテンシャルを見せている。愛之助とのバディ感も本作の大きな特徴となっていて、愛之助の歌舞伎役者らしい所作の素晴らしさにも魅了される。菅野、天海ら女優陣も実にいい味を出していて、画面を引き締めてくれた。
令和の時代劇らしく、最新の技術を生かして江戸の街並みを再現するなど、映像美も特筆すべきだ。映画「仕掛人・藤枝梅安」第二作目には、一ノ瀬颯、椎名桔平、佐藤浩市ら第一作に劣らず豪華キャストが登場。池波正太郎の世界観や時代劇の伝統をリスペクトしつつ、メイド・イン・ジャパンのエンターテインメント作品として、世界に誇るべき映画となった「仕掛人・藤枝梅安」。豊川の演技と共に必見の一作と言えるだろう。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
仕掛人・藤枝梅安(主演:豊川悦司)
放送日時: 10月6日(日)19:00〜
仕掛人・藤枝梅安2(主演:豊川悦司)
放送日時: 10月13日(日)19:00〜
チャンネル: 時代劇専門チャンネル
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