『虎に翼』桂場役の松山ケンイチ、団子も用いて感情を表現「仏頂面が基本形なので…」 独自の役作り明かす
●「武士の精神」を取り入れた役作り
いよいよ最終週を迎える連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合 毎週月〜土曜8:00〜ほか ※土曜は1週間の振り返り)。本作で伊藤沙莉演じる主人公・寅子の上司・桂場等一郎役を演じている松山ケンイチが、役への独自のアプローチ方法について語った。
『虎に翼』桂場等一郎役の松山ケンイチ
本作は、日本初の女性弁護士で、のちに裁判官となった三淵嘉子さんをモデルにした主人公・寅子の人生を描く物語。松山演じる常に仏頂面で堅物の桂場は、かなりの切れ者で、これまでに何度か寅子をサポートしてきた。桂場の志は高く、何よりも司法の独立を重んじてきたが、理想を追求しすぎることで亀裂も生じてきた。問題山積みの最終週で、果たして桂場はどんなジャッジを下していくのか。
人気と実力を兼ね備え、常に入念なアプローチをして現場に臨むことで知られる松山。桂場の役作りについては「武士の精神」を取り入れたと明かす。
「最初に桂場を演じる上で、いろいろとリサーチしたり、監督と話し合ったりする中で、桂場のモチーフになった方が小さい頃から剣道をされていたようで、ずっと武道に携わった人だったのなら武士の精神を桂場に取り入れたいなと思いました」
折しも、『虎に翼』の撮影に入る前に、大河ドラマ『どうする家康』(2023)で本多正信役を演じていたことも大きかったようだ。
「ある意味、武士は男性特有のものなので、男性社会での立ち振る舞いや生き方、考え方みたいなものを入れ込みたいと思いました。もちろん女性に対しての厳格さは、男性に対しても同じだったと思いますが、実際に物事をどう考え、どう向き合っていくかという覚悟を、すごく研ぎ澄まさせていきました」
「司法の独立」を保つことは決して容易ではないが、桂場は頑なにそこをこだわり続け、自分の考えを押し通そうとする。
「彼は、司法の独立のために生きているみたいなところもあるので、ちょっとでもそこがぶれるわけにはいかないと、自分を律しているのではないかと。また、司法に携わる人に対してもそういう考えを持っていてほしいと思っているのかもしれません。司法の独立がないと三権分立も成立しないので、すごく厳格にならざるを得ないのかなと」
松山自身と役との共通点や相違点を問われると「僕は桂場ほど考えて生きていないし、周りの常識やルール、法律みたいなことも受け入れつつ、その中で自分がどう心地良く幸せに生きていくのかを考えていたいので、桂場とは全然違います。僕は法律自体を変えてやる! とか、自分で意見を言って、その幅を広げていくというような生き方はしてないし、すごく緩さを持って生きているような気もします」と自身を分析。
とはいえ、桂場との共通点もあると言う松山。
「桂場と僕は全く違いますが、桂場は厳格さの中にも、団子が大好きといった一面もあり、そこは人として似ているのかなと。歳を取ってくるとそんなに食べなくなってきていますが、僕も甘いものは好きなので。岩田(剛典)くんが演じた花岡悟は、法を守って餓死しましたが、桂場はそうではなく、どこかで線引きをしている感じがします。それは現代を生きる上でなくてはならない感覚だろうし、そこは自分と近いなとは思っています」
●顔の表情で表現できない代わりに手や仕草で
桂場が愛する団子は、桂場にとってなくてはならない必須アイテムといえそうだが、松山も「僕はいろいろと小道具を使うのが好きで、小道具によっていろんな表現ができるとも思っています」とユニークなアプローチ方法について語る。
「僕は小道具を使って現場で遊んでいるのですが、これはきっと誰も気づかないだろうと思っていたのに、SNSを見て『細かいところまで見てくれている方がいるんだな』とよく驚きます。それってすごいことだなとも思いますが、画面に映るすべてが表現につながることが逆に怖いなとも感じました。だから、身体全体を使って、指先まで何を表現するべきなのかということをすごく考えさせられます」
そういった松山の遊び心によって桂場の多面的な魅力が際立っているが、松山自身は「脚本や演出、共演者の方々の受けなどによって、桂場というキャラクターをより面白くしていただいたし、そこが大きかったと思います」と感謝する。
「桂場は仏頂面が基本形なので、そこをどう崩して表現していくのかが重要でした。常に出ていて、自分の心情を説明するような人でもないし、出てくるたびに煽り続けるタイプです。例えば『女性は男性より何十倍も勉強しないとダメだ』といったことを最初から言っていますが、その煽りが背中を押すことにもつながっていて、桂場はそういう風にしか表現できないんだろうなと思いました」
ともすれば、ステレオタイプの頑固キャラになりがちだが、桂場はそうではない。
「単に意地悪な感じだと、役の幅が狭くなり、記号でしかなくなってしまいます。いわば、そういう記号をどうやって今まで見たことのない記号にできるのかが大切で。どの役でもそうですが、そこを常に探っています。仏頂面の桂場は、顔の表情で表現できない代わりに、手や仕草で表現できることがたくさんあります」
実際に、団子を食べようとした瞬間、寅子に話しかけられて手を止めるという仕草が何度も笑いを誘ってきたが、あのくだりは脚本には書かれていなかったそうだ。
「せっかく目の前に団子があるから、これを利用しない手はないなと。話しかけられても、それを無視して食べればいいのに食べないという桂場の人間性が、なんとなく見ている方にも伝わるかなと。一旦、団子を置けばいいのに桂場は置かない(笑)。その仕草で、団子とトラちゃんの話のどちらを優先するのかを迷っているという表現になります。今回はそういうところをいろいろと試せてすごく勉強になりました。また、それをやらせていただけた現場の皆さんにも感謝しかないです」
●桂場役に込めた自分自身の理想像とは?
寅子と桂場のやりとりは、コミカルなものからシリアスなものまで、数多くの見せ場となっているが、寅子役の伊藤については賛辞を惜しまない。
「出番が多く、毎日撮影に励んでいる状況ですが、電池切れみたいな状態になることが全くないので、本当にすごいです。僕は大河ドラマ(『平清盛』)で何度かそれを経験していますが、電池切れになると役の方向性が迷子になるし、それを修正することすら考えられなくなってしまう。でも、沙莉ちゃんは迷いがない感じがします。年齢によって演じる環境や立ち位置は変わっていくし、それぞれ曲げていかなきゃいけないと思いますが、沙莉ちゃんはそこも迷いなくやられているし、体力もあるなと感心します」
少年犯罪の厳罰化が懸念される中、法制審議会少年法部会の委員となった寅子が、いよいよ来週迎える最終週でどう奮闘していくのか。その鍵を握るのが、最高裁判事である桂場となりそうだ。司法の独立という理想を貫こうとする桂場だが、松山によると「理想と理想のぶつかり合いみたいなものが展開される。桂場はトラちゃんにとっての味方でもあるけど、時には敵にもなるんです」ということで、大いに気になる。
改めて、松山は桂場について「長い間やらせていただいて、僕の中でも大切なキャラクターとなりました」と思い入れを明かし「僕は演じる役に自分の理想みたいなものを込めるところがあります。僕自身は法曹界の人間でもないし、ただの田舎のおじさんですが、人権や権力に対して戦う人はこうであってほしいという思いが、このドラマにもかなり作用されたような気がします」と述懐。
「もちろん誰しも日本の全国民を見られるわけではないし、地域によっても全然文化も違う中、日本全国一律の法律を作ることはものすごく大変なことです。ましてや1人の人間が最高裁長官としてジャッジをしていくなんて本当に難しいです。しかも時代によって正解がどんどん変わっていくし、人はみんな間違うのが当たり前のこと。でも、『それは間違っているんじゃないか』というところから議論が始まっていくんだと思います。間違いを認めることも大切で、そこから対峙していくことが人権を大切にすることなのではないかなと、このドラマを通して考えさせられました。本作は、人に対しての優しさを感じられる人間讃歌のドラマになっていると思いますので、ぜひ最後まで見届けていただきたいです」と語っていた。
■松山ケンイチ
1985年3月5日生まれ、青森県出身。2002年にドラマ『ごくせん』で俳優デビュー。2006年『デスノート』『デスノート the Last name』で大ブレイク。大河ドラマ『平清盛』(12)で主演を務め、『どうする家康』(23)にも出演。近年の主な映画出演作に『BLUE/ブルー』(21)、『ノイズ』(22)、『川っぺりムコリッタ』(22)、『ロストケア』(23)、『大名倒産』(23)など。染谷将太とのW主演映画『聖☆おにいさん THE MOVIE〜ホーリーメン VS 悪魔軍団〜』が12月20日公開予定。
(C)NHK
いよいよ最終週を迎える連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合 毎週月〜土曜8:00〜ほか ※土曜は1週間の振り返り)。本作で伊藤沙莉演じる主人公・寅子の上司・桂場等一郎役を演じている松山ケンイチが、役への独自のアプローチ方法について語った。
『虎に翼』桂場等一郎役の松山ケンイチ
本作は、日本初の女性弁護士で、のちに裁判官となった三淵嘉子さんをモデルにした主人公・寅子の人生を描く物語。松山演じる常に仏頂面で堅物の桂場は、かなりの切れ者で、これまでに何度か寅子をサポートしてきた。桂場の志は高く、何よりも司法の独立を重んじてきたが、理想を追求しすぎることで亀裂も生じてきた。問題山積みの最終週で、果たして桂場はどんなジャッジを下していくのか。
「最初に桂場を演じる上で、いろいろとリサーチしたり、監督と話し合ったりする中で、桂場のモチーフになった方が小さい頃から剣道をされていたようで、ずっと武道に携わった人だったのなら武士の精神を桂場に取り入れたいなと思いました」
折しも、『虎に翼』の撮影に入る前に、大河ドラマ『どうする家康』(2023)で本多正信役を演じていたことも大きかったようだ。
「ある意味、武士は男性特有のものなので、男性社会での立ち振る舞いや生き方、考え方みたいなものを入れ込みたいと思いました。もちろん女性に対しての厳格さは、男性に対しても同じだったと思いますが、実際に物事をどう考え、どう向き合っていくかという覚悟を、すごく研ぎ澄まさせていきました」
「司法の独立」を保つことは決して容易ではないが、桂場は頑なにそこをこだわり続け、自分の考えを押し通そうとする。
「彼は、司法の独立のために生きているみたいなところもあるので、ちょっとでもそこがぶれるわけにはいかないと、自分を律しているのではないかと。また、司法に携わる人に対してもそういう考えを持っていてほしいと思っているのかもしれません。司法の独立がないと三権分立も成立しないので、すごく厳格にならざるを得ないのかなと」
松山自身と役との共通点や相違点を問われると「僕は桂場ほど考えて生きていないし、周りの常識やルール、法律みたいなことも受け入れつつ、その中で自分がどう心地良く幸せに生きていくのかを考えていたいので、桂場とは全然違います。僕は法律自体を変えてやる! とか、自分で意見を言って、その幅を広げていくというような生き方はしてないし、すごく緩さを持って生きているような気もします」と自身を分析。
とはいえ、桂場との共通点もあると言う松山。
「桂場と僕は全く違いますが、桂場は厳格さの中にも、団子が大好きといった一面もあり、そこは人として似ているのかなと。歳を取ってくるとそんなに食べなくなってきていますが、僕も甘いものは好きなので。岩田(剛典)くんが演じた花岡悟は、法を守って餓死しましたが、桂場はそうではなく、どこかで線引きをしている感じがします。それは現代を生きる上でなくてはならない感覚だろうし、そこは自分と近いなとは思っています」
●顔の表情で表現できない代わりに手や仕草で
桂場が愛する団子は、桂場にとってなくてはならない必須アイテムといえそうだが、松山も「僕はいろいろと小道具を使うのが好きで、小道具によっていろんな表現ができるとも思っています」とユニークなアプローチ方法について語る。
「僕は小道具を使って現場で遊んでいるのですが、これはきっと誰も気づかないだろうと思っていたのに、SNSを見て『細かいところまで見てくれている方がいるんだな』とよく驚きます。それってすごいことだなとも思いますが、画面に映るすべてが表現につながることが逆に怖いなとも感じました。だから、身体全体を使って、指先まで何を表現するべきなのかということをすごく考えさせられます」
そういった松山の遊び心によって桂場の多面的な魅力が際立っているが、松山自身は「脚本や演出、共演者の方々の受けなどによって、桂場というキャラクターをより面白くしていただいたし、そこが大きかったと思います」と感謝する。
「桂場は仏頂面が基本形なので、そこをどう崩して表現していくのかが重要でした。常に出ていて、自分の心情を説明するような人でもないし、出てくるたびに煽り続けるタイプです。例えば『女性は男性より何十倍も勉強しないとダメだ』といったことを最初から言っていますが、その煽りが背中を押すことにもつながっていて、桂場はそういう風にしか表現できないんだろうなと思いました」
ともすれば、ステレオタイプの頑固キャラになりがちだが、桂場はそうではない。
「単に意地悪な感じだと、役の幅が狭くなり、記号でしかなくなってしまいます。いわば、そういう記号をどうやって今まで見たことのない記号にできるのかが大切で。どの役でもそうですが、そこを常に探っています。仏頂面の桂場は、顔の表情で表現できない代わりに、手や仕草で表現できることがたくさんあります」
実際に、団子を食べようとした瞬間、寅子に話しかけられて手を止めるという仕草が何度も笑いを誘ってきたが、あのくだりは脚本には書かれていなかったそうだ。
「せっかく目の前に団子があるから、これを利用しない手はないなと。話しかけられても、それを無視して食べればいいのに食べないという桂場の人間性が、なんとなく見ている方にも伝わるかなと。一旦、団子を置けばいいのに桂場は置かない(笑)。その仕草で、団子とトラちゃんの話のどちらを優先するのかを迷っているという表現になります。今回はそういうところをいろいろと試せてすごく勉強になりました。また、それをやらせていただけた現場の皆さんにも感謝しかないです」
●桂場役に込めた自分自身の理想像とは?
寅子と桂場のやりとりは、コミカルなものからシリアスなものまで、数多くの見せ場となっているが、寅子役の伊藤については賛辞を惜しまない。
「出番が多く、毎日撮影に励んでいる状況ですが、電池切れみたいな状態になることが全くないので、本当にすごいです。僕は大河ドラマ(『平清盛』)で何度かそれを経験していますが、電池切れになると役の方向性が迷子になるし、それを修正することすら考えられなくなってしまう。でも、沙莉ちゃんは迷いがない感じがします。年齢によって演じる環境や立ち位置は変わっていくし、それぞれ曲げていかなきゃいけないと思いますが、沙莉ちゃんはそこも迷いなくやられているし、体力もあるなと感心します」
少年犯罪の厳罰化が懸念される中、法制審議会少年法部会の委員となった寅子が、いよいよ来週迎える最終週でどう奮闘していくのか。その鍵を握るのが、最高裁判事である桂場となりそうだ。司法の独立という理想を貫こうとする桂場だが、松山によると「理想と理想のぶつかり合いみたいなものが展開される。桂場はトラちゃんにとっての味方でもあるけど、時には敵にもなるんです」ということで、大いに気になる。
改めて、松山は桂場について「長い間やらせていただいて、僕の中でも大切なキャラクターとなりました」と思い入れを明かし「僕は演じる役に自分の理想みたいなものを込めるところがあります。僕自身は法曹界の人間でもないし、ただの田舎のおじさんですが、人権や権力に対して戦う人はこうであってほしいという思いが、このドラマにもかなり作用されたような気がします」と述懐。
「もちろん誰しも日本の全国民を見られるわけではないし、地域によっても全然文化も違う中、日本全国一律の法律を作ることはものすごく大変なことです。ましてや1人の人間が最高裁長官としてジャッジをしていくなんて本当に難しいです。しかも時代によって正解がどんどん変わっていくし、人はみんな間違うのが当たり前のこと。でも、『それは間違っているんじゃないか』というところから議論が始まっていくんだと思います。間違いを認めることも大切で、そこから対峙していくことが人権を大切にすることなのではないかなと、このドラマを通して考えさせられました。本作は、人に対しての優しさを感じられる人間讃歌のドラマになっていると思いますので、ぜひ最後まで見届けていただきたいです」と語っていた。
■松山ケンイチ
1985年3月5日生まれ、青森県出身。2002年にドラマ『ごくせん』で俳優デビュー。2006年『デスノート』『デスノート the Last name』で大ブレイク。大河ドラマ『平清盛』(12)で主演を務め、『どうする家康』(23)にも出演。近年の主な映画出演作に『BLUE/ブルー』(21)、『ノイズ』(22)、『川っぺりムコリッタ』(22)、『ロストケア』(23)、『大名倒産』(23)など。染谷将太とのW主演映画『聖☆おにいさん THE MOVIE〜ホーリーメン VS 悪魔軍団〜』が12月20日公開予定。
(C)NHK