長澤まさみ「意外だね、と言われることが多くて、驚いています」

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あるときはハチャメチャな詐欺師、あるときは山の民を武力で束ねる美しき山の王、あるときは自堕落で鬼畜な母親、またあるときは「正しさとは何か」を追求する検事……。作品と真摯に向き合い、役柄ごとに身にまとう空気を変える長澤まさみという俳優。そのストイックなまなざしに、私たちは強く惹きつけられる。

三谷幸喜監督の最新映画『スオミの話をしよう』で長澤さんが演じるのは、消えたミステリアスな女性・スオミ。現夫で富豪の詩人・寒川(坂東彌十郎さん)、そして元夫である刑事・草野(西島秀俊さん)、ユーチューバー・十勝(松坂桃李さん)、庭師・魚山(遠藤憲一さん)、警察官・宇賀神(小林隆さん)という5人の男に愛されたスオミとはどんな女性だったのか? 彼女はなぜ、次々と相手を変えていったのかーー?

俳優という仕事、三谷監督との出会い、そして本作への思いについて聞いたインタビュー前編に続き、後編では「人の求める自分になる」とはどういうことかを中心に「自分の人生の作り方」を聞いた。オファーを受ける際に大切にしていることや、子ども時代、そして人間の多面性にも言葉が広がっていき……。

それなりにやっていたら、それなりの作品にしかならない

『コンフィデンスマンJP』といったエンターテインメント作品から、『MOTHER マザー』『ロストケア』「エルピスー希望、あるいは災いー」などシリアスな作品まで、次々主演。主演作でなくとも、「真田丸」『キングダム』、ナレーションをつとめた「鎌倉殿の13人」など話題作には欠かせない俳優となっている長澤さん。野田秀樹さんの舞台『正三角形』は、11月にロンドン公演を控える。自身がオファーを受ける際に大切にしているのはどういうことだろうか。

「大切にしているのは、『引き受けたからにはやりきる』ことですね。オファーをいただくなかで、この監督とお仕事をしてみたいという理由でお引き受けすることもありますし、本を読んで決めたり。

そんなかで私が今意識しているのは、自分がその作品にきちんと興味を持ち、疑問を感じたら準備の段階から問えるようにしておきたい、ということ。そのためには事前にもっといろいろな方の作品を観て、勉強しておく必要があります。世の中には素晴らしい作品がたくさんあるのに、全然観きれていないんですよ。

どんな作品でも、またどんな状況でも、自分がその役をどう膨らませられるかで、作品や役の印象は大きく変わります。これはすべての俳優に言えることですが、それなりにやっていたら、それなりの作品にしかなりませんよね。

私自身『もっとできるんじゃないか』『こういう芝居をしたい』という欲がありますし、もちろん自分に満足もしていない。多分、誰もが同じように考えているでしょうし、だからこそ俳優どうし切磋琢磨しているのだと思います」

俳優になるとは思いもしなかった子ども時代

こちらの質問を受け、しばし考えた後に芯のある言葉を返してくれる長澤さん。若い頃から、このようにぶれない軸を持っていたのだろうか。

「いえいえ、デビューした頃は何もわからずやっていました。今思うと、当時から自分を振り返り、『私には何が必要なんだろう?』と考えることはしていた気がします。

『言われたことだけをやっていてはいけないんだな』というのは徐々に気づいたことですが、知ろうとすること、そして知った時に出てくる疑問から目をそらさず、きちんと向き合うことが大事なのだという意識は当時から持っていました。

幼い頃は、すごく敏感な子でした。うまく言葉にはできないけれど、『今、場の空気が変わった、何か違う』と瞬時に気づくタイプでしたね。

ただ、昔から演じる仕事をしたいと思っていたわけではないんです。映画館で最初に見たのは小学生の時に見た『金田一少年の事件簿』で、ドラマから派生した映画でした。ほかに見る映画は『E.T.』など、金曜ロードショーでやるような大作でしたし、まさか将来、自分が映画に出演する側になるとは思いもしなかったです」

「この仕事を辞めて実家に帰る」と言っていた時期も

長澤さんは2000年に、第5回「東宝シンデレラ」オーディションにてグランプリを獲得。同じ年に映画『クロスファイア』で俳優としてデビューした。2004年には映画『世界の中心で、愛をさけぶ』で第28回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞・話題賞などを受賞している。子どもの頃は特にそれを仕事にしようと思っていなかったというのが信じがたい。

「俳優という仕事にはまった理由は、現場が好きだったというのが大きいと思います。最初に入った映画の現場のスタッフさんがとにかく優しくて、すごく大事にしてくれたんですね。

撮影が終わると、皆さんが『今日一日よく頑張ったね!』と褒めてくれるのですが、子どもだったので大人のそういう言葉が嬉しくて。褒められることに喜びを感じ、またそう言ってもらいたくて頑張っていました。

でも一方で、『もうこの仕事を辞めて実家に帰るんです』と言っていた時期もあったみたいなんです(笑)。『ぴったんこカン・カン』という番組に出演した際、安住(紳一郎)アナと昔の話をしていた時に『前にそうおっしゃってましたよね?』と言われたんです。

私、話をした事をは結構忘れないほうかなと思っていたけど、覚えていないこともあるんだなあと驚いた記憶があります。きっと自分なりにいろいろな思いを抱えて、悩みながらやっていたんでしょうね。

今はもう、過去のことは全然思い出さなくなりました。目の前にあることに一生懸命で、思い出している暇がないんです(笑)」

自分へのご褒美は、シーズンに楽しむスキー

このインタビューは、野田秀樹さん作・演出の舞台『正三角関係』の東京公演を終え、北九州公演を目前に控えた時期に行われた。多忙な日々の合間の息抜き、または自分へのご褒美はあるのだろうか。

「あ、ご褒美はちゃんとあります。旅行は仕事の合間に結構行っていますし、ここ何年かはスキーを楽しんでいます。スノボは怖くてできないのですが、スキーが好きでシーズンが来るのを楽しみにしています。

これからの人生では、好きなことを積極的にしていきたいと考えているんです。スキーはもちろんとして、たとえば全然行けていない陶芸もそうですし、あとはお料理教室にも通いたい。お料理はもともと好きなのですが、とにかく今は習い事をいろいろやってみたいと思っています。

『真田丸』の頃、三谷さんに言われたんです。『人生は意外と短いから、やりたいと思ったことはやっておいたほうがいいよ』と。確かにそうですよね。

忙しいから、時間がないからと後回しにしていないで、今やりたいと思ったらどんどんやっていくのが正解な気がします」

どの自分が自分なのか、探し続けているのがスオミ

相手が望む妻を自在に演じ、5人の夫を翻弄したスオミ。スオミほどではないにしても、私たちも日頃、相手の好みや状況に合わせて自分を演出する程度のことは自然にやっている。そもそもスオミはなぜ、5人の夫の前で明らかに違う“相手が望む姿”になっていたのだろう?

「私は、自分を探していたからだと思います。どの自分が本当の自分なのか、探し続けているのがスオミだから。

相手に合わせてしまうのは、まだ自分というものがないから。自由に生きている人って、自分を見つけるのが早かった人なんだろうなと思うんです。本当の自分を見つけたからこそ自由でいられる。周囲に流されているということは、まだ自分探しをしている途中なんでしょうね。

スオミは、自分の居場所だったり自分らしさだったりを探している途中で、出会った人たちとの関係性から生まれた新たな自分と向き合って、いつも『これが本当の自分かもしれない!』と思うけれど『やっぱり違った……』ということだったのかなと。

ちなみに私個人としては、西島秀俊さん演じる4番目の夫・草野圭吾と一緒にいる時のスオミが好きです。何もできないんだけど、自分なりに一生懸命やろうとしている女性。なかでも彼女のタクシーでのシーンが一番好きです。少しでも成長しようとしていて」

私は、他人に全部説明できるほど自分のことを知っているのかな?

作品ごとに違う顔を見せ、台本に書かれた役を演じる俳優という仕事。「求められる人物になりきる」という意味では、スオミと通ずる部分がある。

「確かにそうですよね。そもそも人間って、すごく多面的な生き物じゃないですか。以前、西川美和監督の『すばらしき世界』という作品で役に向き合った時、『果たして私は、他人に全部説明できるほど自分のことを知っているのかな?』と思ったんです。人って案外、自分について無知だったりしますから。

あと私はこれといったイメージがないせいか、昔から『長澤さんってそういう人だったんですね』と意外性を持たれることが多かったんです。たとえば『コンフィデンスマンJP』でひょうきんなダー子を演じた際には、“新たな一面”と言っていただいたり。実際のところ、私にも彼女のようにふざけちゃう一面はあるんですけどね、シャイなので表に出せないだけで(笑)。

10代の頃だったか、テレビの番宣で話すのが恥ずかしくて、笑ってごまかしていたことがありました。そうしたら『恥ずかしいなんて意外だね』と言われて。意外だと言われたこと自体が私には意外だったので、その時初めて『私は人からそう見えているのか。いろんな自分がいるんだな』と感じたんです。

人は、自分が見たいように人を見ます。でも無理にそのイメージに合わせる必要はないと思うんですね。ましてや、世間のイメージと違うからといって一歩を踏み出さないのはもっと違う。むしろそれを面白がってしまうくらいのほうが楽しく生きられる気がしますし、それが私の人生の作り方なのかなと今は思っています」

長澤まさみ

1987年6月3日生まれ。静岡県出身。2000年に第5回「東宝シンデレラ」オーディションにてグランプリを受賞。同年に映画『クロスファイア』(金子修介監督)でデビュー。2004年には、映画『世界の中心で、愛をさけぶ』(行定勲監督)で第28回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞・話題賞など数々の賞を受賞。その後もドラマ・映画・舞台と幅広く活躍。2019年には映画『キングダム』(佐藤信介監督)で、第43回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を、2020年には映画『MOTHERマザー』(大森立嗣監督)で、第44回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を2年連続で受賞。昨年主演を務めたTVドラマ「エルピス―希望、あるいは災い―」では第31回「橋田賞」を受賞するなど日本を代表する俳優。昨今の出演作は、映画『散歩する侵略者』(17年/黒澤清監督)、ドラマ・映画『コンフィデンスマンJP』シリーズ(18年〜)、映画『シン・ウルトラマン』(22年/樋口真嗣監督)、ミュージカル『キャバレー』(17年)、舞台・新感線☆RS『メタルマクベス』disc3(18年)、NODA・MAP番外公演『THE BEE』(21年)など。

三谷幸喜作品としては、舞台「紫式部ダイアリー」(14年)、ドラマ「わが家の歴史」(10年)、NHK大河ドラマ「真田丸」(16年)、「鎌倉殿の13人」(22年 ※語り)

映画『スオミの話をしよう』

その日、刑事が訪れたのは著名な詩人の豪邸。《スオミ》が昨日から行方不明だという。スオミとは詩人の妻で、そして刑事の元妻。刑事はすぐに正式な捜査を開始すべきだと主張するが、詩人は「大ごとにするな」と言って聞かない。

やがて屋敷に続々と集まってくる、スオミの過去を知る男たち。誰が一番スオミを愛していたのか。誰が一番スオミに愛されていたのか。スオミの安否そっちのけで、男たちは熱く語り合う。

だが不思議なことに、彼らの思い出の中のスオミは、見た目も、性格も、まるで別人。

スオミはどこへ消えたのか。スオミとは一体何者なのか。かくして極上ミステリー・コメディの幕が上がるーー。

ヘアメイク/スズキミナコ スタイリスト/小嶋智子

ドレス167,250円(アーデム / メゾン・ディセット)

ネックレス664,400円、右手:ブレスレット537,900円、中指に着けたリング2,244,000円、薬指に着けたリング649,000円、左手:ブレスレット3,212,000円(レポシ / レポシ日本橋三越本店)

問い合わせ先

メゾン・ディセット TEL:03-3470-2100

レポシ日本橋三越本店TEL:03-6262-6677

長澤まさみ「三谷幸喜さんに言われた言葉が、大きく影響しています」