「マッサマン」に扮するSnow Manの向井康二(フジテレビ提供)

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 日本テレビの『24時間テレビ 「愛は地球を救う」』が、今年で47回目を迎えた。その在り方を問われることも少なくない「24時間テレビ」だが、平均世帯視聴率12.5%、瞬間最高視聴率25.4%という数字が示すように、いまだ人気は根強い。その裏で、過去4回にわたってフジテレビは、ドッキリ特番を敢行。2021年からは、「ドッキリは地球を救うのか?4時間テレビ」と題し、「芸能人が本気で考えた!ドッキリGP」の4時間特番を仕掛けている。なぜフジテレビは、ドッキリで立ち向かい続けるのか。同番組の企画・チーフプロデューサーを務める蜜谷浩弥氏に話を聞いた。【我妻弘崇/フリーライター】

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【写真を見る】「ここのスタッフ、頭ちぎれてるわ!」 爆破ドッキリに引っ掛かった出演者は見たことのないような表情に

思わぬところで役立った「アカン警察」での経験値

「24時間テレビの裏にぶつけたいという気持ちは特になかったんです」

「マッサマン」に扮するSnow Manの向井康二(フジテレビ提供)

 そう語るのは、「芸能人が本気で考えた!ドッキリGP(以後、「ドッキリGP」)」で、企画・チーフプロデューサーを務める蜜谷浩弥氏。「竹やりで戦闘機に挑むようなもの」と自嘲気味に話すが、「24時間テレビ」の平均視聴率が世帯12.5%、個人7.5%、コア4.7%。対して、「ドッキリGP」の平均視聴率は世帯5.8%、個人4.1%、コア4.3%――、コア視聴率(ファミリー層の個人視聴率)では一時的に「24時間テレビ」を上回ったことに鑑みれば、同番組が多くの視聴者から支持を集めていることは明らかだろう。

 今年で4年連続となるフジテレビの「ドッキリは地球を救うのか?4時間テレビ」だが、冒頭の言葉にあるように「意図したものではなかった」と続ける。

「フジテレビには、毎週土曜 21時から放送されている『土曜プレミアム』という枠があります。この枠は、『人志松本のすべらない話』や『IPPONグランプリ』といったフジテレビを代表する特番バラエティを放送しています。とても注目度が高い枠ですから、当初はここで『ドッキリGP』を放送することができないかと考えたんですね」(蜜谷氏、以下同)

 蜜谷氏は、2002年にフジテレビ入社。お笑い班として実績を重ね、「笑う犬の情熱」「爆笑レッドカーペット」「桑田佳祐の音楽寅さん」といった人気バラエティにかかわってきた。

「総合演出として『爆笑 大日本アカン警察』を担当したのですが、この番組ではとにかく隠しカメラを仕掛ける機会が多かった(笑)。このときの経験が、ドッキリ番組を作ってみたいという大きな要因になりました。子どもから大人まで楽しめる――、それこそ子どもたちが放送を楽しみにするようなドッキリ番組を作りたいという思いがあって、放送作家の酒井健作さんと一緒に企画書を作ったのが始まりです」

24時間テレビの“裏”には当初反対したスタッフも

 数々のバラエティ番組に携わってきた蜜谷氏にとって、「ドッキリGP」は、“満を持した”番組だった。注目度の高い「土曜プレミアム」で放送されれば、一躍人気番組へ駆け上がることができると思った。だが、

「バラエティ番組だけではなく、映画やドラマも放送する枠ですから敷居が高く、なかなかGOサインがもらえませんでした(苦笑)。ところが、24時間テレビの裏だけはいつも視聴率で惨敗していたので、『そこならいい』と言われた。僕は番組に自信があったので、『その枠で構いませんので4時間やらせてください』とお願いしました」

 テレビマンにとって、今なお「24時間テレビ」は「巨人」のような存在だという。負けの結果が見えているため、対抗馬を名乗り出る者は少ない。火中の栗を拾うとはこのことだろう。誰も拾わないなら、ドッキリで拾いに行く。そう当時の想いを明かす。

「『ドッキリGP』は、とても手間とお金をかけている番組ですから、『24時間テレビの裏だったら見られないのでは?』とスタッフは反対しました。“愛で地球を救う”をスローガンに掲げている番組に対して、『僕たちは「笑い」だけを求めよう。それって面白くない?』と説明し、理解を得ていった。こうした意図に、首を縦に振ってくれるのがフジテレビの気風でもある。大きな枠でやることが、必ず認知につながると思ったんですね」

 その熱が伝わったのか、2021年放送回からコア視聴率においては善戦。中でも、菊池風磨(timelesz)へのドッキリ――アイドルが泥をかぶり、ハダカが映し出される様子は、バラエティ史に刻まれるほどのインパクトを残した。

今年もコア視聴率で一時「24時間テレビ」を抜いた

 2021年の好評を受け、翌年も4時間スペシャルを放送。このときは、ネルソンズ・和田まんじゅうのドッキリシーンが、「24時間テレビ」のコア視聴率を抜き去ったという。「旧約聖書」に登場する巨人兵士・ゴリアテは、羊飼いの少年・ダビデに倒されたが、相手が「24時間テレビ」であったとしても、情熱とアイデア次第で和田まんじゅうが風穴をあけられることを証明した。Xでは、「ドッキリGP」がトレンドになることが恒例となり、今年も一時「世界一」のトレンドワードに輝いた。確固たる人気を得たことで、「ドッキリは地球を救うのか?4時間テレビ」は、フジテレビの夏の風物詩になりつつある。

「最近は、年配者に支持される番組は世帯視聴率のみが高く、若者に支持される番組はコアのみが高い傾向にあります。『ドッキリGP』は60歳以上の視聴者はほぼ見ていないため、世帯視聴率が重要視されていた時代なら、終わっていたと思います」

 現在の日本は、60歳以上の人口がとても多い。世帯視聴率は、高齢者が視聴しないと伸びない数字。裏を返せば、『24時間テレビ』の視聴率が高いのは、この層にリーチしているからとも言える。

 蜜谷氏は、「『ドッキリGP』スタッフの熱意はすさまじいものがある」と舌を巻く。

 たとえば、戦国時代に真田氏と徳川氏が交戦した「上田城の戦い」の中で、真田軍がおかゆを飛び道具にして徳川軍を追い払ったという逸話がある。「ドッキリGP」スタッフは、これをドッキリに応用できないかと考えたという。

「熱湯や冷水は何度も仕掛けたことがありますが、おかゆは未経験です。そのため、スタッフは“何℃のおかゆが最適解なのか”について何か月も議論していた。『お湯と違って流れ落ちないから50℃だと熱すぎる。47℃はどうだろう?』なんて話している。本当に四六時中ドッキリのことばかり考えている集団なんですよね。頼もしいと同時に、我ながら“どうかしている”チームだと思っています(笑)」

ライブ通いで目に留まった向井康二のトーク力

 今年放送された「ドッキリは地球を救うのか?4時間テレビ」では、その壮大さとくだらなさが掛け合わさったドッキリに対して、爆破ドッキリに引っかかった森脇健児が、「ここのスタッフ、頭ちぎれてるわ」と漏らしたほど。

 だが、こうした異常なまでのこだわりが、名企画、名物キャラクターを生み出した。「お台場冒険王2024」のメインキャラクターにまで上り詰めた「マッサマン」は、その最たる例だろう。扮する向井康二(Snow Man)抜擢の裏側を、蜜谷氏が振り返る。

「STARTO ENTERTAINMENT(旧ジャニーズ事務所)所属のアイドルのライブに足しげく通うようにして、『ドッキリGP』にハマる原石がいないかを探していました。パフォーマンスだけでなく、合間のトークなども観察していて、向井君の存在が気になった。そこで、試しに彼を仕掛け人にしてドッキリをしてみようと企画したんですね」

 最初は仕掛け人として。ところが、「お化けが出てくる」ことを知っているはずの仕掛け人である向井本人が、ターゲット以上に飛び上がって驚いた。

「リアクションも面白いのかと(笑)。実際、彼にドッキリを仕掛けてみると、リアクションが素晴らしい。純粋な向井君だからこそ面白くなるし、ちょっと雑な仕掛けでも疑わず引っ掛かってくれるので、コストパフォーマンスもいい。きれいにきちんと面白く引っかかってくれる貴重な存在だなと。ですが、番組に加わった当初は、スタジオトークが空回りすることも珍しくなく、うまくアジャストできなかった。そこでスタッフ全員で、『向井くんが活躍するコーナーをなんとか作れないか』と考えた」

 考えた結果、リアクションの良さを最大限にいかすためバンジージャンプを仕掛けた。そのたびに、向井は制作サイドの期待を上回るK点越えのパフォーマンスを発揮。そうして行き着いた先が、クレーンを使うことで地上から空中へと放り出される「逆バンジー」だった。

「マッサマン」誕生の瞬間

「ドッキリGP」では、「バンジー・ロワイアル」というマッサマンを生んだ人気企画がある。3人のプレーヤーが、お題に沿った答えを1人ずつ順番に回答するのだが、その際、対戦相手が言った答えも全て暗記して答えなければならない。答えられなかった者は、その場でバンジー台から発射される。

「その当時は、すでに菊池風磨という『ドッキリGP』のスターがいましたが、菊池君とは異なるキャラクターなので対決方式にしたら面白いのではと考えた。その結果、向井君の“天然さ”があらわになった(笑)。菊池君は記憶力も良く、頭も切れる。対決させると、どうしても向井君が不利になるので、彼がルーツを持つ「タイ料理の名前」をお題にした。番組をご覧になってくださっている皆さんなら分かると思うのですが、バンジーはものすごく予算がかかります。毎回向井君が飛ぶよりも、菊池君にも飛んでほしかったので、向井君に有利なお題にしたんですね」

 タイ料理には複雑な料理名もあるため、どう考えても向井優勢、菊池劣勢だった。しかし、マッサマンカレーの存在を「知らない」と答えた向井は、その名を暗記することができず、あっけなく空へと放たれた。

「その姿を見た菊池君が、『ガッチャマンの歌』をもじって、“飛べ飛べ マッサマン”と歌い出したとき、スタッフ全員が『これだ!』と確信した。すぐにキャラクター化しようという話になったほどでした」

「バンジー・ロワイアル」を見ても分かるように、ドッキリ番組は手間もコストもかかる。制作費が縮小されているテレビ業界にとって大仕掛けのセットや仕込みは諸刃の剣だろう。一方で、その華々しさがあるがゆえにマッサマンのようなスターが生まれる。

「僕はテレビの強みというのは、ストーリー性があることだと思っています。たとえば、マッサマンのようなキャラクターを作って動画配信コンテンツを始めても、あまり見てくれないのではないかと思います。マッサマンがスターになった背景には、向井康二というキャラクターが放送を通じて徐々に視聴者の皆さんに浸透したこと、さらには先行して菊池風磨というスターがいたことによる対比が面白さやかわいらしさに繋がった。菊池君の記憶力の良さに追いつくために、向井君を特訓するようなコーナーも作ることができました。企画がつながることで物語になり、視聴者が応援してくれる。こうした作り方ができるのはテレビならではだと思います。『ドッキリGP』は、テレビでしかできない、テレビの魅力が詰まった番組だと思っています」

我妻 弘崇(あづま ひろたか)
フリーライター。1980年生まれ。日本大学文理学部国文学科在学中に、東京NSC5期生として芸人活動を開始。約2年間の芸人活動ののち大学を中退し、いくつかの編集プロダクションを経てフリーライターに。現在は、雑誌・WEB媒体等で幅広い執筆活動を展開。著書に『お金のミライは僕たちが決める』『週末バックパッカー ビジネス力を鍛える弾丸海外旅行のすすめ』(ともに星海社)など。

デイリー新潮編集部