食べ物の「色」は、その食べ物が熟しているのか、はたまた腐っているのかを見分ける際に役立ちます。また、人は色とりどりの食べ物が並んだ食事を好む傾向にあることがわかっていますが、色覚障害の人の中にはこうした食べ物の色を見分けることが不得手な人もいます。色覚に障害のある人を調べた研究により、こうした人は食べ物の好き嫌いが少ないことが明らかになりました。

How we discovered that people who are colorblind are less likely to be picky eaters

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人間の能力は人それぞれ違い、多様な色を見分けることができる人もいれば、多くの色が認識できないという人もいます。同様に食べ物の種類を見分けるのが得意な人もいて、これは例えば「人の顔を見分けるのが得意な人」がいるように、人によって得手不得手に大きな差が生じ得るものだといいます。

心理学者のイザベル・ゴーティエ氏はこうした識別能力を研究していて、似たような料理の写真の中から同じ料理を選ばせたり、他とは違う料理を選ばせたりして、人によってモノの認識能力に差があることを見いだしていました。この実験では、一般的なモノを認識する能力が高い人ほど食べ物を認識する能力も高いことがわかっていましたが、一般的なモノと食べ物を認識する能力には少しだけ違いがあることが分かり、人間には食べ物を認識するときだけ特別な力が働いているのではないかとの説が浮上したそうです。



ゴーティエ氏は、単に食べ物に対する好き嫌いやこだわりといった「人間の態度」が影響しているのではないかと推測し、実際に「食べたことのない料理を食べることを恐れる『食物新奇性恐怖』、簡単に言うと偏食家の人ほど、食べ物の認識能力が低い」という実験結果も得られたといいます。

また、他の研究者も同様の問題を調査し、食べ物に対して優先的に反応する視覚系の脳領域を特定することに成功していました。例えば、パスタの入ったボウルを見ると当該脳領域が活性化し、ヒモの山を見ると活性化しないといった具合です。この脳領域は、色に反応することでも知られている部位でした。

色に反応する領域が食べ物にも反応するという事実について、研究者の間では見解が分かれました。ある研究者は、「この領域が色に反応するのは、食べ物を認識するために特化しているからだ」と提唱し、もう一方は「色は食べ物に対する脳の反応には重要ではない」と主張したのです。後者の主張を展開した研究者は、「料理の白黒写真を見せても当該領域が活性化した」という事実を根拠として提示しました。



こうした議論を参考に、ゴーティエ氏は「料理を見分けさせる」という最初の実験を改良し、今度は写真をカラーから白黒に変えて実施しました。その結果、予想通り選択ミスが多くなり、異なる料理を同じ種類の料理と間違える人が増えたそうです。

ところが、この実験で驚くべき知見が明らかになりました。前回の実験では「偏食家ほど食べ物の認識能力が低い」ということが明らかになっていましたが、写真を白黒にした今回の実験では、偏食と食べ物の認識能力に相関はなかったといいます。

この結果から、ゴーティエ氏は「色覚障害のある人ほど偏食が少ないのでは」と推測。この予想を確かめるため、色覚障害の人に食べ物の好き嫌いを答えさせるアンケートを実施しました。なお、色覚障害の男性の数は同様の女性の16倍であることを鑑み、このアンケートで結果がピックアップされたのは男性だけでした。

その結果、色覚障害の男性は、色覚障害でない男性に比べて食物新奇性恐怖を持つ割合が少ないことが判明。この結果は別の研究でも再現され、色覚障害の男性は食べ物に対する好き嫌いのレベルも低いことが報告されたそうです。



ゴーティエ氏は「色に対する認識能力と食べ物の複雑な関係について研究者がさらに解明すれば、食習慣を改善するための最適な策が開発されるかもしれません。また、色の力を理解し活用することで、食への楽しみが増すかもしれませんね」と語りました。