健康的な「ダチョウ丼」に美容品…女性客獲得に躍起の吉野家「背景に『大炎上シャブ漬け発言』の蹉跌」

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第一印象は、玉子の黄身が乗ったローストビーフご飯だった。肉を口に入れると思ったほどクセはなく、脂分の少ない赤身のため味はさっぱりしている。一方で肉厚なので食べ応えは十分。1683円(税込み)というやや高い値段が気になるが、玉子との相性も良く満足のいく料理だった――。

記者が食したのが、牛丼チェーン・吉野家が8月に数量限定で発売した『オーストリッチ(ダチョウ)丼』。国内約400の店舗で、6万食限定で提供するという。ダチョウの肉は高タンパク質で低カロリー。美容や健康にも効果があるとされる。

経済ジャーナリストの松崎隆司氏が、吉野家の「ダチョウ丼」発売の意図を推測する。

「目的は女性客の獲得でしょう。吉野家はダチョウの肉を料理として提供するだけでなく、美容成分の高い脂を使い、関連会社を通じて美容品(『グラマラスブースターオイル』1万5400円、『グラマラスエイジングクリーム』1万6500円など)を販売しています。肌の保湿効果も高いそうです」

力を入れる「黒い吉野家

吉野家が女性を意識した新戦略を展開するのは、今に始まったことではない。松崎氏が続ける。

「若い女性から圧倒的な支持を得ている、モデルでタレントの藤田ニコルさんを自社の広告に起用。従業員も女性の割合を増やそうとしています。力を入れているのがブラックな看板が印象的な『黒い吉野家』です。ドリンクバーやケーキなどメニューが豊富で、店内はカフェのような落ち着いた雰囲気。女性一人でも気軽に入れます。

吉野家が狙っているのが『男性サラリーマンのファストフード店』というイメージの払しょくでしょう。これまで吉野家はビジネス街の駅前に多く出店し、『安い、早い』の利点をいかし働く男性に牛丼を提供してきました。しかし吉野家ホールディングスの今年3月〜5月の純利益は、前年同時期比約33%減となりました。マイナスを補うには、女性客の獲得が急務だと判断したのだと思います」

「男性の店」というイメージだけでなく、女性離れに拍車をかけたのが’22年4月に起きた当時の役員による発言騒動だろう。社会人向け講座で、役員だった男性は〈吉野家のマーケティング施策〉についてこう話したのだ。

〈地方から出てきた右も左もわからない生娘が、初めて利用してそのままシャブ漬けになるような企画〉

「シャブ漬け発言」はまたたく間に大炎上した。吉野家が女性からの信頼回復に躍起になるのも理解できる。同社は「役員発言の蹉跌」や「男性の店」というイメージから脱却できるのだろうか。前出の松崎氏が話す。

「現状では難しいと思います。ライバルのすき家や松屋は以前から郊外型の店舗を展開し、子ども向けメニューやスウィーツを充実させるなど、ファミリー層や女性客の獲得に成功しています。吉野家の新戦略は『後追い感』が否めません。例えば、社長や役員の半分以上を女性にするなど抜本的な改革の実施が必要。女性ならではの発想で斬新なアイディアをどんどん採用しないと、現在の状況は打破できないと思います」

「ダチョウ丼」や美容品は女性客の心に響くのか――。吉野家の挑戦は道なかばのようだ。