太宰治「人生まぢ無理…」→生家を見に行ったら 陰鬱な作風を育んだ青森の大豪邸
戦前から戦後にかけ『走れメロス』『斜陽』『人間失格』など日本文学史上に残る名作を生みだした小説家太宰治。
今、SNS上ではそんな太宰のイメージと成育環境のギャップが大きな注目を集めている。
きっかけになったのは
「太宰治『人生まぢ無理……』
太宰の生家を見に行った私『……』」
と太宰の生家を紹介した吉行ゆきのさん(@yoshiyukiyukino)の投稿。
太宰と言えば生の悩みに触れた陰鬱な作風や薬物乱用、度々の心中などで知られる人物。困難な環境で育ったのではと思う人が多いかもしれないが、現在「斜陽館」として公開されている青森県五所川原市の生家は、階下11室278坪、2階8室116坪、付属の建物や庭園など合わせて約680坪といういかにもな豪邸。日本全体が貧しかった時代に、太宰は経済的には何不自由なく、むしろ特権階級として育ったわけだ。
では太宰の悩みとはいったい何を根源とするものなのか…今回の投稿について吉行さんにお話を聞いた。
ーー今回、太宰の生家を訪れた経緯は?
吉行:高校時代から太宰をはじめとした文豪作品が大好きでした。大学2年生頃から全都道府県制覇を目指して旅行し始めた時に、各都道府県の文豪ゆかりの地を巡ろうと思い、太宰の生家もその一環の趣味活動として訪れました。
ーー実際にご覧になって。
吉行:前日にヤマニ仙遊郭(太宰の愛した温泉宿)に泊まった後に斜陽館を訪れたのですが、投稿した内容が本当に正直な最初の感想でした。「こんな金持ちだったんか…」とちょっと複雑な気持ちになった後、リプライで言及した「太宰治疎開の家」に行って、そこで案内してくれた方に、太宰の苦悩、お金持ちの家に生まれた者ならではの苦しみのようなものを聞いて、「なるほど…金持ちには金持ちなりの苦悩があるのか…」と納得しました。
その他にも、太宰が旧制弘前高生時代に暮らした「まなびの家」や通った喫茶店などにも行って、本で読んだだけではわからないことや、様々な角度からの太宰を見つめることができて「これぞゆかりの地を訪れる悦び!」と思いました。
ーー投稿への反響について。
吉行:自分の正直な感想を綴ったまでですが、一般的に「難しそう」と思われがちな文豪を少し身近に感じるように工夫した投稿が、しっかり多くの人に刺さって嬉しいです。またリプライを見ない人の多さにも驚きました。太宰治が好きだと思われる人であっても、リプライの「お金持ちなりの苦悩もあると疎開の家で聞いたこと」を読まずに軽率に引用をつける人の多いこと多いこと…。文章を読む力とネットリテラシーは必ずしも比例しないのだなとあらためて思いました。
リプライに載せた疎開の家は、多くの名作を太宰が生み出したメインの場所で、本来なら斜陽館同様太宰ファンが目を向ける場所なのに、疎開の家に寄らずに斜陽館だけ見て帰る人が多いと案内してくれた方が仰っていました。そういうふうに、一つの情報を得た時に周りの情報にも目を向ける意識が減っていっているのかな、と投稿への反響からも思いました。うれしいにはうれしいんですけどね。
◇ ◇
人にはそれぞれ表面的なプロフィールからはうかがい知れぬ内実がある。文学作品だけでなく他者に接する際にはくれぐれもそのことを忘れずにいたいものだ。
吉行ゆきのさんプロフィール
北海道大学・大学院文学院で性愛研究をしている大学院生。
「変態文学大学生」という肩書で各種SNSや文学サイト「実践×文学」を運営している。クイア研究の視点から成年漫画のコラム連載、書評の寄稿も。
Xアカウント:https://x.com/yoshiyukiyukino
Instagramアカウント:https://www.instagram.com/onitannbi/
「実践×文学」:https://decadence666.com/
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)