空間を飛び交うWi-FiやBluetoothの電波から電力を生み出す技術が開発される、電池無しで永続的に動くデバイスの実現へ向けた一歩
Wi-FiやBluetoothなどで用いられる微弱な通信用電波から電力を生み出して、電子機器を駆動させる電力を発生できる技術を東北大学などの研究チームが開発しました。
Nanoscale spin rectifiers for harvesting ambient radiofrequency energy | Nature Electronics
https://www.nature.com/articles/s41928-024-01212-1
https://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/jp/achievements/press/2024/20240805_001835.html
私たちの身の回りには、Wi-FiやBluetoothなどの通信用電波が無数に飛び交っており、これらの電波が持つエネルギーを発電に活用することで「電池や電源がなくても永続的に動く電子機器」を実現できることが期待されています。しかし、一般的な通信用電波の強度は-20dBm以下と極めて弱く、この微弱なエネルギーから電子機器の動作に十分な電力を生み出す技術はこれまで存在していませんでした。
今回、東北大学電気通信研究所の深見俊輔教授や先端スピントロニクス研究開発センターの大野英男教授、シンガポール国際大学のヤン・ヒョンス教授らの国際研究チームはスピントロニクス技術に基づいて、微弱な通信用電波から効率的に直流電圧を取り出すことができるナノスケールの「スピン整流器」を開発しました。
開発されたスピン整流器は、コバルト・鉄・ホウ素の化合物と酸化マグネシウムからなる磁気トンネル接合で構成されています。研究チームによると、通信用電波から直流電圧への変換効率を高められるよう、磁気トンネル接合の形状や磁気異方性、トンネル障壁の特性などを考慮して設計したとのこと。
単体のスピン整流素子を用いた実験では、-62dBm〜-20dBmの通信用電波の入力に対し、1万mV/mW程度の効率で直流電圧を取り出すことに成功しました。また、10個のスピン整流素子を直列接続した場合、-50dBmの入力から3万4500mV/mWの効率で直流電圧への変換に成功しています。
さらに10個のスピン整流素子を直列接続した実験では、-27dBmという微弱な電波から市販の温度センサーを駆動させるほどの電力を発生させることができました。
研究チームは今回の実験結果と数値計算を比較し、今回得られた特性が「電圧によって磁気異方性が変化する現象を介した『自己パラメトリック励起』に由来している」と分析しています。東北大学によると、パラメトリック励起とはシステムのパラメーターを時間的に変化させることで、システムの振動や応答を増幅する現象とのこと。
今後の展開として研究チームは、単体素子レベルでの変換効率の向上や、オンチップアンテナとの集積化、素子の直列・並列接続の併用による大出力化に取り組むことを表明しています。研究チームは「これらの研究を通して、当技術の社会実装に向けた視界がより一層具体的な形で開けていくものと期待されます」と述べています。