史上初となるブラックホールの撮像に成功し、これまでにM87*やいて座A*といったブラックホールの姿を捉えてきたイベントホライズンテレスコープ(EHT)のチームが、新しい周波数を用いた観測で以前より高精度かつ多色で表現された画像を公開しました。

First Very Long Baseline Interferometry Detections at 870 μm - IOPscience

https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-3881/ad5bdb

EHT scientists make highest-resolution observations yet from the surface of Earth | ESO

https://www.eso.org/public/news/eso2411/

Event Horizon Telescope Makes Highest-Resolution Black Hole Detections from Earth | Center for Astrophysics | Harvard & Smithsonian

https://www.cfa.harvard.edu/news/event-horizon-telescope-makes-highest-resolution-black-hole-detections-earth

EHTのチームは、2024年8月27日に学術雑誌・The Astronomical Journalに掲載された論文で、345GHzの周波数の光を用いた超長基線電波干渉法(VLBI)による試験観測について報告しました。

研究チームによると、新しい周波数のデータをこれまでの周波数のものと組み合わせることで、解像度を50%向上させることができるだけでなく、ブラックホールのすぐ外側の領域の多色画像も生成できるようになるとのこと。

以下は、M87にある大質量ブラックホール(M87*)を86GHz(赤)、230GHz(緑)、345GHz(青)の周波数の光で観測したシミュレーション画像です。VLBI技術が0.87mmの波長に相当する345GHzの周波数で使用されたのは今回が初めてです。



論文の共著者で、ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(CfA)およびスミソニアン天体物理観測所(SAO)の天体物理学者のシェパード・S・ドールマン氏は「白黒写真からカラー写真にするとディテールが爆発的に増えるのを思い浮かべると、これがどれくらい画期的な進歩なのかがわかります。この新しい『色覚』により、ブラックホールに物質を供給したり、強力なジェットを噴射したりする高温のガスや磁場と、アインシュタインが唱えた重力の影響を区別することが可能になります」と話しました。

以前公開されたM87*やいて座A*の画像は、地球各地にある電波望遠鏡から得られた膨大な観測データを統合し、仮想的な地球サイズの巨大電波望遠鏡にすることで実現したものです。

地球と同じ銀河に存在するブラックホールの画像が初めて撮影される - GIGAZINE



それでも、撮像されたブラックホールの輪郭はぼやけており、これ以上精度を向上させるには電波望遠鏡を大きくするか、より高い周波数での観測を行う必要があります。

仮想的な電波望遠鏡をこれ以上大きくするのは簡単ではないため、残る選択肢は周波数を上げることですが、0.87mmの波長は1.3mmの波長より大気中の水蒸気に吸収されやすく、地表に到達する前に弱まってしまいます。

今回、EHTのチームは電波望遠鏡の感度を高めつつ、大気中の水蒸気の影響を補正する技術を開発し、天候が良好になるのを辛抱強く待つことで、この課題をクリアしました。

これによって得られた新しい観測結果は、地球から月面にあるボトルキャップを観測するのと同じレベルの解像度を達成しており、これまでより小さく、暗く、遠くにある大質量ブラックホールを観測できることを意味しています。



この技術により、将来的にはブラックホールを取り巻く事象の地平線(イベントホライズン)をさらに高い忠実度で再現したムービーも見られるようになります。

CfAおよびSAOで責任者を務めるリサ・キューリー氏は「EHTの345GHzでの観測の成功は、科学的に重要なマイルストーンです。解像度の限界に挑戦することで、私たちはブラックホールの撮像における前例のない明瞭さを達成するとともに、地上からの観測を基盤とした天体物理学研究の新たな、より高い基準を打ち立てようとしています」と話しました。