活動休止・目黒蓮「月9の重責」が示す俳優業の未来
ここ数年、多忙な活躍ぶりを見せていた目黒蓮(画像:『海のはじまり』公式サイトより)
8月21日夕方、Snow Manの目黒蓮さんが体調不良により15日から活動休止していたことを所属事務所が発表すると、すぐにXで「#目黒蓮」「めめ大丈夫」「めめ体調不良」などがトレンド入り。
「医師の指導により大事をとって療養期間を設けさせていただきました」「体調も順調に回復し、徐々に仕事に復帰させていただく予定」と深刻ではなさそうなものの、次々に心配する声があがっています。
現在、目黒さんはフジテレビの看板枠・月9ドラマ『海のはじまり』で主演を務めていますが、事務所のコメントを受けて同局は26日放送回の延期を発表。共演の古川琴音さんと池松壮亮さんがメインの『特別編「恋のおしまい」』を放送するようです。
8月26日には、古川琴音と池松壮亮による特別編が放送される(画像:『海のはじまり』公式サイトより)
ゴールデン・プライム帯での主演は2作目
目黒さんと言えば、現在「最も楽曲やライブチケットが売れる」「SNSの動きもトップ級」「出演が視聴率や配信再生につながる」と言われるSnow Manのメンバー。9人の中でも俳優としての実績は断トツで、ゴールデン・プライム帯での主演は昨年の『トリリオンゲーム』(TBS系)に続く2作目です。
Snow Manのリリース、ライブ、音楽番組、「それSnow Manにやらせて下さい」(TBS系)などのバラエティ番組、YouTubeやCMなど多忙を極める目黒さんにとって、『海のはじまり』は、どれほど重要でどんな難しさのある作品なのか。ひいては俳優業にはどんな未来が考えられるのか。
復帰に向けたエールの意味を込めつつ、ドラマ解説者としてフラットな目線からつづっていきます。
まず『海のはじまり』のおおまかなあらすじを書いておきましょう。
物語は印刷会社で働く月岡夏(目黒蓮)が大学時代に付き合っていた南雲水季(古川琴音)が亡くなったことを知り、葬式に向かうところからスタート。葬式で会った少女・海(泉谷星奈)が実は自分と水季の子どもであることを知って驚きを隠せない。
夏は水季とは大学時代に突然別れを切り出されてから7年間1度も会う機会がなく、就職して恋人・百瀬弥生(有村架純)と別の人生を歩んでいたが、葬式の日を境に海や親になることと向き合っていく……。
「戸惑い」を演じ分けるのが難しい
では目黒さんが演じる月岡夏は、どんな役で、どんな難しさがあるのか。
目黒さんにとって父親役は初めてであり、「子どもと対峙するシーンが多い」というだけで難しさがありますが、しかも今回の役は普通の父親ではありません。
夏は大学時代、水季から中絶同意書の署名を求められて応じたという罪悪感を抱えていました。自分の子どもが生まれていたことすら知らなかったため、父親としての自覚がまったくない状態。
しかもその子どもは乳児でも幼児でもなく、すでに小学生になっていたため、なおさら実感が湧かないのでしょう。もちろん夏は子育てをしたことがないため、目の前にいる6歳の少女にどう接したらいいかまったくわかりません。
それどころか、海と接するたびに「なぜ水季は7年間も知らせてくれなかったのか」「どんな7年間だったのだろう」などと考えてばかり。ただそれでも純粋に自分を慕ってくれる海の姿から、少しずつ親のような感情が芽生えていきます。
徐々に心が通い出した主人公と娘(画像:『海のはじまり』公式サイトより)
夏は口数の少ないタイプだけにセリフに頼ることができず、目黒さんに求められているのは、表情や佇まいなどによる繊細な感情表現。
さらに夏には「嫌いで別れたわけではない元恋人が亡くなったというショック」「現恋人の弥生にどう伝えればいいのか」「水季の両親や彼女を支えた同僚にどう接したらいいのか」「自分が父になろうとする一方で、実父・溝江基春(田中哲司)とはどう向き合えばいいのか」など、とにかく戸惑うシーンが多く、それぞれの感情の違いを演じ分けるのが難しいのです。
しかも同作を手がける生方美久さんの脚本は『silent』『いちばんすきな花』がそうだったように良い意味で超スローペース。飽きられないためにハイテンポで物語を動かしていくドラマが多くを占める中、生方さんの脚本はたっぷり時間をかけて心の機微を丁寧に描き、感情がグラデーションのように少しずつ変わっていく様子を描いています。
実際ここまで8話が放送されましたが、主な流れを見ていくと、第1話で夏と海の出会いが描かれ、第2話で夏が弥生に海の存在と経緯を告白。第3話は海が夏に母を失った悲しさを初めて吐露することができ、第4話は弥生が夏に中絶の過去を告げました。
第5話では夏の家族に海の存在を伝え、第6話では夏が水季の周辺人物に会いに行ったほか、彼女と弥生の知られざる縁が発覚。第7話は水季に対する同僚・津野晴明(池松壮亮)の切ない思いが明かされ、第8話は夏と実父が対面する様子が描かれました。
他のドラマならおそらく3〜4話程度の内容を8話かけて丁寧に描き、それでいて人間模様はむしろ濃いため、演じる主演俳優の負担は倍以上と言っていいでしょう。しかも目黒さんが対峙する俳優たちは業界屈指の演技派ぞろい。
大竹しのぶさんと利重剛さん、西田尚美さんと林泰文さんのベテラン勢に加え、池松壮亮さん、古川琴音さんなどの中堅・若手も含め、演技力に長けた俳優に囲まれる図式になっています。相手役の有村架純さんも朝ドラを筆頭に主演の常連であり、年齢も実績も上。さらに「子役の泉谷星奈ちゃんを引っ張っていかなければいけない」という役割もあります。
「難しい役柄や座長として現場を引っ張る責任」に加えて、「ベテラン俳優らの圧倒的な芝居や子役のみずみずしい演技を受け止めなければいけない」のですから、心身ともに相当なプレッシャーがあるのではないでしょうか。
現在の恋人・弥生を演じる有村架純(画像:『海のはじまり』公式サイトより)
「配信トップは獲れる」という期待
目黒さんは20歳のときに、叶うわけがないけど憧れのことを書く“夢ノート”に「月9の主演をしたい」とつづっていたり、月9ドラマは「事務所の先輩方などが主演を務めた特別な場所」という印象などを語ったりしていました。これは『海のはじまり』への意気込みそのものであり、これまで以上の思いを感じさせられます。
一方、村瀬健プロデューサーは「『silent』で仕事をして以降、2人でたくさんの話をしてきた」「芝居に対する真剣な思い、作品に対する誠実な思いを感じた」ことなどを明かしていました。
もちろんその思いや姿勢は今作でも不変であり、村瀬プロデューサー、風間太樹チーフ監督ら演出陣などとコミュニケーションをしっかり取って役作りや演技プランに生かしている様子が伝わってきます。
ちなみに『海のはじまり』が描いているのは夏と海の親子関係だけではありません。水季と海、水季と母・南雲朱音(大竹しのぶ)、父・南雲翔平(利重剛)、夏と母・月岡ゆき子(西田尚美)、父・月岡和哉(林泰文)、夏と実父・溝江基春、さらには現恋人・弥生と海、父親代わりのような存在だった津野晴明と海などのさまざまな親子関係にもスポットを当て、それぞれの感情を丁寧に描いています。
ここまでさまざまな親子の関係性を徹底的にフィーチャーしたドラマは記憶になく、その意味で今夏屈指の力作と言っていいでしょう。
目黒(写真右)が演じる主人公の元恋人・水季の父母を演じるのは、ベテラン俳優の大竹しのぶと利重剛(画像:『海のはじまり』公式サイトより)
“プロデュース・村瀬健×脚本・生方美久”のタッグは『silent』『いちばんすきな花』に続く3作目ですが、初の月9ドラマ挑戦であることも含めて局内での期待値は高く、特に「配信再生数やTVerお気に入り登録数のトップは獲れるだろう」という見方をされていました。
そのような撮影現場を取り巻く周囲のムードが主演を務める目黒さんのプレッシャーにつながっていても不思議ではありません。
そんな期待値の高さを裏付けているのが、全12話という放送回数。村瀬プロデューサーが「近年の連続ドラマとしては非常に珍しいケース」と語っているように、現在は10話がベースで、少なければ9話、多くても11話だけに、12話であることの公表は期待や自信の裏付けと言っていいでしょう。
9月23日の最終回はすでに他局が改編期特番を放送している連ドラにとって厳しい時期ではありますが、「それでも勝負になる」とみられているのです。
1話延期と全12話を放送することを発表したコメント(画像:『海のはじまり』公式サイトより)
「普通の人」から振り幅が広がる
では『海のはじまり』の主演を務めることで目黒さんの俳優業にはどんな未来が考えられるのでしょうか。
『海のはじまり』のような心の機微を描いた作品、しかも説明的なセリフに頼れない作品で主演を務め、評価を得られたら、間違いなくオファーの役柄の幅は広がるでしょう。
また、月岡夏がどこにでもいる28歳の会社員であることもポイントの1つ。「面倒なことや頭を使うことを避けるように生きてきたため、特に大きな挫折を経験したことがない」という性格も含め、“普通の人間”を演じたことで「イケメン俳優」「アイドル俳優」というレッテルを貼られたり、視聴者のバイアスがかかったりというケースは減るはずです。
逆に、天才、変人、悪人、謎多き人物などの普通ではない役柄を演じるときは、振り幅の大きさとして見てもらいやすくなり、さまざまな職業や立場、あらゆる才能やスキルを持った主人公などのオファーが届き、評価もされやすくなるでしょう。
事務所の先輩で言えば、キャラクターや見た目こそまったく異なるものの、1つの指針になりそうなのが草磲剛さん。
連ドラ初主演作『いいひと。』(カンテレ・フジテレビ系)がそうだったように当初は普通の人を演じるのがうまい俳優でしたが、徐々に振り幅の大きい普通ではない人のオファーが増え、アイドル出身であることを忘れさせる「名優」というポジションに登り詰めました。
真面目すぎるほど作品や役柄に向き合う姿勢や、セリフに頼らず表情や佇まいで演じる演技スタイルなども含め、意外に共通点が多い気がするのです。
演技派俳優として活躍する草磲剛。今年も映画『碁盤斬り』で主演した(画像:本人の公式Xより)
俳優とアイドルの両立を目指す日々
日本の連続ドラマは視聴率獲得やスポンサー配慮などの観点から「実力先行」ではなく「キャスティング先行」で制作されることが多く、今なお「一定以上の人気があることが主演俳優の必須条件になっている」という感は否めません。
しかし、情報量が増え、配信コンテンツが充実した現在の視聴者はそれで満足せず、実力先行のキャスティングを望むムードが高まっています。
ただ実力はあってもドラマフリークだけでなく一般層の注目を集められる主演俳優は少なく、「演技力先行で視聴率と配信再生数を得るのは難しい」というのが現実。テレビ業界にとっては人気と実力を併せ持つ主演俳優、しかも20代の若手が必要であり、それに最も近いとみられているのが目黒さんなのです。
ちなみに女優は毎年2作放送される朝ドラから人気と実力を併せ持つ主演俳優が現れるため、男優ほどの待望論はありません。
目黒さんは身長185cmと海外俳優にも引けを取らないスタイルや運動神経の良さでも知られるだけに、「将来的には国際的な活躍が期待できる」とみている関係者が少なくありません。
アイドル活動との両立は難しそうですが、俳優・目黒蓮の可能性を広げるうえで最適なバランスを探す日々が、今後数年間は続いていくでしょう。
【写真】目黒蓮の未来像? 旧ジャニーズの「演技派先輩」といえば…
(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)