新登場「ペアローン団信」はお得なのか?徹底試算
ペアローンを利用する人は年々増加しています(写真:Fast&Slow / PIXTA)
東京23区の新築分譲マンションの平均価格は1億1679万円*となり、「億ション」が珍しくない時代が到来している(*2024年6月、不動産経済研究所調べ)。
空前のマンション価格の高騰に伴い、ペアローンの利用者も増加中だ。
ペアローンの短所を補完する「ペアローン団信」
ペアローンでは、1つの物件に対して、夫婦や親子などがそれぞれの名義でローンを契約する。2人合わせれば多額の借り入れが可能になるため、ひとりでは手の届かない額の物件も検討できるようになる。さらに、住宅ローン減税も2人分利用できるというメリットもある。
ただし、ペアローンにもデメリットがある。もしも一方が安定収入を得られなくなると、パートナーが連帯債務者として返済の義務を負うことになる。さらに、ペアローン利用者の一方が亡くなると、団体信用生命保険(団信)でひとり分のローンは完済されるが、残った配偶者名義のローン返済はその後も続く。
そんなペアローン利用者の不安にこたえる形で新たに始まったサービスがペアローン団信だ。
ペアローン団信は、いずれか一方が死亡したら2人分のローン返済が免除される団体信用生命保険のことである。ローンの返済がいらない住宅をパートナーに残すことができ、住宅ローンに上乗せ金利を支払うことで利用できる。
2024年6月にPayPay銀行、7月にみずほ銀行でサービスがスタートし、りそな銀行・埼玉りそな銀行でも10月から取り扱いを始めることがすでに発表されている。すでに始まっている2行のサービス概要は、以下の表の通りである(外部サイトでお読みの場合、表が表示されない場合があります)。
主要2行のペアローン団信を比較
(画像:筆者作成)
なお、両行とも一般団信とがん保障付きがある。2行のがん保障付きの商品の概要は以下の通りだ。
(画像:筆者作成)
これらの表はあくまで概要であるため、商品の詳細はHP等で確認してほしい。
ペアローン団信を選ぶと、月の支払いはどの程度増えるのかを試算してみよう。
以下のケースで試算してみよう。
<前提>
・都内在住
・夫婦ともに40歳
・世帯年収1400万円(夫700万円、妻700万円)
・7000万円の物件を頭金1000万円で購入
・ペアローンで2人とも3000万円ずつ借り入れ
・固定金利35年1.86%(みずほ銀行2024年8月6日現在)
上乗せ額は月々3000円程度
(画像:筆者作成)
ペアローンを選択した場合の返済額は毎月10万303円となり、通常の団信を選択した9万7236円との差額は3067円となる。モデルケースの夫婦は共に40歳のため、同じ上乗せ金利のまま「がん団信ペア」型を選択できる。
つまり、どちらかに万が一の事態が起こった場合に2人分のローンが免除される保険料として1人につき月額3067円が適切と感じれば、ペアローン団信を選ぶといい。
なお、2人が同じ団信を選ぶ必要があるため、夫婦のどちらかが51歳以上で年齢制限を超えている場合や、がんの既往歴などが理由でがん保障を付加できない場合には、がん団信のペア型を選ぶことができなくなる。
ペアローン団信の目的は、死亡したときに配偶者にのしかかる経済的負担を緩和することにある。その意味では、死亡時に受け取る生命保険を夫婦それぞれが多めにかけておき、配偶者のローン返済に充てるという方法も考えられる。
例えば、夫が亡くなった場合の妻のローン返済分に備えたいという場合、夫名義で収入保障保険に加入しておくことも有効だ。先ほどのケースでは、毎月の返済額が約10万円なので、毎月10万円の保険金を妻が収入保障保険から受け取れるようにしておくと、妻のローン返済分に充てられる。
では、ペアローン団信と収入保障保険はどちらがお得なのだろうか?
上記と同様のケースを想定し、FWD生命で月額10万円の収入保障保険をかけた場合の保険料を試算してみよう。
保険期間:75歳満了
年金支払い保証期間:2年
⾮喫煙者優良体保険料率
夫(40歳・男性)月額保険料:3973円
妻(40歳・女性)月額保険料:3065円
合計:7038円
(注:一般的に収入保障保険の保険料は女性より男性の方が高く設定されている)
コスパではペアローン団信
このケースでは、男性も女性も収入保障保険に別途加入するよりも、ペアローン団信の保険料(夫婦合計6134円)の方が低コストで済むことがわかる。
当然ながら、保険会社や契約内容、契約者本人の状況(喫煙歴など)によって保険料は変わるため、一概にペアローン団信の方がお得とは言えないが、コスト面ではおおむねペアローン団信に分があると言えそうだ。
また、今回のケースでは住宅ローンの完済は75歳となっているが、75歳まで保険期間を設定できる収入保障保険は限られており、65歳を上限としている保険商品も多い。収入保障保険を選ぶ場合には、その点も気を付けよう。
「ペアローン団信」最大の注意点
経済的にメリットの多そうなペアローン団信だが、見逃せない注意点もある。
ペアローン団信では契約者が死亡すると配偶者のローンも免除になるが、配偶者が免除されたローン分については一時所得として扱われ、所得税の対象となるのだ。この点について説明していこう。
団信はそもそも生命保険である。生命保険金がローンの返済に充てられることで、以後のローン返済が免除される仕組みだ。生命保険金は、遺族の生活保障というその性質からそもそも非課税扱いのため、契約者が死亡し本人分のローンが団信で免除されても税金はかからない。
では、ペアローン団信における配偶者のローン免除はどうかというと、生存者が自分のためにかけた保険で利益を得ることからこの理屈に当てはまらない。そのため、配偶者が免除されたローン分については、一時所得として扱われ、所得税の対象となる。
納税額をシミュレーション
では、どれくらいの額を納税しなければいけないのか。今回のケースで試算してみよう(少々複雑であるため納税額だけ知りたい方は「試算結果はこちら」の見出しまで読み飛ばしてほしい)。
まず、一時所得の計算式はこうなる。
「一時所得=総収入金額−収入を得るための支出−特別控除(最大50万円)」
「一時所得の課税金額=一時所得の金額×1/2」
仮に、先ほどのモデルケースの夫婦が3000万円ずつのペアローンを組んで、1回だけ返済をした後すぐに夫婦の一方が亡くなり、2人のローンが免除されたとする。1回分のローンとしては約10万円を支払っているが、この収入を得るために支払った保険料は金利上乗せ分の約3000円である。
これを上記の計算式に当てはめると、
一時所得=3000万円-3000円-50万円=2949万7000円
一時所得の課税金額=2949万7000円×1/2=1474万8500円
と計算できる。
ではいくら納税しないといけないかというと、
納税額=(一時所得の課税金額+給与所得などその他の所得−各種控除)×所得に応じた所得税率ー控除額
という計算になる。
試算結果はこちら
今回のケースでは夫婦共に年収700万円(給与所得以外に所得がない前提)なので、
(一時所得の課税金額 約1475万円+給与収入700万円−給与所得控除180万円−社会保険料控除110万円−基礎控除48万円)×40%−約280万円
=約455万円
実際には他にも控除がある場合など、さまざまな条件によって納税額は変動するので、この計算はあくまで大まかなもので正確な納税額とは異なる。
ただ、今回のケースではこの規模の税負担が発生すると考えてよいだろう。
ペアローン団信の場合、夫婦両方のローンが免除されるものの、一般の生命保険とは違って現金が入らない。ペアローン団信に加入する場合でも、所得税の納税資金として数百万円分の現金を用意しておくか生命保険に加入しておくようにしたい。
ペアローン契約済みの人は借り換えすべきか?
すでに他の金融機関でペアローンを契約している人が、このペアローン団信を付けるためにローンの借り換えをすべきかというと「そんなことはない」というのが筆者の見解だ。
別の金融機関へのローンの借り換えをするには、登記費用や事務手数料、保証料などが再び必要になる。2人分のローンの借り換えにこうした手数料を支払うことを考えると、収入保障保険で保障を上乗せする方がコストを抑えられる。
では、これからマイホームの購入を検討している人はどうすべきか。昨今、世の中の金利に大きな動きがみられている。住宅価格についても先行き不透明な状況だ。
住宅購入を考えるうえで一番大切なのは、自分たちにとってのライフプランである。今後、共働きを続けて2人でローンを返済するのか、働き方を変える可能性はあるのかなど、まずは2人のキャリアプラン、マネープランから、住みたいエリアや購入価格を考えたい。その予算感から物件候補を選び、条件のいいローンを選択していくという順番だ。
ペアローン団信は「おまけ」と考えよう
今回の試算では、ペアローン団信はお得という結果になった。ただし、ペアローン団信はあくまでもローンのおまけである。ペアローンには、死亡以外にも離婚や収入減少のリスクもある。
それでもペアローンを選択したい人は、多くの銀行の中から金利や条件を比較してローンを選び、そこにペアローン団信という選択肢があれば利用するという順番で考えたい。ペアローン団信という選択肢がなければ、収入保障保険などの生命保険を使って、配偶者分のローン返済に備える方法があることも覚えておきたい。
(氏家 祥美 : ファイナンシャルプランナー、ハートマネー代表)