WR-Vは全長4325mmx全幅1790mmx全高1650mmのボディサイズを持つコンパクトなSUV(写真:本田技研工業)

「WR-V」は、ホンダが2024年3月に発売した新型コンパクトSUVだ。インドで2023年から発売されている「エレベイト」の日本仕様車で、インドから輸入して販売する。

グレードはベースグレードの「X」、中間の「Z」、上級の「Z+」で、すべて1.5Lのガソリンエンジンと2WD(FWD=前輪駆動)の組み合わせ。209万8800円〜248万9300円という低価格も推し出す。

今回は、このWR-Vの購入者の特徴を、同じホンダのSUVである「ヴェゼル」「ZR-V」と比較しながら見ていく。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

WR-Vは、発売からまだあまり時間が経っていないタイミングでの分析ゆえ、初動を把握する意味合いが強いと考えてもらえるといいだろう。

なお、WR-Vはガソリン車のみの展開となるため、比較対象のヴェゼルはガソリン車とハイブリッド車にわけて分析する。また、ZR-Vのガソリン車はサンプル数が少ないため、今回は分析の対象外とした。

分析データはこれまでと同様、市場調査会社のインテージが毎月約70万人から回答を集める、自動車に関する調査「Car-kit®」である。

<分析対象数>
■WR-V:71名
■ヴェゼル ガソリン車:99名
■ヴェゼル ハイブリッド車:1341名
■ZR-V ハイブリッド車:313名
※いずれも分析対象は新車購入者のみ。現行のヴェゼルの発売タイミングである2021年4月以降購入者に限定している。

どんなクルマから乗り換えたのか?

はじめに、「どんな乗り換えだったのか」を確認する。

WR-V、ヴェゼル、ZR-Vともに買い替え(代替)での購入が9割程度で、残りの約1割が買い増し(増車)と初めての購入(新規)となっている。

では、どんなクルマから乗り換えたのか。メーカーでは、やはりホンダから乗り換えが多く、その乗り換え率を見てみると、WR-V:69%、ヴェゼル ガソリン車:75%、ヴェゼル ハイブリッド車:71%、ZR-V ハイブリッド車:72%だった。WR-Vがやや低いが、いずれも7割程度と大きな差はない。

【表】今回の調査結果を先に見る

続いて、具体的な車種名(前有車)を確認してみよう。まずヴェゼルについては、今回の対象が現行モデル(2021年発売)であるため、1つ前のモデルからの乗り換えが多い。特にハイブリッド車で、この傾向が顕著だ。


画像を拡大

その他、ヴェゼルの前有車としては、「N-BOX」「フィット」「オデッセイ」「フリード」と、大小さまざまなホンダ車が並び、アップサイジングにもダウンサイジングにも対応していることがわかる。

ZR-Vは2023年4月に発売された新型車であるため、「ZR-VからZR-Vへ」の乗り換えは基本的に存在しない。そのため上位はヴェゼルとなっている。

2位にはヴェゼルやZR-Vではランクインしていない「CR-V」が入っているのが特徴的だ。ZR-Vは、実質的にCR-Vの後継車種であるため、純粋な代替えとして選ばれたのだろう。


実質的にCR-Vの後継モデルとなっているZR-Vの価格は320万8700円〜450万6700円(写真:本田技研工業)

今回の主役のWR-Vは、フィットとヴェゼルからの乗り換えがほぼ同じ割合で上位となっており、N-BOXが続くことから、コンパクトなサイズを好む人々の乗り換え先として選ばれているといえる。フィットやN-BOXの上級グレードともオーバーラップする209万8800円〜という価格帯が、コンパクトカーユーザーを振り向かせたのかもしれない。

続いて、購入した人々が「実際のところいくら支払ったのか」を確認する。次に示すのは「値引き前車両本体+オプション価格」「値引き額」「下取り額」「最終支払い額」の各データだ。


画像を拡大

WR-Vを見てみると、発売から間もないタイミングで購入した人々であるため、価格帯としてはやや高くなっているように見える。一般に新型車やフルモデルチェンジ車の初期購入者は、後続の購入者よりも上のグレードを選択したり、オプションを多く装備したりする傾向があるため、購入価格は高めに出る。

「値引き前車両本体+オプション価格」を確認すると、WR-Vは305万円でありヴェゼル ガソリン車の311万円と近い。上述の通り、上位グレードに購入者が集中している可能性が考えられるため、発売から時間が経つにつれ200万円台後半に落ち着くのではないかと考えられる。

値引きや下取り額を引いた「最終支払い額」を見てみると、WR-Vは250万円であり、ヴェゼル ハイブリッド車よりは40万円強、ZR-V(ハイブリッド)よりは100万円強、それぞれ安かった。


ハイブリッド車を主力とした現行ヴェゼル。写真は2021年4月で今年マイナーチェンジを実施している(写真:本田技研工業)

車種ごとのキャラクターが浮き彫りに

次に「購入時の前提条件」を見てみよう。WR-V購入者を見てみると「購入予算」「ボディタイプ」のスコアが高く出ている。購入前から狙いがはっきりしていると言えそうだ。


画像を拡大

ヴェゼル ハイブリッド車とZR-Vは、「ハイブリッド車であること」「燃費の良さ」を重視しており、WR-Vとは明確に異なる特徴を示す。

「メーカー」「販売店や営業スタッフ」のスコアは、各車でほとんど変わらないから、ホンダやホンダカーズとの距離感や関わり方に大きな違いはなさそうである。

続いて「購入したクルマの気に入った点」を確認すると、「車両価格」について非常にはっきりとした結果が出た。


画像を拡大

WR-V購入者の多くは、車両価格に満足している。車両本体価格が上がり続ける昨今において、ガソリン車しか用意がないとはいえ、Honda SENSINGを標準装備しながら200万円台前半である点は、やはり大きな魅力となっているようだ。

また、WR-Vは「室内の広さ」「荷室の広さ」の評価が、ヴェゼル、ZR-Vよりも高い。テレビCMでも豊富な積載力を訴求しているが、実際の満足も高いことがわかる。

一方で、「内装デザイン」「動力性能」「乗り心地」「静粛性」といった点の評価は低い。このあたりは車両価格と裏返しでもあり、“価格相応”といったところだろうか。

明確な差が出た「抱いているイメージ」

最後に、購入したクルマに対して各オーナーが「抱いているイメージ」を紹介する。


画像を拡大

WR-Vのイメージとして強く想起されているのは、「カジュアル」「アウトドア・自然」「頑丈」だった。ヴェゼル、ZR-Vと比較してスクエアなボディデザインから、都市型よりもアウトドア型のSUVとして受け入れられていることが伝わってくる。

他方で「高級」「先進的」のスコアは、非常に低い。「高級」はそもそも目指していない車種であるので、中途半端に想起されるよりも、ホンダ内のSUVラインナップを考えた際に良いポジションを取れていると言えよう。「先進的」のスコアの低さは、装備の簡素さなどから抱かれているのかもしれない。


WR-V「Z+」グレードのインテリア。シンプルで機能的なデザイン(写真:本田技研工業)

ここまでWR-Vについてヴェゼル、ZR-Vとの比較を通して分析を行ってきた。リアルなユーザーへのアンケートから、WR-Vは手の届きやすい価格帯かつ、既存のSUVラインナップ(ヴェゼル、ZR-V)と被らないイメージを獲得できていることがわかった。

インドから輸入してまで発売した、ホンダの狙い通りと見ることもできる。今後、いわゆる新車効果が落ち着き、需要が一巡していく中で、どのようなクルマとして日本市場で存在感を発揮するかを今後も追っていきたい。

【表】もう一度、各データを見直す

(三浦 太郎 : インテージ シニア・リサーチャー)