2024年4月16日に渋谷にオープンした韓国チキンバーガーチェーンの「MOM’S TOUCH (マムズタッチ)」。スクランブル交差点から至近の好立地は、もとはマクドナルドがあった場所だ(撮影:尾形文繁)

バーガーの激戦地、日本に新たなプレイヤーが参戦した。韓国No.1のチキンバーガーチェーン「MOM’S TOUCH (マムズタッチ)」だ。

マムズタッチは2024年4月16日、渋谷公園通りに面した立地にオープン。ちなみに以前同立地にあったのはマクドナルド渋谷店。2023年11月に閉店している。

韓国発のバーガーとは? 

バーガーといえば、日本ではアメリカのイメージが圧倒的に強い。まず国内約3000店舗を数えるマクドナルドがそうであるし、チキンのチェーンながらKFC、バーガーキング、ウェンディーズ・ファーストキッチン、ウマミバーガー、シェイクシャックなど、すべてアメリカから上陸したチェーンである。

なんといってもアメリカのソウルフードであり、アメリカが本場だからだろう。

韓国発のバーガー、いったいどんな味なのだろうか。


一番人気のチーズサイバーガー(570円)。濃いチーズの風味を最大化したチェダーチーズソースを使用しているとのことで、かなり濃厚なチーズ感。チキンの辛み、甘めのピクルスなどが絡み合って複雑な味に仕上がっている(撮影:尾形文繁)

看板メニューは「サイバーガー」(520円)。まず驚くのが、その高さ。サンドされているチキンが厚いのだ。「あご外れバーガー」との異名もあるらしい。自分の口の口径が足りるか心配しながら、ひと口かじってみる。

【写真】人気1位のチーズサイバーガー、2位のサイバーガー、3位の本格プルコギバーガー、骨なしフライドチキン、ヤンニョムチキン、ニンニク醤油チキン、明るく開放感がある店内、渋谷店で初めて導入されたベルトコンベア、CEOキム・ドンジョン氏(10枚)

サクッとした食感のあとに、できたてで熱々のやわらかい肉が肉汁とともに口の中にほどけてくる。チキンはプレーンに見えるのだが、実はしっかり辛く、かむほどに辛味が舌をピリピリと刺激する。それをピクルスの甘酢味、マヨネーズベースのソースが和らげてくれている。


サイバーガー(520円)。サンドされているのは「骨なしフライドチキン」と同じチキンだが、バンズや野菜、ソース、ピクルスなどと合わせるとまた違った味わいを楽しめる(撮影:尾形文繁)

チキンのバーガーはKFC以外にも各チェーンでそろえているが、サイバーガーはその中でもエキゾチックで個性的。一度食べたらクセになり、「あの味が食べたい」と思い出すような味といえるだろう。

メニューの人気ランキングは、1位がチーズサイバーガー。2位がサイバーガー、3位が渋谷店でのみ販売している本格プルコギバーガーとのこと。また新商品のハニーガーリックサイバーガーも追い上げている。

本格プルコギバーガーは、日本消費者にもっとも人気のあるテリヤキソースと、こちらも韓国料理の中で日本の消費者に好まれるプルコギをアレンジして開発したものだそうだ。


「骨なしフライドチキン」(4ピース850円)、「骨なしヤンニョムチキン」(4ピース900円)、「骨なしニンニク醤油チキン」(4ピース900円)のうち、人気があるのはヤンニョムチキンで、フライドチキンとニンニク醤油は同じ程度。ニンニク醤油もファストフードとしては珍しいほどニンニクがきいており、アルコールに合いそうな大人好みの味(撮影:尾形文繁)

渋谷店オープン以降の客層としては、20〜30代が全体の57%。10代、40代がそれぞれ17%を占める。女性が75%と、女性率が高い。日本の飲食チェーンの客層は男性率が高いところが多いので、ユニークな結果といえるだろう。

韓国では1430店舗とトップ

マムズタッチは1430店舗と韓国では店舗数トップのチキンバーガーチェーン。海外ではほかにタイ(6店舗)、モンゴル(6店舗)、アメリカ(1店舗)に出店。海外市場ではマスターフランチャイズ形態で進出するのが同チェーンのやり方だが、日本1号店となる渋谷店に関しては、現在のところ日本法人による直営で運営している。

今回のオープンに先立ち、2023年10月に3週間のポップアップストアを展開、3万3000人を集客した。韓流ブーム、アジアグルメ人気を背景に、この韓国のチェーンを歓迎する声が高まったようだ。

4月16日のオープン後は、40日余りで累計来店者数10万人、売上高は1億円を計上したという。

重視したのはコストパフォーマンス

このたび、日本における戦略、そして今回の実績を踏まえた今後の展開について、マムズタッチを運営するマムズタッチアンドカンパニー代表取締役CEOのキム・ドンジョン氏に聞く機会を得た。

キム氏によると、日本進出にあたりもっとも重視したのがコストパフォーマンスだそうだ。


マムズタッチカンパニー代表取締役CEOキム・ドンジョン氏。延世大学経済大学院卒業後、市場調査専門機関や韓国マクドナルド、サムスン電子などを経て2021年より現職。同氏の就任後、飽和状態と言われていた韓国市場において、マムズタッチがロッテリアを抜き店舗数1位に躍り出た(撮影:尾形文繁)

「韓国でもそうだが、日本もコスパが重要な消費トレンドになっている。これまでのQSR※では体験できなかった、店での手作りの味わい、ボリューム、リーズナブルさを積極的にアピールする」(キム氏)

※QSR(Quick Service Restaurant):素早いサービスでファストフードなどの料理を提供するレストラン

確かに、サイバーガーひとつとっても、520円という価格に対してボリュームは十分以上。例えばマクドナルドのチキンフィレオは410円なのだが、見た目の厚みがまったく違う。

2大勢力のチェーンでは、一番低価格のバーガーがマクドナルドなら100円台(ハンバーガー170円、マックチキン180円)、モスなら200円台(ハンバーガー240円、チーズバーガー280円)。

渋谷店では、こうした低価格の商品ではなく、例えばビッグマックのような人気の高いバーガーを基準に考え、それよりも低くなるよう設定しているそうだ。


マムズタッチ店内。明るく開放感があり、テーブル間のスペースもゆったりとられている(撮影:尾形文繁)

こうしたコストパフォーマンスを可能にしているのが、「効率的なマーケティングによるコストの削減」だという。テレビCMは抑え、商品の競争力を強化するための投資に集中するというのが、キム氏の方針だ。

ボリュームだけでなく品質、つまり味についても、事前に競合他社商品約40種類との比較テスト、日本人を対象とした消費者テストなどを行い、日本人好みの味を追求したという。

日本市場における、もう一つの重要戦略が「スピード提供」だ。

まず、注文のプロセスをデジタル化。対面のほか、客のスマートフォンや店内2カ所のパネルから注文できるので、注文までの時間が短縮される。

また渋谷店で初めて厨房に導入したのが「ベルトコンベア」だ。調理を流れ作業で行うことにより、生産効率をアップ。2023年のポップアップストア時に比べ、客の待ち時間を平均55%削減したそうだ。


1時間に300〜400人という前例にない客数をさばくため、渋谷店で初めて導入されたベルトコンベア(撮影:尾形文繁)

このベルトコンベア、キム氏自らの発案だという。

「なぜベルトコンベアを入れたかというと、この店で利益を出さねばならないから。韓国では都心のテナント料が高い店舗はフラッグシップ店などにしてマーケティングの役割をもたせ、利益は出せなくても仕方がない、という考え方で運用しているが、渋谷店はそのようにしたくなかった。家賃をカバーしながら利益も出すにはどうしたらよいか考えるために、街をさまよい、流動人口などを観察した。その結果、人は十分にいる、あとはオペレーションを整備して待ち時間を短くすれば客は入ってくると。こうして生産効率の高い店舗づくりが前提となった」(キム氏)

渋谷店では1時間に200枚のレシートが発行される。客数にして300〜400人に商品を提供しなければならない。これはマムズタッチでも前例のない数だそうで、韓国内でもっとも客数の多い店のベテランスタッフが調理に要するタイムを計測して検討したが、対応できないことがわかった。


セットで人気なのはチーズサイバーガー+ポテト+ドリンク。2ピースのチキンを足す客が多い。ポテトはスパイシーなケイジャン味(撮影:尾形文繁)

そこで工場のいわゆる「カンバン方式」をヒントに、キッチンにベルトコンベアを設置することを思いついたのだという。

生産効率向上だけでなく、人件費削減の効果も見込んでいる。

なお、渋谷店に続き、韓国のミョンドンに2024年6月オープンした店舗にもベルトコンベアを大小2台導入。ミニタイプのほうは日本の回転寿司をヒントにしたそう。こちらのミニタイプも渋谷店への導入を検討中だ。

日本では「味・満足度」で勝負するしかない

オープンから約1カ月が経過したところでの、日本市場の印象を聞いた。

「日本は進出がとても難しい市場という印象。東南アジア市場では韓国が文化の先進国というイメージが定着しており、『K-プレミアム』、つまり韓流ということが付加価値になる。しかし日本では通用しない。より本質的であり、グローバルにも通用する基準、『味・満足度』で勝負するしかないと思っていた。実際に店舗を出してみて、来店数や口コミの評価を見たところでは、戦略は成功していると感じている」(キム氏)

なお、K-プレミアムは日本では通用しないが、韓流ブームは大いに利用したいと考えているそうで、近々それを踏まえたプロモーションを展開していく予定だ。

渋谷店の客入りも6月半ば時点でやや安定してきたところであり、勢いをつける意味で、メニューバリエーションを増やしていく予定だという。

2024年末までに毎月新商品を発売する。例えば、チーズボール、チョコボールなどのスナックや、バーガーも最大で4種類新たに発売する。


渋谷店のみの限定商品、本格プルコギバーガー550円(撮影:尾形文繁)

確かに今回バーガーやチキンを試食してみて、ボリューム感が日本人の好みに合うかと感じたところがあった。もう少し低価格で量も少ないバーガーや、ティータイムにつまめるメニューが増えれば、お腹具合に合わせていろいろな時間帯に利用しやすくなりそうだ。

10年以内に1000店舗展開を目指す

以上のように、マムズタッチは高コストパフォーマンス、スピード提供の2つを柱に日本市場の攻略にかかり、渋谷店をベースキャンプにK-バーガーの代表ブランドとしての地位を確立したいという。マスターフランチャイズ契約あるいは合弁会社形態により、10年以内に1000店舗展開を目指す。

グローバルへの展望としては、年内にタイは12号店、モンゴルは10号店まで増やす予定。ラオスには3店のオープンを予定している。

アメリカについても、現在出店している1店舗は創業者によるマスターフランチャイズの名残であり、契約が切れる2025年以降に、新たな進出を考えたいとする。

まずは日本市場での足がかりを確保したマムズタッチ。各社しのぎを削るバーガー戦線における今後の勝負は、メニュー戦略がポイントになりそうだ。個人的には、日本のチェーンでは当たり前に行われている、期間限定商品をどう使っていくかに注目したい。


マムズタッチカンパニー代表取締役CEOキム・ドンジョン氏(撮影:尾形文繁)

(圓岡 志麻 : フリーライター)