「昇進のチャンスは辞退します」「自分のために働くことの何が悪い?」Z世代は本当に「会社のために働くなんてありえない」と考えているのか?
日本社会において今後ますます中心的存在になっていくZ世代。彼らは「会社のために働かない」などと揶揄されることもあるが、いったいどんな思いで働いているのだろうか。社会人5年目以下のZ世代の男女3人の本音を聞いてみた。そこから見えてきた“イマドキの働き方”とは?
【画像】「やっぱりお金が欲しいから」働く理由を語る社会人4年目のミユさん
6月14日のXの投稿で、Z世代の働き方に関するこんなポストが話題になった。
《Z世代が会社のこと考えず、自分のことしか考えてないのって何が問題なの? そもそも会社だって利益のことしか考えてなくて、労働者のことなんてどうなっても知ったこっちゃないと思ってるわけだし。会社からそんな雑に扱われてるにも関わらず、会社のためとか言って頑張る方がおかしいだろ。》
Z世代が会社のこと考えず、自分のことしか考えてないのって何が問題なの?
- ウツロたくや (@utsurotaku710) June 14, 2024
そもそも会社だって利益のことしか考えてなくて、労働者のことなんてどうなっても知ったこっちゃないと思ってるわけだし。
会社からそんな雑に扱われてるにも関わらず、会社のためとか言って頑張る方がおかしいだろ。
このポストはZ世代とみられるユーザーによる発信で、賛否両論を巻き起こした。
「会社のために働くことが当たり前」という世間的空気感のなかで、がむしゃらに働き続けてきた中高年世代とは、異なる価値観を持つZ世代の若者たち。今回はさまざまな業界・職種で働くZ世代3名へのインタビューを通して、若者たちの“イマドキの働き方”について本音を探っていく。
最初はお金のために…今は会社のためにも動いてる?
最初に話を聞いたのは現在社会人4年目のミユさん(仮名・女性・26歳)。ミユさんは新卒で映像業界の会社に入社。公開される映画の予算管理やスケジュール調整などが主な仕事だという。
ずばりミユさんは何のために働いているのだろうか。
「やっぱりお金が欲しいからですかね。お金ってあればあるほど精神的な余裕や生活の安定につながりますよね。あとは仕事を頑張ると“頑張っている自分えらいな”って自己肯定感にもなるし、頑張ったからこそもらえたお給料で美味しいごはんを食べに行くとか、ちょっとした贅沢もできます。
そういう幸せを感じていたいから働くんじゃないかな。でも生活のために仕方なく働いているという感覚はなくて、仕事は自分の生活を豊かにしてくれるポジティブなものだと思っています」
では、会社の利益を上げたい、もっと会社に貢献したいといった「会社のために働く」という価値観は持っていないのか?
「会社のために働くということは特に意識していなかったかも。仕事にやりがいを見出して、会社をもっと大きくしたいというような上昇志向にあふれた人もいるかもしれませんが、私含めたいていの人が自分の生活のために働いているんじゃないかと。私の周りのZ世代は特にそうした傾向がありますね。でも会社のために働くという意識が芽生えるかどうかって勤続年数にもよるんじゃないかと最近気づきました」
そんな彼女が丸3年以上、今の会社に勤めて得た“気づき”とはどういったものなのだろう。
「仕事に慣れず大変だったころは、とにかく目の前の仕事に精一杯でしたが、最近ようやくひとりでも仕事をこなせるようになって、全体を見る余裕ができた今、会社の“ムダ”がとてももったいなく感じて、許せなくなってきたんです。
業界的に多忙な時期は残業ばかりで、体調を崩して辞める人や休職する人が多い環境なのですが、せっかく仕事を覚えても辞めていく人が多いと社員の教育コストがムダになりますよね。
過去に私自身も休職経験がありますが、ちゃんと動ける人材に成長するまで会社は社員をケアしたり、社員を定着させるような制度を作ったりするべきだと強く感じて、人事部に異動させてもらえないかと考えたこともあるくらいです。会社に3年以上勤めているからこそ会社が抱える問題点にも目を向けられるようになり、自分のなかで意識の変化が起こったのかなと思います」
最初は自分の生活を豊かにするために働いていたミユさん。勤続年数を重ねるうちに会社のための行動もしている自身の姿に気づいたようだ。
自分のやりたいことが会社のためになるのがベスト
続いて話を聞いたのは、今年の春に広告系のベンチャー企業に就職したばかりのウエスギさん(仮名・男性・23歳)。彼は企業に対する広告提案などの営業を担当しているという。
「僕が勤めている会社は規模が小さく、少人数なので一人一人の働きがすぐに実績として反映されるんです。特に自身が所属する営業は直接顧客へ働きかけるので、会社への売り上げに直結する大事な部門。だからこそ今はやりがいを感じて仕事することができています」
そんなウエスギさん、理想の働き方についてこう語る。
「僕は働くうえで、まずは自分がやりたい仕事に挑戦できる環境かどうかを重視します。自分のやりたいことができている前提で、その次に会社の利益や貢献度を考えていますね。だから自分のやりたいことが必然的に会社のためにもなっている状態がベストだと思っています」
現在、月平均40~60時間の残業があるというが、「そこまで苦じゃない」と言う。自分がやりたいことだからこそ残業時間でもキャリアアップにつながっていると感じられるそうだ。
では、自分がやりたいことができない職場に就職してしまった場合、どうするのだろうか。
「すぐ辞めちゃうでしょうね(笑)。それが一生死ぬまで続くなんて絶望しますし、時間のムダだって思っちゃうんです。さっさと転職して新しいことに挑戦したほうが自分のためになるんじゃないかなって」
昨今ではブラック企業に勤めてメンタルを病んでしまうケースや、新卒で入社1年以内に退職してしまうケースも目立っている。こういった状況についての意見を聞いた。
「精神を病むくらいならその会社に居続ける必要はないですよ。たとえそれが自分のやりたいことでも、人間には限界がありますし。会社は社員のケアもちゃんとしなきゃいけないのに、それができていない会社にこちらも貢献したい気持ちにはならないです。
だから早めにそれに気づいて次に行くことも悪いことじゃないと思います。今は情報があふれていて、転職もしやすくなっているので」
転職サイトや転職エージェントが活況の昨今、転職へのハードルが下がってきていることで、ムダな時間を過ごしたくないという若者たちが増えているのかもしれない。
現状維持がいい。昇進のチャンスはきっと断る
最後に話を聞いたのはユリカさん(仮名・女性・27歳)。建設業界の大手企業で、工費の管理や資材の発注などを担当する工務として働いているという。新卒から入社し、今年で5年目だという彼女だが、現在の会社や業界にもともとあまり興味がなかったそう。
「就職活動もそんなに力を入れてしていなかったので、とりあえず内定をもらったから入社したというのが正直なところ。現在の仕事は内勤メインですが、現場にも行きますし、夜勤もたまにあります。人手不足なのでメインの仕事以外も任される場面が多々あります」
興味のない仕事、かつ夜勤などのきつい仕事も任せられているようだが、会社に対して不満はないのだろうか。
「特にないですね。入社する前から夜勤があることはわかっていましたし、仕事内容に関してはある程度覚悟していました。一時期夜勤のせいで疲れが取れなくて、なんだかプライベートの時間も楽しめず、つらかった時期もありましたが、夜勤は日勤よりお給料が高いので頑張れました。私が働く一番の目的ってお金のためなんです。今は5年目で順調に昇給もしていて、仕事内容に見合ったお給料をもらえているので不満はないです」
1人目のミユさんと同じくユリカさんも「お金・収入」が働くうえでのいちばんの目的だという。ユリカさんは現在の職場に不満はないということだが、もっと給料が高いところに転職しようという気持ちはないのだろうか。
「このまま居続ければ昇給もするし、なにより転職は労力がかかるのでコスパ悪いなって。今の会社は人間関係にも恵まれていて働きやすいですし、いざ転職して人間関係が悪い環境だったら…と思うと、やっぱり転職するメリットよりリスクの方が大きいと感じます」
ユリカさんは現在の会社で「このままなんとなく働き続けたい、現状維持したい」と語る。しかし会社に居続ければ責任が重くなったり、役職が付いたりすることもあるだろう。
「給料が上がるとしても昇進はしたくないです。責任が重くなるのも、自分の時間が無くなるのも嫌。もし役職に就くとなったらきっと断りますね。自分の上司が仕事に追われて大変そうな様子を見ていると、現状のままがいいなって思っちゃうんです。だから昇格試験の勉強もなかなかはかどらないし、今以上に仕事を頑張ろうというモチベーションにつながらないですね」
ちなみに、彼女は仕事のせいでプライベートを邪魔されることは絶対に嫌なんだとか。
「社用携帯があるのですが、勤務時間外はあまり確認しないので、土日の休日などに連絡があっても、週明けまで気づかないこともあります。会社の飲み会も極力行きたくありませんし、もしプライベートの予定が先に入っていたら断ります。
飲み会の場での上司の武勇伝とかその世代の価値観の話って、何も響かないんですよ…。だって私たちの世代の価値観とは全然違うし、正直聞いていても参考にならないんです」
“省エネ”な働き方をするユリカさん。彼女のように現状に満足しているからこそ、出世などを敬遠する上昇志向を持たない若者も多いのかもしれない。
――Z世代3人の働き方への本音を深掘りしてきたが、やはり彼らは多かれ少なかれ「自分のために働く」という価値観を重視していた。「そんなZ世代の社員に長く勤続してもらいたいのであれば、企業側も考え方をアップデートしていく必要があるのではないだろうか。
取材・文/瑠璃光丸凪/A4studio