中谷潤人衝撃KOの裏に名トレーナー「ルディ」の存在 出会いは15歳、技術より教育重視の育成論
中谷潤人とオラスクアガが一夜明け会見
ボクシングのWBC世界バンタム級王者・中谷潤人(M.T)が21日、衝撃の157秒KO勝ちから一夜明け、都内の帝拳ジムで会見した。前夜は東京・両国国技館で同級1位ビンセント・アストロラビオ(フィリピン)に初回2分37秒KO勝ちし、初防衛に成功。親友のアンソニー・オラスクアガ(米国・帝拳)もWBO世界フライ級王座を獲得し、会見に同席した。2人を指導するのはルディ・エルナンデス氏。多くの選手を見てきた名トレーナーが育成方針を明かした。
ベルトを巻いた2人の愛弟子と肩を組んだ。エルナンデス氏も会見に同席。「グレートジョブだった。まず2人が努力をしないと、今ここにはいない。それが大事。努力の賜物だった」と世界王者2人を労った。
特に中谷はわずか157秒の左ボディーストレート一撃でKO勝ち。世界で最も権威のある米専門誌「ザ・リング」の階級を超えた格付けランク「パウンド・フォー・パウンド(PFP)」において、日本人では2位の井上尚弥に次ぐ10位につける。オラスクアガも加納陸に鮮烈な左アッパーを突き刺し、3回2分50秒KO勝ち。昨年4月の寺地拳四朗戦以来、2度目の世界挑戦で王座戴冠を果たした。
多くの選手を育て上げたエルナンデス氏は、中谷と「トニー」の愛称を持つオラスクアガの長所を評価した。
「ナカタニは今まで会った中で最高の選手。ボクシングに向かう姿勢も素晴らしい。今まで最高の弟子だ。何事も疑問を持たず、まずはやりながら覚える。それが素晴らしい。
“いつでもご機嫌トニー君”には高い期待をしていた。王者になれると思っていたが、いろんなところに気が散るタイプで心配なんだ。でも、今回は違う。真剣にボクシングと向き合ってくれた。それはそばにナカタニがいてくれるから、彼の足跡を追っていけた。2人の素晴らしいコンビネーションだと思う」
26歳の中谷は中学卒業後に単身渡米。15歳でエルナンデス氏に出会い、オラスクアガとも研鑽に励んだ。同トレーナーは「コーチとして10代の子たちを見る時は、全員が世界王者になるとは思っていない。時と瞬間を待つ。みんながプロにはならない」と強調する。「ステップバイステップで一つひとつ見ながら教えるんだ」。技術指導より人としての成長を重視するという。
「彼らにはボクサーになる準備ではなく、大人になる準備をさせる。ボクシングを教えるけど、警察官や教師になる子もいるし、その中で大人になっていく指導をしている。今、彼ら(中谷とオラスクアガ)は世界王者になって、ボクシングが仕事になった。それで私の目線も、周りの期待も変わる」
中谷も、オラスクアガも人当たりがいいナイスガイ。エルナンデス氏との関わりがそんな人柄にも影響しているのかもしれない。
厳しいルディ流、突如5分スパーの中谷「何の説明もない」
息子のように2人と接するエルナンデス氏だが、プロになってからのルディ流は厳しい。普通の選手のスパーリングは1回3分、ラウンド数は長くても世界戦と同じ12回。だが、中谷は試合までに自己最長16回を含む計140回以上を消化した期間もある。パートナー2人を相手に5分×10回の日もあった。しかも予告なく行われ、リング上で相手と戦いながら気づく。
「ルディさんから何の説明もない。ルディさんが時間を計っていて、『何かやってるな』とは思ったけど、全て受け入れてやっている。イレギュラーに耐えて自信にもなった」
今回の試合直前に行った日本での調整期間中も1日12回をこなした後、米国にいた師匠から「ネクスト1回」とリモートで追加を指示された。
5月末から約40日のロサンゼルス合宿でも指導を受けた中谷とオラスクアガ。7月の日本滞在中は同じ屋根の下で生活した。エルナンデス氏は第2試合のオラスクアガに「KOしてこい。キャリアで一番大事な試合だ」、第4試合の中谷には「ファーストコンタクトに強いパンチを打て」とそれぞれ直前に指示。2人は見事に遂行した。
忙しく、献身的に愛弟子を支える時間は大歓迎だった。
「プロとして目的があるからイージーさ。トニーが勝ってくれたので、そのままナカタニに行けた。プロとして素晴らしいし、ありがたいよ。2人同時の興行もいいものだね」
統一戦も期待される2人には頼もしい参謀がいる。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)