「のどが渇く」「尿が増える」のは「糖尿病」のサイン? 糖尿病の初期症状を医師に聞く

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「糖尿病」という病気について、みなさんはどのようなイメージを持っていますか? 多くの方が「血糖値が高くなる病気」ということは知っていると思いますが、具体的にどのような症状が起こるのか知らないという方がほとんどだと思います。中尾先生によると、「実際訪れる患者の大部分は、何かの症状に苦しんで病院を受診してきたわけではなく、健康診断で血糖値が高いことを指摘されて受診してきている」とのことです。では、糖尿病では実際にどのような症状があるのか、初期に起こる自覚症状と併せて取材しました。

≫ 【イラスト解説】「糖尿病」が進行したことで起こる合併症とは

監修医師:
中尾 裕(医師)

2014年九州大学卒業。卒業後は九州大学病院や九州医療センターをはじめ、福岡の多数の拠点病院で内分泌・糖尿病内科医として勤務。現在は九州大学大学院所属。これまでの経験を活かし、SNS上で糖尿病を中心とした医学の啓発活動を行っている。2023年5月より糖尿病を楽しく知るメディア「あおいろサークル」を発足。

糖尿病で症状が出るメカニズム

編集部

はじめに、“糖尿病”がどのような病気か教えてください。

中尾先生

糖尿病は、簡単に言えば血糖値が上がりやすい体質になってしまう病気です。血糖値が上がってしまう理由は、血液中の糖分を利用するためのホルモンである「インスリン」のはたらきが悪くなってしまうからです。

編集部

インスリンと聞くと「血糖値を下げる」というイメージがあります。

中尾先生

そうですね。たしかにインスリンによって最終的に血糖値は下がります。しかし、インスリンの本当の目的は、「血液中の糖分をエネルギーに変えたり、筋肉や脂肪を作る材料に変えたりすること」です。血糖値が下がるのはあくまで「糖分を利用した結果」ということは覚えておきましょう。

編集部

糖尿病によって血糖値が上がるとどうなのるでしょう?

中尾先生

糖尿病で血糖値が高くなっている状態というのは、「エネルギーや筋肉・脂肪の材料として血液中の糖分を充分に使えていない状態」とも言えます。

高血糖による症状

編集部

続いて、糖尿病の症状について教えてください。

中尾先生

糖尿病によって起こってくる症状は
①高血糖による症状
②糖分を上手く利用できていないことによる症状
の2つに分けられます。

編集部

それぞれどのような症状なのでしょうか?

中尾先生

まず、血糖値が上がってしまったことによる症状として代表的なのが、「口渇・多飲・多尿」です。通常、ヒトの尿には大事なエネルギー源である糖分が出ていかないように調整されています。しかし血糖値が高くなると、「糖尿病」の名前の通り、尿に糖分が漏れてしまいます。

編集部

「口渇・多飲・多尿」が起こる原因について、詳しく教えてください。

中尾先生

糖分は水を引っ張る性質があるため、尿に糖が漏れるようになると、それに引っ張られるように尿そのものの水分量が増えます(多尿)。すると、身体から出ていく水分が増えてしまうため、のどが渇いて(口渇)、水分をたくさん摂取する(多飲)ようになるわけです。ただし、最初にも説明した通り、これも糖尿病発症初期では自覚しづらくなっています。

編集部

なぜ糖尿病の初期では自覚しづらくなってしまうのでしょう?

中尾先生

これは、血糖値が多少上がったとしても、一日中尿糖が出るわけではなく、血糖値が高い時間帯に作られた尿にのみ糖が出るためです。逆に言えば、糖尿病がある方で「最近一日中やけにトイレが近いな……」という場合、血糖値が高い状態が一日中続いている可能性もあるため、注意が必要です。

糖分を上手く利用できていないことによる症状

編集部

続いて、「糖分を上手く利用できていないことによる症状」について教えてください。

中尾先生

血液中の糖分を充分に使えていないことによる症状として代表的なのは「体重減少」です。先ほど解説した通り、血液中の糖分は筋肉や脂肪を大きくするための材料としても使われます。つまり、インスリンのはたらきが悪くなって糖分が上手く利用できず、筋肉や脂肪を維持することすら難しくなってしまった場合には、体重が落ちていくわけです。病院を受診された患者さんの中には、「体重が落ちたから良いことなのかと思っていました」とおっしゃる方もいますが、一種の飢餓状態に近い体重減少であって、決して健康的に痩せているわけではありません。

編集部

糖尿病によって起こる体重減少には、どのような特徴がありますか?

中尾先生

糖尿病でよく見られる体重減少の特徴としては、普段の食事・運動などの生活は何も変えていないにもかかわらず、体重が急激に落ちていくことです。ただし、こうした体重減少自体は糖尿病のみにみられるものではなく、甲状腺の病気やがんなどでも起こり得ます。いずれにせよ、思い当たる節のない体重減少がある場合には、病院を受診することをお勧めします。ほかにも、血液中の糖分を上手く利用できないことで、エネルギー不足のため倦怠感(だるさ)・空腹感を感じることもあります。

症状がなくても放置は厳禁!

編集部

「糖尿病の放置は危険」とよく聞きます。なぜ危険なのでしょうか?

中尾先生

最初にお伝えした通り、糖尿病を発症して多少血糖値が上がったとしても、自覚症状はないことがほとんどです。ふだん健康診断を受けていない方であれば、「別の症状のために病院を受診して血液検査を受けた結果、偶然発覚した」というケースも多くなっています。このような場合、「いつ発症したのかも分からず、かなりの高血糖状態で、合併症もかなり進んでしまっていた」なんていうことも決して珍しくありません。

編集部

なるほど。糖尿病を早期発見するために重要なことを教えてください。

中尾先生

糖尿病をはじめとした自覚症状があらわれにくい病気は、ちゃんと病院の検査で調べない限り診断が遅れがちです。診断・治療が遅れると、その間にも合併症が進行してしまいます。糖尿病を早期に診断するためには、健康診断を定期的に受診することが非常に重要です。仮に健康診断を受けていても、「要受診」の判定であるにもかかわらず、「特に症状がなかったので……」と病院を受診されない方もいらっしゃいますが、血糖値が高い限り症状がなくても合併症はじわじわと進行してしまいます。

編集部

最後に読者へメッセージをお願いします。

中尾先生

この記事を通して、みなさんにお伝えしたいのは
①症状がなくても健康診断は必ず定期的に受診すること
②健康診断で引っかかったら絶対に放置しないこと
の二点です。もちろん、症状が出にくいことは決して悪いことばかりではありません。自覚症状が出やすいような病気を患うと、生活を送る上で大きな支障になりますよね。糖尿病は症状に乏しいからこそ、早期から良い血糖値を維持して合併症を進めさせなければ、生涯にわたって健康な方と大きく変わらない生活を送れるわけです。糖尿病は誰にでも起こりうる病気です。だからこそ、必ず定期的に健康診断を受けるようにしましょう。

編集部まとめ

「初期の糖尿病では自覚症状がないことがほとんど」ということについて解説していただきました。糖尿病は血糖値が高くなるだけの病気ではなく、合併症が恐ろしい病気であること、自覚症状がなくても血糖値が高ければ合併症が進行する病気ということなので、早期発見するよう、意識することが重要です。中尾先生も仰っていましたが、健康診断を受けることが予防のポイントです。少しでも気になる点がある方は医師に相談し、自身の健康を守るようにしましょう。

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