夏バテ対策のはずが…「エナジードリンク」栄養のプロは「40歳以上は飲まないほうがいい」と断言

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カフェイン、糖類の「過剰摂取」で心筋梗塞、不眠、薄毛にも

若者を中心に人気が高まっているエナジードリンク。「会議中の眠気防止に飲む」「残業をがんばりたいときに飲む」など、“仕事スイッチ”を入れるために取り入れている中年男性も多い。しかし、管理栄養士の篠原絵里佳さんは、「40歳以上は特に飲まないほうがいい」という。

エナジードリンクの主な成分は、カフェインや糖類のほか、代謝に関わるビタミンB群、疲労回復効果のあるアルギニン酸などです。そのほか、商品によって違いますが、脂質をエネルギーに変えるカルニチン、疲労に効果的なクエン酸、ガラナ種子エキスなどの植物エキス、高麗人参エキスなどが入っています」 

その中でも、摂取しすぎると命に関わることもあるのが、「カフェイン」と「糖類」だ。

「カフェインは、過剰に摂取すると全身に指令を送っている中枢神経に作用して、心拍数や血圧の上昇、めまい、興奮、震え、下痢、吐き気、不安、不眠など、心身に異常が起こる可能性があります」 

お酒を飲む習慣がある人は、エナジードリンクの摂取によって悪い方向に働く場合がある。

「アルコールもエナジードリンクも飲みすぎると血圧を上昇させます。習慣的にエナジードリンクを飲んでいると、お酒を飲んだときにさらに血圧がグンと上がり、血管内に血栓(血の塊)があれば、それが詰まって心筋梗塞や脳梗塞を起こすリスクが高まります。 

特に生活習慣病予備軍を指摘されている人や、食生活が乱れていて血液がドロドロになっている人は、命に関わる危険性もあります」

残業をがんばるために夕方以降にエナジードリンクを飲むと、カフェインの影響が夜の就寝時まで続く。

「カフェインには覚醒効果があるため睡眠が浅くなり、朝起きたときに疲労感が残ります。だるさを紛らわすために翌日もエナジードリンクを飲むと、再び夜に眠りが浅くなり、どんどん不眠体質に。飲めば飲むほど疲れが蓄積します」

また、エナジードリンクは糖類が多く含まれていることから、血糖値が急上昇・急降下しやすく、肥満や糖尿病のリスクも上がる。特に夜遅い時間にドカ食いしてしまう、朝食を抜くといった乱れた食生活を送っていて、さらにエナジードリンクを飲む習慣があると、糖尿病になる可能性は高い。その他にも、糖類はさまざまな細胞に悪さを及ぼす。

「体の中で余った糖とたんぱく質が結びつくと、細胞がこげる『糖化』という現象が起こります。骨が糖化すれば骨粗鬆症になり、脳の細胞が糖化すれば認知症に。男性だとED(勃起不全)や薄毛・抜け毛といった髪の毛の老化も引き起こします」 

血糖値の乱高下で飲んで数時間で再びぐったり……

カフェインと糖類の影響はそれだけではない。依存性が高いことも挙げられる。カフェインは、「カフェイン中毒」という言葉もある通り、毎日飲み続けると飲まずにはいられなくなり、やめると震えや不安などの離脱症状があらわれる。

「コーヒーや緑茶、紅茶などにもカフェインが入っていますが、エナジードリンクのカフェインは、コーヒー豆や茶葉などの自然由来ではなく、人工的に作られたもの。しかも大量に添加されているので、飲み続ければ急激に依存性が高まると考えられます。 

エナジードリンクの糖類は『単糖類』といって、すばやく体に吸収されます。商品によって容量は違いますが、糖類が大量に入っているため飲むとすぐに血糖値が急上昇。それを下げようとしてすい臓からインスリンが分泌されると、今度は急降下して低血糖に。すると、体がだるいと感じて、また欲しくなるという依存パターンに陥ります」 

飲んだときはカフェインの覚醒効果と血糖値の上昇により一時的にシャキッとして目が覚める。でも数時間するとすぐに疲労感が出るのが、エナジードリンクを習慣的に飲んだ場合の特徴といえる。

また、「ゼロカロリー」「ゼロシュガー」など、“ゼロ”がついているなら大丈夫と思ってはいけない。

「栄養強調表示といって、飲料の場合、100mL当たり糖類が0.5g未満ならば『ゼロシュガー』、エネルギー5kcal未満ならば『ゼロカロリー』と表示することが可能です。完全に“ゼロ”ではないので、1日に何本も飲んだらカロリーや糖類の摂取量が増えます。 

ゼロシュガーであっても人工甘味料で甘さを出している場合もあり、生活習慣病リスクが高まる40歳以上の男性は、頻繁に飲むのはおすすめしません」 

1本で1日分の「糖類摂取量」を上回る場合も

栄養の観点から考えると、エナジードリンクを飲むなら、「多くても1日1本まで、毎日は飲まないでほしい」と篠原さんは話す。 

「カナダ保健省(HC)が発表している1日あたりのカフェイン摂取量は、成人の場合、400mgまでとされています(※1)。コーヒーだけならマグカップで1日3杯までが目安。エナジードリンクは、商品によって幅はありますが、多いものだと100mL中300mgのカフェインが含有されている商品もあります。 

また、世界保健機関(WHO)のガイドラインで推奨されている1日あたりの糖類摂取量は、料理で使う砂糖も含めて、25g(ティースプーン6杯分)程度とされています(※2)。 

代表的なエナジードリンクは、100mLあたり10g前後の糖類が含まれているものが多く、1本250mL以上の容量があれば1日分を簡単にオーバーしてしまいます。これらを考慮すると、多くても1日に1本までとしたほうが良いでしょう」 

商品によって成分や含有量が違うため、購入時には栄養成分表示の確認を。カフェインや糖類に依存して健康を害さないために、エナジードリンクの代わりになるお気に入りドリンクやおやつを見つけておくと安心だ。

「シャキッとしたいときには強めの無糖炭酸水、眠気を予防したいならブラックコーヒーや高カカオチョコレートの摂取がおすすめ。疲労感の軽減が目的なら、クエン酸たっぷりですばやくエネルギーになるフルーツ100%ジュースを。 

甘さが欲しい人は、飴を舐めながら炭酸水を飲んでみてください。飴1個のほうがエナジードリンクよりはるかに糖類の摂取は抑えられます」

「元気が欲しいから」といってエナジードリンクを気軽に手に取るのは、中年世代にとって病気リスクを高める行為そのものといえる。その場しのぎの人工的なエネルギーチャージをやめるだけで、いま感じている不調やだるさが軽減するかもしれない。

(※1)Health Canada Reminds Canadians to Manage Caffeine Consumption(2010)(※2)Guideline: sugars intake for adults and children

篠原絵里佳(しのはら・えりか) 管理栄養士。日本抗加齢医学会認定指導士。Health&Beautrition主宰。体の中から健康と美をつくる食生活を分かりやすく発信する。総合病院や腎臓・内科クリニックでチーム医療にまい進する中で、睡眠の重要性に気づき、睡眠改善インストラクター、睡眠健康指導士を取得。

取材・文:釼持陽子
編集・ライター。1983年、山形県生まれ。10年間、健康情報誌の編集部で月刊誌・Webメディアの編集に携わったのちフリーランスに。現在はヘルスケア・医療分野などを中心に、医師や専門家の取材、企画、執筆を行う。