「抗がん剤投与による脱毛の原因」はご存知ですか?脱毛がない人の特徴も医師が解説!

写真拡大 (全2枚)

抗がん剤投与による脱毛とは?Medical DOC監修医が、抗がん剤投与による脱毛の原因・脱毛がない人の特徴・脱毛はいつからいつまで続くか?・対処法などを解説します。

≫「化学療法と抗がん剤の違い」はご存知ですか?それぞれの副作用も医師が解説!

監修医師:
横田 小百合(医師)

旭川医科大学医学部卒業。
都内の大学病院・がんセンターにてがん治療と緩和ケア診療に従事。現在はがん専門病院にて緩和ケア診療を行っている。
保有資格:医師、がん治療認定医、総合内科専門医、日本緩和医療学会認定医

「抗がん剤」とは?

「抗がん剤」とは、がんの治療において、がん細胞が増えることを防ぐ治療薬のことです。直接的にがん細胞を攻撃する抗がん剤のことを殺細胞性抗がん薬といいます。抗がん剤は、転移がある場合、転移の可能性が考えられる場合、血液・リンパのがんのように広範囲に治療を行う必要がある場合に用います。殺細胞性抗がん薬は、がん以外の正常な人体細胞にも影響を与えてしまうため、治療中には骨髄抑制(白血球、血小板などの減少)、吐き気、口内炎、脱毛などの副作用が起こります。

抗がん剤投与による脱毛の原因

抗がん剤を使用することによって、脱毛が起こることがあります。この脱毛の原因について解説します。

抗がん剤による毛母細胞への影響

抗がん剤による脱毛は成長期脱毛の一つです。正常な体毛は「成長期」→「退行期」→「休止期」という毛周期を繰り返しています。体毛は、根っこにある毛母細胞の分裂により、成長します。抗がん剤により、毛母細胞が影響を受けると細胞の増殖が邪魔されてしまい、その結果成長期毛の脱毛が起こるのです。髪の毛は8~9割が細胞分裂の活発な「成長期」にあるため、体毛の中でも最も影響が受けやすく、脱毛が起こりやすいのです。
すべての抗がん剤で脱毛が起こるわけではありません。抗がん剤の種類や使用量、治療の組み合わせや患者さんの病状によっても脱毛の出やすさは異なります。また、抗がん剤を組み合わせることで脱毛が起こりやすくなることもあります。がんの部位や種類などにより、治療に使用する抗がん剤が異なるため、抗がん剤を使用する予定がある場合には、主治医に確認してみましょう。

間違った頭皮ケア

パーマやヘアカラー剤が頭皮についてしまうと皮膚にダメージを与え、治療中の脱毛の原因となり得ます。施術で皮膚に問題が生じたら皮膚科医に相談しましょう。また、治療中に育毛剤を使用することに脱毛予防効果はなく、逆に頭皮の血流を良くして毛根へ抗がん剤の作用が強く出る可能性があるため、脱毛の悪化やその後の発毛を遅らせる原因となります。治療終了後の育毛剤の使用であれば問題ありませんので、使用のタイミングに気をつけましょう。また、頭皮を清潔に保つことを怠ったり、髪の毛を強くこすったり、強く髪の毛をとかすと皮膚が傷つくことがあります。これらの間違ったケアは脱毛を増やしてしまう可能性があります。

抗がん剤投与による脱毛がない人の特徴

抗がん剤投与による脱毛は個人差が多いと言われています。抗がん剤投与による脱毛がない場合、しにくい場合というのはあるのかを解説します。

抗がん剤の種類

抗がん剤のすべてで脱毛が起こりやすいというわけではありません。生じやすい薬剤・生じにくい薬剤・ときに生じる薬剤など様々です。そのため、ひとくちに抗がん剤を使用しているといっても脱毛がなかったという人もいるかもしれません。また、がん治療は単剤でなく複数の薬剤を組み合わせて治療することも多く、一部同じ薬を使用していても、他の薬との組み合わせで脱毛の起こりやすさが変わります。同じがんでもタイミングによって異なる薬剤が使われることも多くあります。他の方と比較せず、主治医に自分の使用を予定している薬が脱毛しやすいかどうかを聞いてみましょう。脱毛の起こりにくい薬を選択できることもあります。もし自分の治療で脱毛が起こりやすいことがあらかじめわかった場合には、事前に準備をしておくと良いと思います。

頭皮を冷却する治療

抗がん剤を投与する前に頭皮を冷却する装置を使用することで、頭皮の血流を低下させて毛根に対する抗がん剤のダメージを少なくさせ、脱毛の予防と脱毛後の回復を早める効果が期待されます。副作用として、頭痛や寒気による不快感が起こることもあります。また、この治療は2024年春現在、保険適応されておらず、受けられる施設も多くありません。エビデンスがあり推奨されるのは乳がん患者さんです。この治療の適応があるか、治療中の施設で対応しているかなど主治医に相談をしてみましょう。

抗がん剤投与による脱毛はいつからいつまで続く?

抗がん剤による脱毛がいつから始まり、いつ終わるのかを解説します。時期については治療開始後1-3週間後より抜け始まることが多いです。そして、治療が終わると3-6か月後より毛が生え始め、約1年でほぼ脱毛前の状態に戻ります。しかし、髪質や色調などが一時的に変化し、生えてきた毛は脱毛前と異なることがあります。

抗がん剤投与による脱毛は抜けきるまでどれくらい?

脱毛の仕方は治療のペースによるため個人差があります。抗がん剤の投与が終了して2-3か月すると毛母細胞が回復し、髪の毛が再び生え始めます。脱毛を起こしやすい複数の薬剤を組み合わせた時、放射線治療を組み合わせたときには再発毛までの時間が長くなったり再発毛しにくくなることもあります。

抗がん剤投与で毛が抜け始めた際の対処法

脱毛前の準備

髪の毛が抜けることは、わかっていたとしても、やはりショックを受けるものです。
抗がん剤治療を決めた後に、実際に髪の毛が抜け始めるまで少し時間があります。その間に外見の変化に備えて準備をすることをお勧めします。
脱毛が起こった時のショックを減らすために、あらかじめ短く切っておく方が良いでしょう。髪の毛が長いと、脱毛が起こった時にとても毛量が多い様に感じることがあります。帽子やバンダナ、ウイッグなど自分が気に入るものを事前に準備することも良いでしょう。
また、眉毛も抜けてしまうこともあります。すべて抜けてしまうと眉毛を書くのが非常に難しいので、事前に現在の眉毛の写真を撮っておいて参考にすると良いでしょう。
パーマ液やヘアカラー剤は頭皮や毛根にダメージを与えたり、皮膚炎や脱毛の原因となる可能性があります。このため、治療の直前には、パーマやヘアカラー剤を使用しないようにしましょう。

脱毛中の頭皮ケア

抗がん剤治療中は、頭皮のダメージを防ぐために以下のことに気をつけましょう。

・抜け始めの対処法として、髪の毛が中途半端に抜けてしまったとしても、無理に抜くことはやめましょう。無理に抜いて毛根が傷つくと、発毛が遅れる場合があります。

・頭皮を清潔に保ちましょう。髪の毛の量が減っても、頭皮は汚れます。入浴の際に頭皮や髪の毛を洗い清潔な状態を保ちましょう。特別刺激の少ないシャンプーに変更する必要はありません。

・洗髪後は吸水性の良いタオルで優しく水分を吸い取るようにしましょう。また、ドライヤーを使用する場合には低温で優しく乾かしましょう。

・髪の毛が絡まると、抜け毛が多くなる可能性があります。目の粗いくしを使用して、優しくブラッシングしましょう。

・脱毛したからといって、治療中に頭皮マッサージや育毛剤の使用はしないようにしましょう。マッサージや育毛剤の使用により血行が促進されると、抗がん剤の影響が強く出てしまうことがあります。抗がん剤の使用が終了した後にマッサージや育毛剤の使用を考えましょう。

帽子、ウイッグなどの使用

医療用のウイッグやお気に入りの帽子、バンダナなどを使用して気持ちを明るくすることも良いでしょう。医療用ウイッグは、脱毛をカバーする目的で着用するかつらのことです。頭皮がデリケートな時期でも使用可能な安心できる品質を持ったものを購入しましょう。いろいろな種類があるため、治療先の医療機関で相談をしてみてください。また、市町村によっては、ウイッグ購入費用に対して助成制度を使用できることもありますので自治体に相談をしてみましょう。
また、眉毛が薄くなったり、抜けてしまったりすることもあります。サングラスや眼鏡などをかけると目立たないです。また、鼻毛やまつ毛がなくなることもあります。ごみやほこりが鼻や目に入ってくるのを防ぐのに、マスクや眼鏡が有効なことがあります。

「抗がん剤の脱毛」についてよくある質問

ここまで抗がん剤の脱毛などを紹介しました。ここでは「抗がん剤の脱毛」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

抗がん剤で抜けた毛は再度生えてきますか?

浅野 智子 医師

個人差はありますが、抗がん剤治療が終了した後、3~6か月後から発毛が始まり、半年から1年程度で脱毛前の状態に戻る方が多いです。髪質・色調は一時的に変わってしまうこともありますが、しばらくすると元に戻ることも多いです。

まとめ抗がん剤による脱毛は事前の準備を!

男性でも女性でも髪の毛が抜けてしまうことは、わかっていてもショックが大きい出来事です。抗がん剤治療を受けた人の苦痛の種類の中でも特に大きいというデータもあります。抜けてしまったら二度と生えてこないのではないかと心配になる方も多いようですが、そのようなことはまれなので安心してください。自分の使用する予定の抗がん剤で脱毛が起こる頻度を事前に聞いておくことは、今後の準備をするためにも役に立ちます。抗がん剤を投与した後1―3週で脱毛が始まるため、その前にヘアカット、帽子やウイッグなど快適に過ごす準備をすることも可能です。
治療中は不安が尽きないものです。治療予定の病院で不安な点などを聞きながら、少しでも心穏やかに過ごせるといいですね。

「抗がん剤の脱毛」と関連する病気

「抗がん剤の脱毛」と関連する病気は8個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

皮膚科の病気

円形脱毛症頭部白癬

男性型脱毛症

女性型脱毛症

内分泌系の病気

甲状腺機能低下症

副腎皮質機能不全症

内科の病気

亜鉛欠乏症

過度のダイエット

脱毛を起こす疾患や状態はさまざまです。脱毛が起こった時には、何が原因となっているか、まず皮膚科を受診して調べましょう。抗がん剤を使用しているとき、脱毛の原因は抗がん剤による副作用と考えられます。治療終了後に3~6か月で発毛することが多いです。脱毛が心配になった時には、まず主治医に相談しましょう。

「抗がん剤の脱毛」と関連する症状

「抗がん剤の脱毛」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

白血球減少

血小板減少・出血

口内炎

嘔気

下痢

抗がん剤による副作用はさまざまな形で起こります。抗がん剤によるこれらの症状があった場合には、我慢せずに主治医へ相談しましょう。症状を軽減する対策や薬などを使うことで、副作用が軽くなることもあります。

参考文献

脱毛もっと詳しく(がん情報サービス)

患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版(日本乳がん学会)