「甲状腺の血液検査」でわかる病気は?数値の見方や費用も医師が徹底解説!

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甲状腺の血液検査とは?Medical DOC監修医が甲状腺ホルモンなどの検査項目や検査結果の数値が高い時に疑われる病気と対策などを詳しく解説します。

≫女性に多い「バセドウ病」「橋本病」を見分ける方法とは? 症状の特徴を医師が解説

監修医師:
伊藤 陽子(医師)

浜松医科大学医学部卒業。腎臓・高血圧内科を専門とし、病院勤務を経て2019年中央林間さくら内科開業。相談しやすいクリニックを目指し、生活習慣病、腎臓病を中心に診療を行っている。医学博士、産業医、日本内科学会総合内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本医師会認定産業医、公認心理師。

甲状腺の血液検査とは?

甲状腺はホルモンを産生・分泌する働きを持つ臓器で、全身の代謝に関わって様々な働きを担っています。甲状腺の血液検査で何がわかるのでしょうか。何科で行うのか、甲状腺の血液検査の具体的な項目や結果の解釈、異常の際に考えられる病気などをご紹介します。

甲状腺とは?

甲状腺は喉元・喉仏の下くらいにある蝶のような形の小さな臓器です。ホルモンを産生・分泌する働きを持っています。
甲状腺は昆布などの海藻に多く含まれるヨードを取り込み、甲状腺ホルモンを合成、分泌します。甲状腺ホルモンは全身の新陳代謝に関係するホルモンで、通常はバランスが保たれていますが、これは脳下垂体より分泌されている甲状腺刺激ホルモン(TSH)により調整されているからです。しかし、このバランスが崩れると甲状腺ホルモンが過剰または不足となり、身体に症状が現れることがあります。

甲状腺の血液検査項目は?(FT3/FT4/TSHなど)

甲状腺に関わる血液項目は、主に甲状腺ホルモン(FT3、FT4)と、と甲状腺刺激ホルモン(TSH)です。必要と判断された場合、バセドウ病、橋本病などの鑑別をするために甲状腺に関わる抗体(抗甲状腺レセプター抗体(TRAb)、抗サイログロブリン抗体(TgAb)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)など)を追加で検査することがあります。
採血によって採取された血液を分析して、各項目を調べます。検査結果が分かるまでの日数は医療機関によって異なり、即日~数日と様々です。詳しくは受診時に確認をしましょう。
これらの項目を調べることで、甲状腺の機能に異常がないか(亢進、低下していないか)、免疫反応に異常がないかを確認できます。

甲状腺の血液検査の費用は?

甲状腺の血液検査料金は、FT3、FT4、TSHなどのホルモンを調べた場合、3割負担の保険診療として3,000円程度です。ホルモン以外の項目も検査すると費用は異なりますので、受診時にご確認ください。

甲状腺の血液検査は何科で受けられる?

内分泌内科をはじめとする内科で検査が可能です。もしお住まいの近くに甲状腺の専門病院や内分泌内科を持つ病院があれば、そちらを受診して頂くのもいいでしょう。どこで受けられるかわからなければ、かかりつけ医を受診して相談してみましょう。
健康診断や人間ドックなどでオプション検査として自費で追加が出来ることもあります。

甲状腺の血液検査前日や当日の注意点

検査項目によりますが、甲状腺に関わるホルモン値のみの血液検査では特に注意点はありません。前日飲酒なども制限がありませんが、一緒に検査をする他の検査項目によっては、前日や当日に注意しなければならない場合があります。必要な食事制限や服薬の中止などの注意点は担当医から説明を受けてください。

甲状腺血液検査の数値と再検査が必要な診断結果

ここまで甲状腺の血液検査について説明をしました。
再検査・精密検査を受診した方が良い結果がいくつかあります。
以下のような診断結果の場合にはすぐに病院に受診しましょう。

甲状腺の血液検査の数値の見方(基準値/異常値)

血液検査の数値は検査方法によって若干異なることがあり、基準値は医療機関ごとに設定されています。
一例として、基準値をご紹介します。
・FT3:1.68~3.67pg/mL
・FT4:0.70~1.48ng/dL
・TSH:0.35~4.94μIU/mL

それぞれのホルモンのバランスから結果を考えて、
・FT3、FT4が低値、TSHが高値の場合は甲状腺機能低下症
・FT3、FT4が高値、TSHが低値の場合は甲状腺中毒症(甲状腺機能亢進症)
が疑われ、さらに詳しい検査をして確定診断します。

甲状腺の血液検査結果に異常がある場合の再検査内容

甲状腺の血液検査に異常がある場合、さらに詳しく検査をします。再検査や精密検査の指示を受けた場合は、放置せずに医療機関を受診しましょう。
基本的な甲状腺ホルモン、TSH値に加えて詳細な血液検査を行います。また、エコーなどの画像検査で甲状腺の大きさや状態を確認します。
以下に、主な精密検査をご紹介します。

・血液検査
・TRAb:甲状腺刺激作用があり、バセドウ病で陽性となります。
・TPOAb、TgAb:甲状腺を攻撃する自己抗体です。慢性甲状腺炎(橋本病)で陽性となります。
・CRP:体内の炎症の有無を反映する蛋白です。亜急性甲状腺炎で高値となります。
・その他の検査
・エコー検査:甲状腺の大きさ、内部の炎症の有無、しこりなどができていないかなどを調べます。
・放射性ヨード摂取率:甲状腺の機能や、機能している部位を調べます。
・病理検査:甲状腺の細胞を調べ、悪性の細胞などの有無の存在を確認します。

再検査や精密検査で診断がついたら、症状に合わせて治療が開始されます。主な治療法は以下の3種類です。
・内科的治療:薬を内服し、甲状腺ホルモンの合成・分泌を抑制したり、不足分を補ったりします。
・外科的治療:甲状腺の一部または全部を切除します。
・放射線治療:アイソトープ(放射性ヨウ素)のカプセルを内服することで甲状腺の細胞を壊し、甲状腺ホルモンの分泌量を抑制します。

甲状腺の血液検査で発見できる病気

ここではMedical DOC監修医が甲状腺の血液検査で発見できる病気・疾患について解説します。

バセドウ病

FT3、FT4が過剰に分泌されて発症する甲状腺中毒症の一種です。甲状腺中毒症の約80%と言われており、男女比は1:5で女性に多く、特に20~30代に多い疾患です。
甲状腺を刺激する抗体(TRAb)が体内で作られることにより甲状腺ホルモンが過剰に産生、分泌されます。
・イライラする
・熱がり、多汗
・動悸がする
・眠りが浅い
・目が大きくなった
・手指が震える
・心当たりがないのに体重が減る
といった症状が現れます。
FT3、FT4高値、TSH低値となった場合、TRAb、CRP、エコー検査などを追加で行い診断します。治療は抗甲状腺薬を内服することが第一選択です。しかし、副作用などで抗甲状腺薬が使用できなかったリ、治療経過が長くかかる場合に手術療法や放射線治療を検討します。
これらの症状に当てはまる場合は、お近くの内分泌内科を始めとする内科の受診をご検討ください。

橋本病

慢性甲状腺炎とも呼ばれる病気で、甲状腺機能低下症の一種です。成人の甲状腺機能低下症では、ほとんどが橋本病であり、男女比は1:20と女性に多い病気です。甲状腺を障害する抗体によって甲状腺が段々破壊される自己免疫疾患で、関節リウマチなど他の自己免疫を合併することもよくあります。橋本病のうち4~5人に1人は、甲状腺ホルモンが低下してしまい、
・やる気が出ない
・疲れやすい
・便秘気味である
・月経不順
・髪が抜ける
・心当たりがないのに体重が減る
・爪が割れやすい
・貧血
といった症状が現れます。
FT3、FT4低値、TSH高値となった場合、TgAbやTPOAbなどを追加で行って診断されますが、主に薬を飲んで不足している甲状腺ホルモンを補う治療が行われます。これらの症状に当てはまる場合は、お近くの内分泌内科を始めとする内科の受診をご検討ください。

甲状腺腫瘍

甲状腺に出来たしこりのことで、良性と悪性があり、多くは原因不明ですが、悪性のごく一部は遺伝すると知られています。また、女性ホルモンと甲状腺がんの関連が示唆されていますが、まだはっきりしていません。
主に、
・良性:嚢胞、濾胞腺腫、腺腫様甲状腺腫、など
・悪性:乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、低分化癌、未分化癌、悪性リンパ腫など
が挙げられます。
甲状腺の腫れを指摘された場合、エコー検査や甲状腺機能検査を行います。悪性が疑われる場合には、追加で腫瘍に細い針で刺して細胞を取り病理検査を行うことがあります。
悪性の場合は基本的に手術で摘出して治療しますが、手術の前後でホルモン療法や放射線療法を行うこともあります。良性の場合は、大きくならない限りは経過観察となることが多いです。
・声のかすれ
・喉の違和感
・首の腫れ
といった症状がある場合は、お近くの内分泌内科を始めとする内科もしくは甲状腺外科の受診をご検討ください。

「甲状腺の血液検査」についてよくある質問

ここまで精密検査について紹介しました。ここでは「甲状腺の血液検査」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

甲状腺の血液検査では甲状腺ホルモンの量を調べるのですか?

伊藤 陽子(医師)

その通りです。甲状腺ホルモンの過不足を調べ、診断材料にします。また、甲状腺刺激ホルモン(TSH)も併せて測定し、評価をします。

甲状腺が腫れている時は、血液検査を受けに行った方が良いですか?

伊藤 陽子(医師)

甲状腺が腫れている場合には、採血で甲状腺ホルモンの測定を行うとともに、甲状腺エコー検査で腫瘍がないかを調べます。血液検査で甲状腺機能がどんな状態かにより治療方針が決まりますので、血液検査は受けた方が良いでしょう。また、甲状腺機能は問題がなくともエコー検査で悪性が疑われれば治療が必要となることもあります。まず内分泌内科を受診しましょう。

甲状腺の血液検査結果はいつ出ますか?

伊藤 陽子(医師)

受診した医療機関によって異なります。詳しくは受診時にご確認ください。

健康診断の血液検査で甲状腺の異常はわかりますか?

伊藤 陽子(医師)

通常の健康診断でコレステロール値や肝機能の異常を指摘されることもありますが、多くは健康診断の項目では甲状腺の異常がわかりません。健康診断の項目ではありませんが、甲状腺中毒症ではCK(クレアチニンキナーゼ)が低く、甲状腺機能低下症は高い傾向がありますが、この所見は他の病気の可能性もあり確定診断がつきません。気になる場合には、内科を受診して相談しましょう。

精神科で、甲状腺の血液検査をするのはどうしてですか?

伊藤 陽子(医師)

甲状腺の病気と精神疾患の鑑別のためです。甲状腺の病気では、うつ病や自律神経失調症、イライラ、眠りが浅い、といった症状が現れることがあります。いずれも精神科で治療する病気と間違われやすい症状で、甲状腺の病気に見られる特徴の1つと言えるでしょう。

甲状腺の血液検査はどれくらいの頻度で受けるのが良いですか?

伊藤 陽子(医師)

もし健康診断などで再検査や精密検査となった場合、医療機関を受診して担当医の指示に従ってください。無症状でも、半年や1年ごとに検査を勧められることもあります。治療が必要と診断された場合も、同じく担当医の指示に従ってください。

甲状腺の血液検査でFT4が高いとどんな病気の危険性がありますか?

伊藤 陽子(医師)

FT4が高値の場合、バセドウ病や亜急性甲状腺炎などの甲状腺中毒症が疑われます。甲状腺の血液検査では、通常FT4だけでなく、TSHやFT3の測定値も合わせて判断します。

まとめ 血液検査で甲状腺の病気リスクを早期発見

甲状腺の血液検査は主にT3、T4、TSHといった甲状腺に関わるホルモンを調べるもので、通常の健康診断では行われません。甲状腺機能亢進の場合はバセドウ病など、機能低下の場合は橋本病などが疑われます。どちらも全身に様々な症状が起こりますが、甲状腺の病気だと気が付かない可能性もありますので、もし気になる症状がある場合は1度医療機関の受診を検討してください。

「甲状腺の血液検査」の異常で考えられる病気

「甲状腺の血液検査」から医師が考えられる病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

内分泌系の病気

バセドウ病

橋本病(慢性甲状腺炎)

機能性甲状腺結節

亜急性甲状腺炎

無痛性甲状腺炎

甲状腺クリーゼ

「何となく体調が悪い」という場合は、一度甲状腺の病気を疑って医療機関を受診することをご検討ください。

参考文献

[国立がん研究センター中央病院]臨床検査科

臨床検査のガイドライン JSLM2018

[日本内分泌学会]一般の皆様へ 甲状腺腫瘍(良性・悪性)

[国立がん研究センター]女性関連要因と甲状腺がん罹患との関連について