(左から時計まわりに)マシンガンズの西堀 亮、滝沢秀一、ザ・パンチのノーパンチ松尾、パンチ浜崎

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(左から時計まわりに)マシンガンズの西堀 亮、滝沢秀一、ザ・パンチのノーパンチ松尾、パンチ浜崎

今年も熱戦が繰り広げられた新・漫才賞レース『THE SECOND』。昨年、安定感抜群の関西の劇場漫才師・ギャロップが王者になり、今年も、隙のない漫才を見せた関西出身のガクテンソクが優勝。

一方、準優勝は両大会とも、ショートネタブームでブレイクした後、鳴かず飛ばずでも舞台に立ち続けた東京のキャラ系漫才師だった。

【写真】初代と2代目準優勝コンビは1998年結成の同期だった!

■もしかして失格? 4分台だった3本目

ザ・パンチ、パンチ浜崎(以下、浜崎) 実は今年の『THE SECOND』の選考会で、ベスト32になったあたりから「マシンガンズさんっぽい」ってずっと言われてて。

ザ・パンチ、ノーパンチ松尾(以下、松尾) 言われてたね。

マシンガンズ・西堀(以下、西堀) 確かにネタ中、こんなに客や演者に話しかける漫才師、俺らのほかにいないよな(笑)。

浜崎 いないですね(笑)。僕ら、テレビ放送されたグランプリファイナル1回戦の出順が8組目だったんですけど、ほかのネタを見て「やった! 前7組はMCの東野(幸治)さんとかに話しかけてない!」って確認して、思いっきり話しかけにいきましたもん。

松尾 マシンガンズさんが僕らの前にいたらできなかったですね。話しかけるのは、僕らが作品を見せてるわけじゃなくて、見に来てくれた人を楽しませたいからなんです。


2024 決勝戦。ザ・パンチは、予選のノックアウトステージで東京ダイナマイトとかもめんたるを破りグランプリファイナル進出。1回戦でタイムマシーン3号、準決勝でタモンズをそれぞれ制すも、決勝でグランプリファイナル内最低得点の243点を出し、逆に最高得点の294点を出したガクテンソクに敗れた ©フジテレビ

マシンガンズ・滝沢(以下、滝沢) そう! わかる!

西堀 本当は正面から戦うのが美学としてはカッコいいじゃない。ネタのクオリティとか。でも、われわれの戦い方は常に奇襲だよね。夜、背後から「うわあー!」って(笑)。

滝沢 真正面からだとやられちゃうから(笑)。

松尾 あと、なるべく観客と目を合わせますよね。これね、一生懸命しゃべるおじさんと目が合ったら、笑わないと気まずいんですよ。

滝沢 やるやる。笑わざるをえない空気にするよね。

浜崎 マシンガンズさんが予選でMCのギャロップとかトレンディエンジェルに話しかけてたの、「MCが笑ってるほうがお客さんも笑う」っていうの込みでやってましたよね?


パンチ浜崎 1981年生まれ、東京都出身。趣味はラップ、酒、中国古代史。かつての衣装は上下紫色だった

西堀 うん。あと時間も潰せるしね。

松尾 「潰せる」って言っちゃった(笑)。本来は用意してきたものをやる時間なのに。

西堀 でも、6分のうち4分は決めてたよ。残りの2分は余談でって。

松尾 あー、僕らもだいたい一緒です。でも、準決勝で浜崎さんの体力が完全に切れちゃって「3本目はとにかく噛まないようにだけやるわ」って。その結果4分台で帰ってきましたから。


ノーパンチ松尾 1980年生まれ、東京都出身。趣味はスポーツ観戦、ゲーム、サッカー

滝沢 4分!? 4分台って失格なんじゃないの?(笑)

浜崎 もしかしたら準優勝じゃなくてビリかも(笑)。

西堀 俺らもそうだったけどさ、3本目で客が"急に気づく感じ"に腹立たなかった? それまで持ち上げて持ち上げて決勝まで行かせて、「......あ、これ漫才じゃないわ」って急にはしご外すの。

浜崎 3本目、「お客さん入れ替わった!?」ってぐらい落差ありました(苦笑)。

松尾 それでお互いちゃんと決勝でボロカスやられてね。

浜崎 だから、僕はおふたりを「準優勝兄さん」、略して「準兄」と呼んでいきます。

西堀 「準」つけるなよ!(笑)

■決勝まで一度もネタ合わせナシ

松尾 ちなみに去年の大会は自信あったんですか?

西堀 アイドルじゃないけど、そもそもマネジャーが勝手に応募したの。

松尾 え、出るつもりなかったんですか?

西堀 そう。しかも、俺が副鼻腔炎の手術する日と予選がかぶってたから、「滝沢悪いね、今回」って言ってたんだよ。

松尾 滝沢さんは「ふざけんなよ!」って?

滝沢 ううん。むしろ、休みができてうれしいなって。

西堀 でも前日に手術日をズラせますってなって、仕方なく「じゃあ行くか......」って。

滝沢 そういえば去年の予選って平日の独特な空気の会場で、来場者も少ないから客イジりもあんまりできなかったんだよね。


2023 決勝戦。昨年、マシンガンズは予選のノックアウトステージで今年の王者・ガクテンソクとランジャタイを倒してグランプリファイナル進出を決めた。その後、金属バットと三四郎を破るも、決勝に進むことを想定しておらずネタが尽き、グランプリファイナル内で最低得点を出してギャロップに敗れた ©フジテレビ

浜崎 同じ回に出てました! ちょっと難しめの営業みたいな雰囲気でしたよね。

西堀 そうそう。けど、ほかに客をイジったりする芸人がいなくて通っちゃって。

浜崎 去年の予選でも僕ら4分半で降りてきちゃったんです。時間を計らないで出て。

松尾 そしたら、「マシンガンズとザ・パンチはウケてた。ただ、マシンガンズのほうが抜けてたかな」みたいに言われて。結果、その回はマシンガンズさん以外全員落ちて。

西堀 っていうか、去年も時間で落ちたんだ(笑)。でもさ、32組に勝ち進んだらいきなりガクテンソクだよ。そこで負けると思ってやったら、なんか勝っちゃって。次がランジャタイってときにはさすがに事務所を含め皆で諦めたの。

浜崎 「事務所を挙げて応援する」は聞いたことあるけど、諦めたんですか(笑)。

西堀 「太田プロにはまだタイムマシーン3号がいる」みたいなのもあってさ。そしたら、ランジャタイにも勝っちゃってね。


西堀 亮 1974年生まれ、北海道出身。2023年、発明した「静音?くつ丸洗い洗濯ネット」が発売された

松尾 それでグランプリファイナルに行って、金属(バット)と三四郎にも勝って?

西堀 そう。ちなみに俺たち予選から一回もネタ合わせしてなかったの(笑)。

松尾 正直、僕ももうネタ合わせできないんですよ。でも今回、浜崎さんが「時間を計ろう」って言うから、一応やってみたんです。

でも途中で「あれ、いつも俺ここでなんて言ってた?」となって。台本もないから確認のしようもなくて、何度かやってるうちに「イヤだ、もうやんない!」って途中でやめちゃいました。

西堀 イメージ逆だよね。松尾くんのほうがすごいシビアに考えてると思ったら。

松尾 相方のほうが心配性ですね。ちゃんと覚えてやりたいタイプというか。

浜崎 だって制限時間を超えて減点になるのイヤだもん。

滝沢 むしろ短くなっちゃってんじゃん(笑)。


滝沢秀一 1976年生まれ、東京都出身。2012年から芸人と並行してゴミ収集会社に就職

■ブームに乗るも最後尾、ジワジワと減った収入

――ふた組が初めて出会ったのはいつ頃ですか?

松尾 ちゃんと認識したのは『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ)ですよね。

滝沢 その頃、たまたま同じ飲み屋の別卓で飲んでたら「全部払っときました」って松尾がおごってくれたんですよ。

松尾 それ、覚えてないんですよね。たぶん僕と一緒にいた誰かが「マシンガンズは後輩ですよ」とか言い出したから払ったんでしょうね。

西堀 でも、ふたを開けたら同期だったっていう。

松尾 今年、僕らが44歳の年なので、年齢はマシンガンズさんのほうが上ですよね。

西堀 今年、俺50(笑)。

滝沢 俺は48(笑)。

浜崎 それもあるから準兄がしっくりくるんです(笑)。

松尾 ふた組ともショートネタブームには乗れたけど、先頭集団ではなかったよね。当時、スケジュールによく知らない深夜番組が入ってて「どんな番組?」って聞くと、ジョイマン、はんにゃ、フルーツポンチ、しずるとか、いわゆるAグループが「それ2週間前に出ました!」って言ってさ。

家に帰ってテレビつけたらナイツやオードリーも出てて「やっぱ俺たちは最後尾か......」みたいな。

西堀 あったよね、階級が。「人気者」「真ん中」「下」っていう3段階だったら、マシンガンズは下だった。

浜崎 僕らもです。気づいたら『レッドカーペット』の人気者たちだけで、『爆笑レッドシアター』(フジテレビ)に出てるっていう。

西堀 あれに入れなかった時点でもう負けてるもん(笑)。

――とはいえ、当時は収入もグッと上がったのでは?

滝沢 確か俺らの最高月収が70万円ぐらい。

浜崎 僕らも一番いいときで3桁いかないぐらい。でも、劇場はもちろん、CMにも出て400日ぐらい休みなかった時期ですよ?

滝沢 1年以上じゃん!

西堀 太田プロは劇場がないから営業のギャラが大事でさ。芸歴に合わせて単価が上がっても、稼働が減ることで、ちょっとずつ収入は下がっていくの。それで気づくと息苦しくなってる。真綿で首を絞められるように。変に時間もできるから、いろいろ考えてよけい苦しくなるんだよね。

浜崎 わかります。準兄さん、やっぱり僕ら全部似てます!

西堀 別々の道だけど、見えてる景色は同じっていう(笑)。

浜崎 僕らも『レッドカーペット』が終わったら、劇場も営業も全然でしたから。

松尾 コロナの時期が一番厳しかった。後輩に紹介してもらってバイトもしてましたよ。

浜崎 僕はその頃、嫁がライブ配信でスナックのママを始めて(笑)。僕は雇われマスターみたいな感じで手伝わせてもらって生活してました。

■過酷な環境が生んだ芸風

――今の芸風はいつ頃から確立されたと思いますか?

松尾 ショートネタブームが終わって劇場の仕事だけになると、スベれないから新ネタをやるよりも今あるネタを改善するほうが重要になってくるんですよ。

新ネタに挑戦してスベったりして、そんなとこを劇場のスタッフさんに見られたら劇場の仕事が減っちゃうので。それで、ゆっくりゆっくり変わっていって、今の感じになった気がします。

西堀 賞レースもなかったし、正直、目標がなかったじゃん。だからライブでも営業でも、目の前の人を笑わせるしかやることがなかったんだよね。ていうか、よくザ・パンチみたいな芸人が吉本から出たよね。基本は劇場がメインだから、決まった時間にルーティンでやるわけじゃない?

浜崎 確かに周りはカチッとした人が多いですね。それでいうと僕らは賞レースとかで結果が残せなかったから腰が低い芸風になった気がします。劇場だと忙しい売れっコたちが先に出て「時間に都合がつくし芸歴は長いから」って理由でトリが僕らだったりするんです。そんなの「すいませぇ〜ん」ってなる(苦笑)。

松尾 誰かが飛行機の都合とかで急遽出られないってなったときに、なぜか絶対俺たちに連絡が来るんです。「30分後に出られますか!?」みたいな。

そうすると「本日の出演者はタカアンドトシよりザ・パンチに変更になりました」みたいなことになるから、もう心から「すいませぇ〜ん」ってなります(苦笑)。

西堀 過酷な環境が芸風を作ったんだ(笑)。俺たちは同じことやっていても、年取って許されるようになってきた気がする。最初にテレビに出たのが30歳とかだから、「バカ野郎!」って言うとちょっと嫌が出るんだよね。

浜崎・松尾 なるほど〜!

西堀 でも、年取った人が「バカ野郎!」って言ってても、「なんかおじさんが言ってるけどほっとけばいいか」ってなるんだよね(笑)。

滝沢 逆に"おじさん"ってくくりに入ってしんどかったこともある。さっきまで若手のネタで盛り上がってた客が、俺たちの出番になった瞬間にシーンって......(苦笑)。

松尾 明らかにお客さんから「あなたはもう老害なんです!」って圧を感じる時期ありますよね(苦笑)。ただ、どういうわけか1回それを超える時機が来る。僕らふた組は、そのタイミングと『THE SECOND』がちょうど重なった気がします。

■仕事量と収入が100倍増に。実力不足も悔いはない

松尾 ちなみに去年の大会が終わってから、ガツンと仕事は増えたんですか?

西堀 100倍になったよ。

松尾 100倍!? それは仕事量が? それとも収入が?

西堀 どっちもだね。

松尾 えぇ〜!? すごいな。

浜崎 夢がある......。

西堀 去年優勝したギャロップが大阪で活動してるからさ。本来チャンピオンのやるべき仕事が僕らにこぼれてきたのが大きいよね。

浜崎 なんとかガクテンソクを国分寺から追い出さないと!

松尾 大阪戻らねぇかな〜、アイツら!

――どちらもあと一歩でしたが、優勝するためには何が足りなかったと思いますか?

松尾 これ言っていいのかな......。実力じゃないですか?

浜崎 うん。ガクテンソクのほうが実力が上だった。

西堀 いや、本当そうなんだよな。悔いはないよな?

浜崎 まったくないです。やり切ったというのがあるから。

滝沢 準優勝がちょうどいいよ。

松尾 僕ら、2008年に『M−1』の決勝に行ってて、今年『THE SECOND』に出て思ったんですけど、27年で2回目のチャンスって少なすぎるだろ......!

西堀 13年に1回(笑)。本当に奇跡みたいなもんだよ、こうやって対談してるのも。ファインプレーだよ。あれだけの芸人が出て準優勝したんだから、俺らにしたら立派だって。優勝みてぇなもんだよ。

●ザ・パンチ(THE PUNCH)
パンチ浜崎(ボケ)・ノーパンチ松尾(ツッコミ)のコンビ。東京都立小平高等学校の同級生で、在学中の1998年に結成。2003年、浜崎が髪型をパンチパーマにしたのをきっかけにコンビ名をそれまでの「パラメ」から「ザ・パンチ」に。2008年に『M-1グランプリ』決勝進出。『爆笑レッドカーペット』のキャッチコピーは「哀愁のなげき節」、『エンタの神様』のキャッチコピーは「笑撃のボディーブロー」

●マシンガンズ(MACHINE GUNS)
1998年に滝沢秀一・西堀 亮でコンビ結成。2007年、08年に『M-1グランプリ』で準決勝に進出。『THE MANZAI』では12年、14年に認定漫才師50組に選ばれた。昨年に行なわれた『THE SECOND』で準優勝を収める。『爆笑レッドカーペット』のキャッチコピーは「ヒガミの弾丸」、『エンタの神様』のキャッチコピーは「乱れ撃ちの連射砲」

取材・文/鈴木 旭 撮影/鈴木大喜