第二次大戦期に活躍したイタリア空軍の傑作戦闘機を作る!【達人のプラモ術<マッキ MC.202フォルゴーレ>】
【達人のプラモ術】
イタレリ
「1/32 イタリア空軍 マッキ MC.202フォルゴーレ」
01/06
■イタリア空軍創立100周年!イタレリの本気を感じるビッグスケールキット!
さて今回の『達人のプラモ術』は、今年2月にイタリアの老舗模型メーカー・イタレリから発売された「1/32 マッキ MC.202フォルゴーレ」を製作します。マッキ MC.202は第二次大戦末期にイタリア空軍で活躍した傑作戦闘機で、プラモデルとしても人気があり、イタレリをはじめ国内外のメーカーから様々なスケールでキット化されています。そして今年2024年はイタリア空軍の創立100周年にあたるんですね。
▲イタレリ(プラッツ扱い)「1/32 イタリア空軍 マッキ MC.202フォルゴーレ(日本語対訳補足説明書付属)」(1万7380円/2024年2月発売)
MC.202フォルゴーレ、1/32スケールでは初のキット化ですが、自国の戦闘機ということもあってイタレリの本気度が感じられる構成になっています。機体に搭載されていたDB601エンジンは配管類をビニールパイプで再現。自重変形タイヤ。コクピットのメーター類は立体感あふれる3Dデカールが奢られており、細部ディテールにはエッチングパーツが付属。ラダー、エルロン等動翼は可動。フラップは開閉選択式となっています。
そして何より本キット最大の特徴は、塗装では再現が難しいイタリア機の特徴的な迷彩パターンを、付属の大判デカールで再現可能としている点です。さらにプラッツ版では日本語対訳補足説明書が付属しているのもポイント高いです。(全6回の1回目)
長谷川迷人|東京都出身。モーターサイクル専門誌や一般趣味雑誌、模型誌の編集者を経て、模型製作のプロフェッショナルへ。プラモデル製作講座の講師を務めるほか、雑誌やメディア向けの作例製作や原稿執筆を手がける。趣味はバイクとプラモデル作りという根っからの模型人。YouTube「
モデルアート公式チャンネル」などでもレビューを配信中。
■イタリアの傑作戦闘機とは?
日本海軍の零戦、ドイツ空軍のメッサーシュミットBF-109、アメリカのP-51マスタング、英国空軍のスピットファイア等々、第二次大戦では各国がそれぞれ優秀な戦闘機を開発していました。それぞれの機体はプラモデルでもお馴染みですよね。
では当時のイタリア空軍で活躍した戦闘機と言えばなんでしょう? イタリアは日本、ドイツと同盟関係にあった枢軸国の一員でしたから、英国やアメリカ空軍の戦闘機と戦っていました。
大戦初期にイタリア空軍で活躍していた主力戦闘機といえばマッキ MC.200サエッタですが、7.7ミリ機銃×2丁のみという軽武装、さらには空気抵抗を減らすために採用した風防に「空気が感じられない」という前時代的なパイロット達の反発を受け、先祖返り的な開放操縦席を採用したことで最高速度も500km/h程度にとどまり、性能的にはイマイチでした。
さすがにこれじゃ勝てないということで、紆余曲折。新型戦闘機の開発に着手するワケですが、当時のイタリアには高性能戦闘機開発に必要不可欠な大馬力エンジンがありませんでした。
そこで同盟国のドイツのダイムラーベンツから、メッサーシュミットに搭載されていたDB.601エンジン(水冷倒立V型12気筒、1100馬力。アルファロメオがライセンス生産)を導入。新たに開発された機体がMC.202フォルゴーレです(Folgore:イタリア語でフォルゴーレは電光、雷の意。アメリカ機ならサンダーボルト、日本機ならば雷電といったところ)。
設計はサエッタの設計も担当したマリオ・カストルディ技師で、基本設計はサエッタと同じだったのですが、DB.601エンジンに合わせて機体を再設計し、胴体は60cmほど延長。いかにも空気抵抗が少なそうなファストバックタイプのキャノピーを採用しています。
設計者にして見ればサエッタの恨みがあったんじゃないかなぁと思います。
搭載されたDB601エンジンの効果は絶大で、最高速度は一気に600km/hに。列強の戦闘機たちと同等の速度性能になり、運動性能も格段に向上しています。
残念なのが武装で、サエッタと同じ12.7mm機関銃2挺に加えて、主翼に7.7mm機銃2挺が追加されたのみで、当時列強の戦闘機に20ミリ砲が広く使われる中にあっては威力不足が否めませんでした。20ミリ機関砲の搭載も計画されましたが、機体が重くなり運動性が悪くなるという理由で不採用となっています。しかし基本設計が優秀だったこともあり、MC.202フォルゴーレは1951年まで使われています。
▲イタリア ミラノのレオナルド・ダ・ヴィンチ国立科学技術博物館に収蔵されているマッキ MC.202フォルゴーレ。ブレーダ社で製造された機体
■左右で長さの違う主翼?
MC.202の設計で面白いのが、左右で主翼の長さが違うこと(左翼が右翼に比べ20cm長い)です。これは同機以外でも戦前からイタリア機でしばしば用いられた手法で、プロペラの回転方向に生じるトルクモーメント(機体がプロペラの回転方向に傾く)を打ち消すためでした。
同様の対応策として、メッサーシュミットやアメリカのF4Uコルセアなどでは垂直尾翼が右側にオフセットされて取り付けられています。
模型的にも、機体を見ると確かに主翼の長さの違いが再現されており、面白いですね。
▲マッキ MC200 サエッタ。開放式コクピットが主流だった第一次大戦の戦闘機が持つ開放感から抜け出せなかった保守的なパイロットの「空気が感じられない、視界が悪い、狭くて息苦しい」という意見から、当初採用していた密閉式のキャノピーを、あえて空気抵抗の大きい開放式コクピットに改悪。武装も貧弱で英国空軍のハリケーンやスピットファイアには歯が立たなかった。
▲タミヤ・イタレリ「1/48 マッキMC200 サエッタ」(3300円)
■キットに関して
先にも書きましたが、マッキ MC.202フォルゴーレの1/32スケールとしては初のキット化です。近年の1/32大戦機モデルはフルディテールが多く、製作に手がかかるものが多いのですが、本キットはパーツ数も抑えられており、エンジン再現や3Dデカールを使った計器盤の再現などの新しい試みを盛り込みつつ、作りやすさを重視したキットとなっています。
フルディテールキットも魅了ですが、手軽に大スケールの飛行機モデルを楽しめる本キットはありがたいですね。
特に注目すべきは、イタリア機に多く見られる“スモークリングパターン”と呼ばれる特徴的なリング状の迷彩がデカールで再現されている点です。ベースとなる機体色を塗装して迷彩はデカールを貼っていけばOK! 塗らなくて良し! という構成になっています。
まぁ“スモークリングパターン”のデカールを90枚ほど貼る必要がありますが、エアブラシや筆塗りで描くことを考えれば、楽だと思います。もちろん塗装の腕に自信がある方は描いて貰って構いません(以前、1/48スケールのフォルゴーレでこの迷彩をエアブラシで描いたことがありますが正直大変でした)。
▲「マッキ MC.202フォルゴーレ」の完成モデル。エンジンカバーと機銃カバーは着脱可能となっている(画像はメーカー完成見本)
▲エンジンカバーを外せばアルファロメオがライセンス生産していたRC.41DB.601エンジンを見ることができる(画像はメーカー完成見本)
▲キットのパネルラインはやや太め
▲部分的に再現されているリベットは凹で表現されているが、かなりアッサリしているので、打ち直しが必要だ
▲キットに付属する3D印刷の計器盤デカール。立体感溢れるディテールとメーター類の指針もシャープに再現されている。3D印刷のデカールはディテールアップ用として社外品が発売されているが、高価なものが多いだけに、今回の付属デカールとしての採用には驚かされた。イタレリの本気が伺える
▲キットに付属のエッチングパーツ。ラジエーターのグリルや機体核の補強板などで使用。シャープなディテールの再現に使用する
▲インスト(組み立て説明書)は英語表記だが、今回、日本語対訳補足説明書が付属しているので、色名などが理解しやすい
▲カルトグラフ社製の高品質のデカールが付属。8種の機体マーキングが選べる。そのうち4タイプの“スモークリングパターン”迷彩を大判デカールで再現可能
▲これがスモークリングパターン迷彩のデカール
▲貼る位置は塗装図で細かく指定されている
▲マーキングは8種類の中から選べる。今回はスモークリングパターン迷彩のデカールを使いながら、派手目のマーキングの機体をチョイス
■水性塗料のVICカラーからイタリア空軍機用の限定色が発売中
英語表記のインストでは、日本ではなじみのないイタレリカラーで色指定がされているのですが、付属の日本語対訳補足説明書では「GSIクレオス・Mr.カラー」「GSIクレオス・水性カラー」「タミヤ水性アクリルカラー」の互換表が載っているので大変ありがたいです。
また今回、水性塗料のVICカラーからイタリア空軍機用の限定色が発売。調色しなくてもズバリMC.202フォルゴーレ機体色を再現できます。今回はこのVICカラーで塗装を進めていくつもりです。
▲今回発売されたVICカラー「イタリア空軍機用限定色」は、イタリア空軍機で使用された機体色3色に機体内部色を加えた4本1組で発売。価格は1320円。これとは別にMC.200サエッタなど大戦初期のイタリア機用カラーセットも発売されている。 ビーバーコーポレーション扱い
■製作開始!まずはエンジンから
製作はインストの指示の指示に沿ってエンジンから組んでいきます。
1/32スケールということもあり、機首に内蔵されたアルファロメオRC.41DB.601(ダイムラーベンツDB.601のライセンス生産エンジン)は、ディテールを追加せずともリアルに再現されています。
エンジンのパイプ類がビニールチューブで別パーツ化されており、さらにエッチングパーツを使うことで立体感のある仕上がりが得られるようになっています。
エンジンのパーツはフレームを含めて32個です(これにビニールチューブを使った配管が加わります)。
▲エンジンは少ないパーツながらRC.41DB.601をよく再現している
▲エンジンの補器類に繋がる配管がビニールパイプで再現されている
▲組み上げたエンジン本体と補器類。塗装の効率を図るため、同一色(黒)で塗装するパーツを極力組み上げておく。色が異なるパーツは、それぞれ単体で塗装してエンジン本体に取り付けていく
▲エンジン本体の塗装は半艶のブラックが指定されているが、Mr.フィニッシングサーフェイサーを黒塗料の替わりにしている(良いツヤに仕上がるので)
▲エンジン本体と補器類、ビニールチューブで再現されたホース類は個々に塗装。組み上げた後、ダークシルバーを使ったドライブラシでディテールを強調している
▲塗装したエンジンをタミヤスミ入れ塗料のダークブラウンを使いウォッシング。オイルの汚れを表現する。タミヤ「スミ入れ塗料 ダークブラウン」(440円)
▲スミ入れ塗料のダーウブラウンでのスミ入れが完了。エンジン本体が完成
実はマッキ MC.202フォルゴーレは好きな機体のひとつ。それだけに今回、1/32スケールでのキット化は製作意欲をそそります。
次回はエンジン製作と脚まわり、そしてコクピットの製作を進めていきます。お楽しみに!
>> [連載]達人のプラモ術
<製作・写真・文/長谷川迷人>
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