おおむね好評の『THE SECOND』優勝会見で新王者からこぼれた大会の課題とは
●優しさや温かさで『M-1』『KOC』と差別化も…
18日、結成16年目以上の漫才師による賞レース『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』(フジテレビ)が生放送され、結成19年目のガクテンソクが2代目王者となった。
放送中は関連ワードがX(Twitter)に多数ランクインしたほか、途中経過から最終結果まで速報記事が次々に報じられ、そのたびにコメント欄はにぎわい、その内容もおおむね好意的で「視聴者の反応は上々」というムードだった。また、視聴率は個人全体3.8%・世帯6.3%(ビデオリサーチ調べ・関東地区、以下同)を記録したが、これは「成功」と言っていいのだろうか。
「8組によるタイマン形式のトーナメント」「ネタ時間6分」「100人の一般人による審査」などの継続。さらに、ハイパーゼネラルマネージャーの有田哲平、スペシャルサポーターの博多華丸・大吉なども含め、『THE SECOND』という賞レースの現在地点と今後を、テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』2代目王者のガクテンソク
○芸人とお笑い通に向けた賞レース
2代目王者となったガクテンソクの漫才は、誰もが納得の結果だったのではないか。加えて、準優勝のザ・パンチはもちろん全8組の漫才師たちは、「16年以上、辞めていない」ベテランだけに、安心して見られるレベルがあったことは間違いないだろう。
この結果を受けて報じられたネット記事も、ほぼ称賛一色。「漫才師のすごみ」「苦悩の40代芸人に光を当てる」「東野幸治と有田哲平の共演が大成功」などと番組そのものをあらゆる角度から称えるような記事が多数報じられた。
確かに長年苦労を重ねているベテランたちは応援したくなるし、彼らの技術に加えて『M-1グランプリ』の4分、『キングオブコント』の5分より長い6分というネタ時間も見応えがある。実力がありながらくすぶり続け、解散も考えたというガクテンソクの優勝は感動的だった。他の賞レースでは付き物の審査に対するネガティブな声もさほど聞こえてこない。
それらの前提があってか、スタッフ、ゲスト、審査員、メディアのすべてが、番組と出場者たちを優しい目で見るようなムードがあふれていた。なかでもスタッフの芸人に対するリスペクトや愛情は視聴者にも伝わるほどであり、誰が勝っても誰が負けても画面から漂う温かいムードは不変。生放送の臨場感はあっても、戦いのムードやヒリヒリとした緊迫感は薄く、「その優しさや温かさが他の賞レースとは異なる長所なのだろう」と思わされた。
それは出場する側もしっかり感じていて、優勝会見でガクテンソクのよじょうは、『M-1グランプリ』との違いを聞かれて「ギスギスしていないというか……まあ語弊ありますけど」と笑わせている。
それは長所であり、『M-1グランプリ』や『キングオブコント』との差別化である一方で、見方を変えれば短所と言えるのかもしれない。
芸人へのリスペクトと愛情を前面に押し出した構成・演出は、「お笑い通の視聴者に響く」一方で「お笑いに対してフラットな一般層に響くか」と言えば疑問が残る。「コメント欄はおおむね好意的」「ネット記事は称賛一色」と前述したが、その内容を見れば、お笑い通の視聴者と書き手のものである様子がうかがえた。実際、お笑いにフラットな目線の一般層の反応は乏しく、まだ大衆的な話題には至っていない。
そう思いながら優勝会見を見ていたら、ガクテンソクの奥田修二が「『THE SECOND』はコアなお笑いファンとスタッフさんが大注目してくれるんで。『通な人に観ていただいているな』というのがうれしさ」と語っていた。
それは視聴率で、同じフジの漫才番組『THE MANZAI2023 マスターズ』(23年12月10日放送)の個人全体5.8%・世帯8.7%を大きく下回っているところにも表れている。
○1日・6分×3本は正統派に有利
そもそも100人の審査員はお笑い通であり、彼らは多くの芸人やネタを知っている。ネット上の声を見ていると、それらを知らない一般層と評価の差が見られたが、彼らはほとんど不満の声をあげなかった。
「不満の声をあげなかった」というより、一般層が気軽に声をあげにくいムードが大会全般にあるのだろう。一般層の人々もスタッフやお笑い通の審査員による優しく温かいムードが伝わっているから、否定的な声は挙げづらくなっているのではないか。やや厳しい言い方をすれば、芸人やお笑い通を優先するあまり、ここまでの2回は世間を置き去りにしているところがあったのかもしれない。
4時間10分の生放送も、その中で6分のネタを14本見せる構成も、芸人にとってうれしいものであるのと同時に、お笑い通でなければ見続けるのが難しい長さと量。“6分”と“トーナメント”にこだわるのなら、例えば「土曜に準々決勝のネタ8本、日曜に準決勝と決勝のネタ6本というように、高校野球のような形にしたほうが一般層には優しいのでは」と感じさせられた。
まだ発展途上な『THE SECOND』に対するネットメディアの偏りも気になったところの1つ。瞬発的に数字を狙う速報とお笑い通の書き手が熱量たっぷりに語る称賛記事が並び、「テレビのエンタメ番組としてどうか」「一般層の反応はどうか」などの大局的な視点のものは見当たらない。
このまま芸人とお笑い通に向けた大会の枠に留めていたら……王者のブレイクや大会の成長など、発展性が望みづらいのではないか。私自身も日頃ネタを見ているお笑い好きだが、どこか一般層への申し訳なさのようなものを勝手に感じながら見ていたのは確かだ。
ザ・パンチ
芸人側に目を向けると、準優勝のザ・パンチや昨年準優勝のマシンガンズのようなキャラとネタは1日2本程度が限界に見えるし、「1日・6分×3本で勝てる可能性が高いのはガクテンソクのような正統派」という点は、一般層ですら準決勝あたりで気づいていただろう。
お笑い好きの下馬評でも「本命・ガクテンソク、対抗・タイムマシーン3号とザ・パンチ」という声が多かっただけに、生放送でシナリオがない大会なのだが、昨年の結果も含めて「こういうコンビが優勝しそう」というイメージができる。それが長い目で見て良いことなのか。それとも、良くないことなのか。これから検証が必要だろう。
●審査員コメントでエンタメ性が低下
地上波のテレビ番組は今なお一般層にリアルタイムで見てもらわなければビジネスとして成立しづらいのだが、その点で『THE SECOND』は再検討が必要なところがいくつかある。
その筆頭は4時間10分という放送時間。近年の賞レースを見ていくと、『R-1グランプリ』が2時間〜2時間30分、『キングオブコント』と『女芸人No.1決定戦THE W』が3時間、『M-1グランプリ』が3時間40分であることから、突出して長いことが分かるだろう。今では絶対的な存在の『M-1グランプリ』もスタートから12年目までは2時間30分程度に留めており、人気が広く定着する前に長時間見てもらうことの難しさを物語っている。
そして視聴者側からネット上に多数書き込まれていたのは、「進行が遅い」「審査員のコメントが微妙」というニュアンスの指摘。つまり、「漫才以外の時間に不満がある」ということだろう。確かに『M-1グランプリ』や『キングオブコント』は、時に称賛や物議を醸す審査員のコメントがネタと並ぶ醍醐味の1つとなっているが、お笑い通とはいえ一般人にコメントさせる『THE SECOND』には、それがほとんどない。
一般人にトップ芸人並みのコメントを期待することも、生放送でリスクを負った発言をさせることも難しいのは当然だが、残念ながらエンタテインメントとしての密度は下がってしまう。その意味で、「お笑い通の一般人に偏っている審査員の構成に、有田や華丸・大吉などレジェンド級の芸人を加えてほしい」というコメントが散見されたのは当然かもしれない。いずれにしても、フラットな一般層も含め、審査員の構成は今後も固定せず議論を重ねていく必要性を感じさせられた。
さらにもう1つ気になったのが、ハイパーゼネラルマネージャーの有田哲平、スペシャルサポーターの博多華丸・大吉について。一般審査員のコメントが薄くなってしまう分、彼らにかかる期待は大きいのだが、時に笑いを交えてそつなくまとめていたのはさすがだった。ただ、称賛のみで敗因を指摘したり、改善点を提案したりなどの核心にふれるようなコメントがほとんどなかったのも事実だ。
『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』第2回大会のファイナリスト
○エンタメと権威につながる厳しさ
『M-1グランプリ』を国民的な賞レースに引き上げたのは、一夜にして人生が変わるサクセスストーリーであり、勝者と敗者の残酷なまでの明暗だった。その背景には審査員の厳しいコメントがあり、だからこそ勝者と敗者のコントラストが際立ち、エンタメ度が上がるという要素がある。
その点、『THE SECOND』は、もちろんベテラン芸人たちへのリスペクトは大切だが、彼らに寄り添いすぎるとテレビ局のお客さんである視聴者の心をつかみづらくなってしまう。制作サイドが時に構成・演出面で厳しさを見せるくらいのほうが、王者と大会の権威につながっていくのではないか。
また、今回も「芸人として死んでいた」「ただ続けていただけ」「後輩たちに追いつきたい」「解散しかけた」などの切実な出場者コメントがたびたびフィーチャーされたが、そんな“苦労”が前提の構成も『THE SECOND』の課題に見える。
“苦労”が前提の構成は、感動と興ざめの紙一重。素直に感情移入できる人はいいが、あおりVTRを畳みかけられて冷めてしまう人もいる。例えば、浪花節だけでなく、全力の戦闘モード、まったくの無欲、終始ふざけまくる出場者がいてもいいのではないか。大会のコンセプトとしては浪花節で押したくなるのはわかるが、もし制作サイドにそれを誘導するムードがあるとしたら、テレビマンの悪いクセなのかもしれない。
ともあれ、芸人とお笑い通の評判がよく、フジとしても貴重な賞レースである以上、第3回以降の開催は既定路線。『M-1グランプリ』や『キングオブコント』がそうだったように、続けながら試行錯誤し続けていくことが何より重要なことは間違いない。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら
18日、結成16年目以上の漫才師による賞レース『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』(フジテレビ)が生放送され、結成19年目のガクテンソクが2代目王者となった。
放送中は関連ワードがX(Twitter)に多数ランクインしたほか、途中経過から最終結果まで速報記事が次々に報じられ、そのたびにコメント欄はにぎわい、その内容もおおむね好意的で「視聴者の反応は上々」というムードだった。また、視聴率は個人全体3.8%・世帯6.3%(ビデオリサーチ調べ・関東地区、以下同)を記録したが、これは「成功」と言っていいのだろうか。
『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』2代目王者のガクテンソク
○芸人とお笑い通に向けた賞レース
2代目王者となったガクテンソクの漫才は、誰もが納得の結果だったのではないか。加えて、準優勝のザ・パンチはもちろん全8組の漫才師たちは、「16年以上、辞めていない」ベテランだけに、安心して見られるレベルがあったことは間違いないだろう。
この結果を受けて報じられたネット記事も、ほぼ称賛一色。「漫才師のすごみ」「苦悩の40代芸人に光を当てる」「東野幸治と有田哲平の共演が大成功」などと番組そのものをあらゆる角度から称えるような記事が多数報じられた。
確かに長年苦労を重ねているベテランたちは応援したくなるし、彼らの技術に加えて『M-1グランプリ』の4分、『キングオブコント』の5分より長い6分というネタ時間も見応えがある。実力がありながらくすぶり続け、解散も考えたというガクテンソクの優勝は感動的だった。他の賞レースでは付き物の審査に対するネガティブな声もさほど聞こえてこない。
それらの前提があってか、スタッフ、ゲスト、審査員、メディアのすべてが、番組と出場者たちを優しい目で見るようなムードがあふれていた。なかでもスタッフの芸人に対するリスペクトや愛情は視聴者にも伝わるほどであり、誰が勝っても誰が負けても画面から漂う温かいムードは不変。生放送の臨場感はあっても、戦いのムードやヒリヒリとした緊迫感は薄く、「その優しさや温かさが他の賞レースとは異なる長所なのだろう」と思わされた。
それは出場する側もしっかり感じていて、優勝会見でガクテンソクのよじょうは、『M-1グランプリ』との違いを聞かれて「ギスギスしていないというか……まあ語弊ありますけど」と笑わせている。
それは長所であり、『M-1グランプリ』や『キングオブコント』との差別化である一方で、見方を変えれば短所と言えるのかもしれない。
芸人へのリスペクトと愛情を前面に押し出した構成・演出は、「お笑い通の視聴者に響く」一方で「お笑いに対してフラットな一般層に響くか」と言えば疑問が残る。「コメント欄はおおむね好意的」「ネット記事は称賛一色」と前述したが、その内容を見れば、お笑い通の視聴者と書き手のものである様子がうかがえた。実際、お笑いにフラットな目線の一般層の反応は乏しく、まだ大衆的な話題には至っていない。
そう思いながら優勝会見を見ていたら、ガクテンソクの奥田修二が「『THE SECOND』はコアなお笑いファンとスタッフさんが大注目してくれるんで。『通な人に観ていただいているな』というのがうれしさ」と語っていた。
それは視聴率で、同じフジの漫才番組『THE MANZAI2023 マスターズ』(23年12月10日放送)の個人全体5.8%・世帯8.7%を大きく下回っているところにも表れている。
○1日・6分×3本は正統派に有利
そもそも100人の審査員はお笑い通であり、彼らは多くの芸人やネタを知っている。ネット上の声を見ていると、それらを知らない一般層と評価の差が見られたが、彼らはほとんど不満の声をあげなかった。
「不満の声をあげなかった」というより、一般層が気軽に声をあげにくいムードが大会全般にあるのだろう。一般層の人々もスタッフやお笑い通の審査員による優しく温かいムードが伝わっているから、否定的な声は挙げづらくなっているのではないか。やや厳しい言い方をすれば、芸人やお笑い通を優先するあまり、ここまでの2回は世間を置き去りにしているところがあったのかもしれない。
4時間10分の生放送も、その中で6分のネタを14本見せる構成も、芸人にとってうれしいものであるのと同時に、お笑い通でなければ見続けるのが難しい長さと量。“6分”と“トーナメント”にこだわるのなら、例えば「土曜に準々決勝のネタ8本、日曜に準決勝と決勝のネタ6本というように、高校野球のような形にしたほうが一般層には優しいのでは」と感じさせられた。
まだ発展途上な『THE SECOND』に対するネットメディアの偏りも気になったところの1つ。瞬発的に数字を狙う速報とお笑い通の書き手が熱量たっぷりに語る称賛記事が並び、「テレビのエンタメ番組としてどうか」「一般層の反応はどうか」などの大局的な視点のものは見当たらない。
このまま芸人とお笑い通に向けた大会の枠に留めていたら……王者のブレイクや大会の成長など、発展性が望みづらいのではないか。私自身も日頃ネタを見ているお笑い好きだが、どこか一般層への申し訳なさのようなものを勝手に感じながら見ていたのは確かだ。
ザ・パンチ
芸人側に目を向けると、準優勝のザ・パンチや昨年準優勝のマシンガンズのようなキャラとネタは1日2本程度が限界に見えるし、「1日・6分×3本で勝てる可能性が高いのはガクテンソクのような正統派」という点は、一般層ですら準決勝あたりで気づいていただろう。
お笑い好きの下馬評でも「本命・ガクテンソク、対抗・タイムマシーン3号とザ・パンチ」という声が多かっただけに、生放送でシナリオがない大会なのだが、昨年の結果も含めて「こういうコンビが優勝しそう」というイメージができる。それが長い目で見て良いことなのか。それとも、良くないことなのか。これから検証が必要だろう。
●審査員コメントでエンタメ性が低下
地上波のテレビ番組は今なお一般層にリアルタイムで見てもらわなければビジネスとして成立しづらいのだが、その点で『THE SECOND』は再検討が必要なところがいくつかある。
その筆頭は4時間10分という放送時間。近年の賞レースを見ていくと、『R-1グランプリ』が2時間〜2時間30分、『キングオブコント』と『女芸人No.1決定戦THE W』が3時間、『M-1グランプリ』が3時間40分であることから、突出して長いことが分かるだろう。今では絶対的な存在の『M-1グランプリ』もスタートから12年目までは2時間30分程度に留めており、人気が広く定着する前に長時間見てもらうことの難しさを物語っている。
そして視聴者側からネット上に多数書き込まれていたのは、「進行が遅い」「審査員のコメントが微妙」というニュアンスの指摘。つまり、「漫才以外の時間に不満がある」ということだろう。確かに『M-1グランプリ』や『キングオブコント』は、時に称賛や物議を醸す審査員のコメントがネタと並ぶ醍醐味の1つとなっているが、お笑い通とはいえ一般人にコメントさせる『THE SECOND』には、それがほとんどない。
一般人にトップ芸人並みのコメントを期待することも、生放送でリスクを負った発言をさせることも難しいのは当然だが、残念ながらエンタテインメントとしての密度は下がってしまう。その意味で、「お笑い通の一般人に偏っている審査員の構成に、有田や華丸・大吉などレジェンド級の芸人を加えてほしい」というコメントが散見されたのは当然かもしれない。いずれにしても、フラットな一般層も含め、審査員の構成は今後も固定せず議論を重ねていく必要性を感じさせられた。
さらにもう1つ気になったのが、ハイパーゼネラルマネージャーの有田哲平、スペシャルサポーターの博多華丸・大吉について。一般審査員のコメントが薄くなってしまう分、彼らにかかる期待は大きいのだが、時に笑いを交えてそつなくまとめていたのはさすがだった。ただ、称賛のみで敗因を指摘したり、改善点を提案したりなどの核心にふれるようなコメントがほとんどなかったのも事実だ。
『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』第2回大会のファイナリスト
○エンタメと権威につながる厳しさ
『M-1グランプリ』を国民的な賞レースに引き上げたのは、一夜にして人生が変わるサクセスストーリーであり、勝者と敗者の残酷なまでの明暗だった。その背景には審査員の厳しいコメントがあり、だからこそ勝者と敗者のコントラストが際立ち、エンタメ度が上がるという要素がある。
その点、『THE SECOND』は、もちろんベテラン芸人たちへのリスペクトは大切だが、彼らに寄り添いすぎるとテレビ局のお客さんである視聴者の心をつかみづらくなってしまう。制作サイドが時に構成・演出面で厳しさを見せるくらいのほうが、王者と大会の権威につながっていくのではないか。
また、今回も「芸人として死んでいた」「ただ続けていただけ」「後輩たちに追いつきたい」「解散しかけた」などの切実な出場者コメントがたびたびフィーチャーされたが、そんな“苦労”が前提の構成も『THE SECOND』の課題に見える。
“苦労”が前提の構成は、感動と興ざめの紙一重。素直に感情移入できる人はいいが、あおりVTRを畳みかけられて冷めてしまう人もいる。例えば、浪花節だけでなく、全力の戦闘モード、まったくの無欲、終始ふざけまくる出場者がいてもいいのではないか。大会のコンセプトとしては浪花節で押したくなるのはわかるが、もし制作サイドにそれを誘導するムードがあるとしたら、テレビマンの悪いクセなのかもしれない。
ともあれ、芸人とお笑い通の評判がよく、フジとしても貴重な賞レースである以上、第3回以降の開催は既定路線。『M-1グランプリ』や『キングオブコント』がそうだったように、続けながら試行錯誤し続けていくことが何より重要なことは間違いない。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら