脳に寄生虫が入り込んで頭痛やてんかんを引き起こす「神経嚢虫症」とは?
日本住血吸虫やエキノコックス症など、寄生虫による健康被害の種類は数多く存在します。その中でも神経嚢虫症(NCC)は脳に有鉤条虫が寄生することで生じる病です。海外メディアのThe Atlanticが、このNCCの恐ろしさについて解説しています。
Who Really Has Brain Worms? - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/health/archive/2024/05/robert-kennedy-brain-worms-neurocysticercosis/678331/
NCCを引き起こすサナダムシの一種である有鉤条虫は通常、ブタやイノシシに寄生しており、人間がこれらの肉を加熱が十分でない状態で食べた場合、有鉤条虫の卵が人間に取り込まれます。人間の腸内でふ化した卵は幼虫として、本来の宿主であるブタやイノシシの筋肉を探して体内をはい回ることになります。
最終的に有鉤条虫の幼虫は人間の脳に達し、そこで石灰の嚢胞に身を包んで成虫になる時を待ちます。しかし人間は有鉤条虫の適切な宿主ではないため、有鉤条虫は成虫になることができず、石灰化した囊胞だけを残して死滅するとのこと。
by Kat Masback
脳に囊胞が残されることで頭痛やてんかん発作、失明、髄膜炎、認知症につながる可能性が指摘されており、エモリー大学の感染症専門医であるボグマ・カビセン・ティタンジ氏は「これらの問題が顕在化するまでに数年から数十年かかるケースもあります」と指摘しています。なお、世界的には、成人のてんかん発作の最も一般的な要因がこのNCCとされています。
世界保健機関(WHO)の調査ではこれまでに世界中で数千万人もの人々がNCCに罹患(りかん)したとされており、そのほとんどがラテンアメリカやサハラ以南のアフリカ、東アジア、インドに集中していることがわかっています。一方でアメリカなどの先進国ではNCCへの罹患はかなりまれで、先進国でNCCに罹患するケースの多くは旅行や移民に関連していることも報告されています。そのため、エモリー大学のライラ・ウォック・コルバーン氏は「NCCは貧困に関連する病です」と語っています。
さらに医療技術に優れる先進国ではCTスキャンを使ったNCCの早期発見も可能で、これらの国では一般的に、頭痛やてんかん発作を訴えて来院する患者に対し、医師はNCCへの罹患を疑うようにマニュアル化されているとのこと。また、NCCはプラジカンテルやアルベンダゾールといった標準的な抗寄生虫薬でも治療可能で、早期の治療に成功すれば後遺症が残るおそれは少ないとされています。一方で発見が遅れた場合、治療に成功しても認知障害が残る可能性があるそうです。
The Atlanticは「NCCはしっかりとした手洗いを習慣付けるだけで簡単に防ぐことができます」と述べています。また、東京都保健医療局は「豚肉の生あるいは不完全調理での摂食は避けること」「海外流行地では生水、生野菜の飲食を避けること」などの指針を示しています。