「集中力がなくて、仕事が手につかない」とよく聞きますが、人間はもともと、一つのことに集中するのが苦手だとするデータがあります(イラスト:『「心の勢い」の作り方』より)

「先延ばし」は多くの人にとって悩みの種です。

「とにかく1分だけやる」「作業をできるだけ小さく分けてやる」「ご褒美を用意する」

「先延ばし」を克服する本や、コツは世の中にあふれていますが、そのコツさえ実行するのを先延ばしにしてしまう!

そんな方が多いのではないでしょうか。

そんな「ずぼら」だけど、変わろうとしている「マジメ」な人のために、禅という新たな視点から行動する技術をまとめたのが新刊『クヨクヨしない すぐやる人になる 「心の勢い」の作り方』です。

著者である禅僧・精神科医の川野泰周氏と経営コンサルタントの恩田勲氏によると、マインドフルネスのルーツである禅には、「心を落ち着かせる」要素だけではなく、「心を勢いづける」モメンタムの要素も多く含まれていると言います。

「締め切り前のレポート執筆」「転職」「結婚」など、心に勢いがあるとき、人は超行動的になります。そんな「心の勢い=モメンタム」を意図的に作り出す方法を紹介いたします。

以下では、「集中力」について解説します。

「集中力がない」は「先延ばし」の元凶


「集中力がなくて、仕事が手につかない」とよく聞きますが、人間はもともと、一つのことに集中するのが苦手だとするデータがあります。  

かつてマイクロソフトの研究で、人間が集中力を持続できるのはわずか「8秒」が限界、というものがありました。

また近年、人の話に集中できるのはせいぜい30分か40分程度であり、90分もある大学の講義は長すぎるという指摘をしている専門家もいます。

集中力がないのは、その人にやる気がないわけでも、サボりグセがあるからでもなく、脳の限界のせいと考えたほうがいいでしょう。

一方、「今、この瞬間」に意識をつなぎとめるのが瞑想です。

瞑想により集中力は回復し、本来やるべき課題にフォーカスできます。

逆にいうと、集中力が切れたまま作業を続けるのは危険です。

それは、ガソリンが切れたエンジンを回し続けるのと同じで、燃え尽き症候群(バーンアウト)につながる可能性がありますし、先延ばしの元凶にもなります。

「集中力が切れた」と感じたら、いっそ作業から離れ、瞑想することをおすすめします。

席についたまま呼吸瞑想をするのもいいですし、階段を上り下りしながら、足の裏の感覚に意識を向けるのも、効果的です。

そうしていったん脳を休めたほうが、業務の生産性もかえって高まるはずです。

欧米の企業がマインドフルネスに着目したのは、このあたりに理由があります。

グーグルは「瞑想ルーム」を本社オフィスに設け、従業員が仕事の合間に瞑想できるようにしました。

仕事の合間に、瞑想を組み込む

誰しも、同じ集中力でずっと働き続けることは困難ですが、瞑想を仕事の合間に組み込めたなら話は変わります。

それは 「仕事しつつ休み、休みつつ仕事をする」 ようなもの。

マルチタスクを続けながら、バーンアウトすることなく集中力を維持できるかもしれません。

職場における瞑想の効果を、数字で示した企業もあります。

ヤフー株式会社では2016年から、7週間のマインドフルネス・プログラムを延べ1500名以上の社員に提供したところ、「プレゼンティーイズム(出社してはいるものの健康上の問題によって業務効率が落ちていた状況)」の数値が平均約20%改善したことを報告しています。

うち週3日以上瞑想を実践した人では約40%改善したということですから、その効果は計り知れません。

また、保険会社のエトナは「マインドフルネスセンター」をつくり、1万3000人以上の社員にマインドフルネス研修を実施しました。

すると社員のストレスは3分の1に減り、1人あたりの生産性が年間3000ドルも高まったといいます。

ずばり、先延ばしグセがマインドフルネスで改善することを示した研究もあります。

香港教育大学で行われた研究によると、339人の大学生を対象に6カ月間にわたってアンケートを実施したところ、マインドフルネス傾向のレベルと先延ばしグセに、反比例の関係があることがわかったのです。

つまり、マインドフルネスの傾向が高いと先延ばしグセの傾向が低く、マインドフルネスの傾向が低いと先延ばしグセの傾向が高いということ。

また、マインドフルネスレベルを向上させると、先延ばしグセ傾向が減少することもわかりました。

「また、先延ばしグセが出そうだ」と思ったら、その場で瞑想しましょう。

集中力、判断力が向上し、行動の邪魔をしていたネガティブな想念も消えて、「今、この瞬間」やるべきことに意識を向けられます

では、どうすればマインドフルな状態になれるのでしょうか。

脳疲労をとり、集中できるようになる簡単ワークを紹介します。

スマホを置いて「10分散歩」

スマホは、マインドフルネスの「天敵」といってもいいかもしれません。

暇さえあればスマホをいじり、食事も会話もスマホを見ながら。

さらにはSNSをチェックしたり、ゲームをしたりと、脳が休まる暇がありません。

かといって、これだけ便利なスマホを手放せるかというと、今は和尚さんだって難しいと思います。

スマホを置いて出かけようものなら、「大事な連絡が入っているかもしれない」と心は乱れることでしょう。

それでも、できればスマホとは少し距離を置きたいところです。

SNSやニュースの通知はオフにする、「メッセージは2時間に1回まとめて全部見る」などと自分ルールを定めましょう。

私がおすすめしたいのは、10分でいいので、スマホを持たずに散歩に出かけることです。


スマホを手放す時間を10分持つだけでも、脳は休まる(イラスト:『「心の勢い」の作り方』より)

スマホに触ろうにも触れない時間をつくるために、歩くのです。

私(川野)は毎晩、お寺で飼っている柴犬の「太郎」を散歩させながら、この時間をつくっています。

しばらく歩くと、不思議なことが起こります。スマホに向けて消費していた注意容量が温存されるため、それまで見落としていたものが目に飛び込んでくるようになるのです。

例えば、季節の草花や、街角にできた新しい飲食店。「あれ、こんなところにこんなものが」。

この感覚が、マインドフルネスで気づきのレベルがアップしているサインです。

繰り返しの動きを観察「ルンバ瞑想」

これは、知人が話してくれたことを瞑想に応用したものです。

「川野さん、ぼく失恋したんです」というのでひとしきり話をうかがうと、「その日は、部屋を掃除してくれるルンバを日がな一日、見て過ごしました」それで少しだけ、気分が楽になったというのです。

これはとてもいい「ずぼらな瞑想」だと思いました。

部屋につもったホコリだけでなく、自分の心に澱んでいる悲しみまで吸い込んできれいにしてくれる

そんな見立てができるのではないかと感じたのです。

また、ルンバに限らず、こうした生活家電の多くは 「同じ動きを、単調に繰り返す」のが共通点です。

その様子を眺めるうちに瞑想状態に入る、というのは十分にありうる話です。

実際「うちの子は、何か悩みがあると、扇風機の羽根や天井のファンが回っている様子を何十分も眺めているんです」という話も、何人かのお母さんから聞いたことがあります。

心のモヤモヤを「止める」瞑想として、身近で働く機械が役立つかもしれません。


単調な動きをし続ける家電を眺めると、瞑想状態になりやすい(イラスト:『「心の勢い」の作り方』より)

(川野 泰周 : 臨済宗建長寺派林香寺住職/精神科・心療内科医)
(恩田 勲 : JoyBizコンサルティング代表取締役社長/一般社団法人日本モメンタム協会理事)