ライドシェア解禁でどうなるか

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 タクシー事業に一般ドライバーの従事を認める「ライドシェア」が、今月1日から限定解禁された。メディアでは肯定的な報道も多いが、現場の実感はどうか。決して「発車オーライ!」とはいえない現実が……。

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「同業者としては、やはり怖さを感じますよね」

 と語るのは、さる大手タクシー会社のドライバー。

「今度から運転するドライバーというのは、要するに二種免許を持っていないわけじゃないですか。例えば“鋭角”って知ってます?」

 二種免許を取得する際に行われる、V字形の狭い路を切り返す試験のことだが、

「これが難しくて自分も7回落ちました。運転うまい人でも2、3回は落ちるっていいますよ。二種免持っている人はみんなクリアしているんです。でも“一種免”の人はこういう技術ないでしょ。事故、増えると思うなあ……」

ライドシェア解禁でどうなるか

コロナ禍でタクシー業界は人手不足に

 ライドシェアとは一般のドライバー、つまり一種免許しか持っていないドライバーが自家用車を使い、乗客を有償で送迎することだ。

 コロナ禍でタクシードライバーは離職が相次ぎ、2割減ともいわれる人手不足に。空車を捕まえようにも捕まらない“移動難民”が増えてきたことをきっかけに、昨夏ごろから諸外国同様、一般ドライバーがこの業務に従事できるようにとの声が高まってきた。

 これを受け、政府は今月から東京や神奈川、愛知、京都のそれぞれ一部で、タクシーが不足する時間帯のみ、ライドシェアを解禁することに。希望する一般ドライバーと既存のタクシー会社が契約し、研修や勤務管理、任意保険への加入、アルコールチェックなどを行う仕組みだ。

リモートでのチェック

 しかし、である。

 冒頭のように、現場のドライバーに聞くと「一種免」運転手への不安は根強い。

 別の都内勤務・大手会社のドライバーも言う。

「都内で仕事をしている運転手には、これまで地理試験が課せられてきたんです。主要幹線道路や主要施設などを地図上で示すものですが、ライドシェアの人たちはそれ、受けてないでしょう。いくらナビがあるからったって、例えば青梅街道を知らなかったらお客さん怒るんじゃないですか」

 こんな恐れもささやかれる。

ライドシェアの車は自家用車ですから、タクシー会社は乗車時間以外、管理ができない。ライドシェアをきっかけに、会社を通さずにお客と直接やり取りして営業する『白タク行為』の事例が増えてしまうかもしれません」(個人タクシーのドライバー)

 乗務員が加盟する、全国自動車交通労働組合連合会の担当者は言う。

「懸念しているのは、健康管理の点です。ライドシェアの場合、リモートでアルコールチェックをしますが、それでは、健康状態や疲労度までは伝わらない。また、自家用車の安全性も気にかかります。タクシー事業者の車であれば、厳しい基準で管理されていますが、それに比べてどこまで点検が行き届くのか」

「ドライバーの9割が反対」

 限定解禁の成り行きを見て6月には、全面解禁、つまり地域や時間を限らず、また、タクシー会社以外の会社も参入させるか否かを決めることになる。

 そうなれば大転換だが、作家・志茂田景樹氏の息子で、武蔵野市会議員の傍ら、タクシーのハンドルも握る下田大気(ひろき)氏によれば、

「これにはドライバーの9割が反対していると思いますよ。コロナ禍が明け、タクシー料金も値上がりし、離職したドライバーが続々戻ってきている現状もある。全面解禁するかどうかは、相当慎重に判断すべし、というのが現場の実感です」

「週刊新潮」2024年4月11日号 掲載