初のF1日本GP「春開催」を迎えた鈴鹿サーキットは、半年前に比べて肌寒さの感じられる気候だった。しかしそのおかげで、桜に囲まれた日本GPになった。

「まさか桜のなかで走れると思っていなかったので、また違った鈴鹿の景色が見られてうれしいですね」

 3回目の地元レースとなる角田裕毅(RB/23歳)は、リラックスした表情で鈴鹿にやってきた。


日本GPのFP1走行に抜擢された岩佐歩夢 photo by BOOZY

 母国の大観衆の前で走る、というワクワク感はもちろんある。だが、レース週末で最大限のパフォーマンスを発揮し、自分たちに成し得る最大限の結果を手にすることを目指すという意味では、いつものレースと変わらない。

 マシンはコーナリング性能が向上し、鈴鹿で好パフォーマンスを発揮することが期待される。

「昨年と比べて高速コーナーはそんなに大きく変わっていませんけど、中速コーナーが大きく進歩しているかなと思います。コーナリング中のキャラクター性、ステアリングを切った時の回頭性の特性が変わったので、そういったキャラクターがポジティブな方向に行くとは思います。

 去年はどちらかというと曲がりにくかったイメージがありましたし、後半にかけてフロントがどんどんスライドして熱を持ち始めて(オーバーヒートで)アンダーになりやすかったので、それが解消されるかなと思います」

 今回投入されるフロアのアップデートは低速域で効果を発揮するものであり、それよりも中高速コーナーが中心となる鈴鹿においては、それほどラップタイム寄与率は高くないのではないかと角田は言う。

「フロアのアップデートで、そこはそれほど大きくはなくて、どちらかというと低速よりの改善なので、鈴鹿にはそれほど大きく効果が表われるようなアップデートではないかなとは思います」

 その新型フロアの確認は、FP1で2台のマシンで仕様を新旧分けることでしっかりと行なう。風洞やCFD(デジタル風洞)の通りにパフォーマンスが出ているのかを、実走データで新旧比較することで、より正確に分析するのだ。

【岩佐歩夢に求められるのは正確なラップ】

 そこに起用されたのが、岩佐歩夢(22歳)だ。

 昨年のアブダビGP後のヤングドライバーテストで走行し、今年はスーパーフォーミュラに参戦しながらチームのファクトリーでシミュレーターをドライブしている。F1のレース週末には現地からの実走データをもとに、シミュレーターでさまざまなセットアップをトライして改善したり、マシン開発の方向性をフィードバックしたりする。

 こうしたプログラムでの能力が評価され、今回のFP1出走となった。もちろん鈴鹿が岩佐の地元であり、このサーキットを走り込んでいるということも理由ではあるが、レギュラードライバーとてまだ走り込んでおきたいシーズン序盤のこの時期にFP1出走を任せるというのは、チームの岩佐に対する信頼の高さを表わしている。

「チーム代表から連絡があって、鈴鹿のFP1で乗ってもらうという通達を受けました。理由としては、昨年のアブダビでのテストに対する評価と、今シーズンここまでのシミュレーターワークでの実績とパフォーマンスを評価していただいて、今回FP1出走が決まったと聞いています。FP1を鈴鹿で担当させてもらえるのは、自信を持っていいことなのかなと考えています」

 F1昇格のみならず、F1で最初から高いパフォーマンスを発揮することを目標に据えている岩佐にとっては、前戦サウジアラビアGPでスポットデビューを果たしていきなり7位入賞を果たしたオリバー・ベアマン(フェラーリ/18歳)と同様に、通過地点ではなくいつそのチャンスが巡ってきても大丈夫なように、かねてから準備していたという。

「このタイミングというのはビックリしましたけど、FP1にいつ乗ってもいいようにシミュレーターもフィジカル面もすべてにおいて準備はしていたので、通達を受けたあとはしっかりと切り替えてここまで準備をしてこられました。あまり大きな変化はなかったですね」

 チームが求めるデータ収集に必要なドライビングをすることが第一であり、タイムで功名心を満たそうなどとは考えていない。それはチームからの評価につながらないことがわかっているからだ。

【F1マシンでの初の鈴鹿を「簡単」だと語った】

 続けて岩佐は語る。

「今回はチームにとってマシンのデータ取りが重要になるレース週末なので、角田選手のマシンと僕のマシンと2台のデータ比較がすごく重要になってきます。2台で異なる仕様で走って比較をする、という方向性です。

 だから自分としては、与えられたランプランをしっかりとこなしていくことが大事で、チームからはラップタイムはまったく評価の対象ではないということも言われています。

 とにかく、マシンを正確に走らせて持って帰ってくることが大事。仮にいいタイムを出したとしても、それがめちゃくちゃなドライビングでは正確なデータは取れないので、そのあたりはしっかりとチームから出された指示に沿って、パフォーマンスを発揮していこうと考えています」

 スーパーフォーミュラで昨年12月のテストから2月の開幕前テスト、そして3月の開幕戦と、何百kmも走り込んでいる岩佐だが、シミュレーターで走ったかぎりでは、F1マシンで走る鈴鹿は"簡単"だと感じたという。それだけ、F1マシンの性能が高いからだ。

「サーキットとしては世界のなかでもすごく難しい部類に入るんですけど、F1マシンで走ると正直、少し簡単になるという印象でした(笑)。それだけ高性能なマシンだということですけど、走ってみるとスーパーフォーミュラに近い感覚もありましたし、マシンの走らせ方に関しても大きな違いはなかった。

 F1マシンはアブダビで走ってはいますけど、同じサーキットで(F1とSFの)比較というのができるのはなかなかないことだと思うので、そこは自分のなかで楽しみにしている部分ですね」

 こうした作業を通じて新型フロアの性能をフルに引き出し、予選・決勝に向けて最大限のセットアップを煮詰めていくのは、その先の作業だ。

 過去2戦では角田がマシンのポテンシャルを最大限に引き出し、Q3に進出してみせた。そして、オーストラリアGPでは中団トップを獲得できることを示した。

【3度目の日本GPに冷静に臨む角田裕毅】

 特に決勝ではトップ5チーム10台が安定した速さを発揮するため、中団グループにとって入賞は高い「11位の壁」を越えなければならない状況となっている。だが、それを実力で越えるチャンスも見え始めていると角田は言う。

「たしかに入賞するのは難しいですけど、過去2戦のように予選でいい走りをしてトップ5チームに食い込めるようなタイムが出せれば、なんとかチャンスもあるのかなと思います。アストンマーティンの1台とは毎回近いところで走れていますし、うまくやれば抜けると思います。

 ただ、そういうチャンスを待つには近くにいなければいけないので、そこを意識して戦っています。まずはとにかく、この鈴鹿に合ったセットアップを導き出して、自分のクルマのパフォーマンスを最大限に引き出せるように集中したいなと思います」

 どんなサーキットであれ、ドライバーとして課された仕事を淡々とやっていく。日本GPという特別なレースだからこそ、その雰囲気に飲まれることなく、ある意味で職人のようなそのたたずまいが際立つのかもしれない。

 F1ドライバーとして成長したからこそ、日本GPが特別な存在ではなくなった角田裕毅の3回目の地元レースを楽しみにしたい。