『キングダム』原泰久×千賀滉大 特別対談(後編)

前編:千賀滉大が「メジャー1年目で12勝を挙げられた理由」はこちら>>

 千賀滉大といえば、メジャーリーガーたちを圧倒した「お化けフォーク(ゴーストフォーク)」だ。『キングダム』の作者である原泰久先生に"魔球"を伝授。そしてこれから互いに期待することについても語り合った。


千賀滉大(写真右)からゴーストフォークの投げ方を教わった原泰久先生 photo by Hanjo Ryoji

【対戦して手強いと感じたチームは?】

── 千賀投手が『キングダム』を読むベストなタイミングは?

千賀 僕は移動中がベストなタイミングですね。野球選手は移動が多いので。

原 ほかの選手の方も移動中は何か読んでいるものですか?

千賀 日本だと移動中のバスの中って結構静かなんですけど、アメリカはみんなずっとしゃべっています。僕も話の内容がわかるときは混じってしゃべりますけど、やっぱり読書タイムですかね。『キングダム』は何回読んでも、どこから読んでも面白いので。

── 『キングダム』では「一騎打ち」を繰り広げる場面が登場します。マウンドで一騎打ちだなと高揚する相手は誰ですか?

千賀 バッターですよね? 特定の誰というのはいないですね。メジャーって全員すごい。それぐらいの選手の集まりですから。

原 どのチームが手強いと感じました?

千賀 ブレーブスとドジャースですね。上位争いをみんなが予想するようなチームはやっぱりそう感じましたし、あとフィリーズも。この3球団は怖かったし、でも楽しかったですね。

原 打席での雰囲気が違うとか?

千賀 ボールの見送り方とか、ボールへの入り方とかでいい選手ってすぐわかる。「うわっ、対応されてる」って。ほかにも本当は苦手なコースでもそういうことが上手で、違う球を誘ってきて次を打つとか。そんな選手もいます。そういうのは投げていて気づく部分ですね。

原 そんな駆け引きがあるんですか。すごく面白いですね。

── 球場は千賀投手にとっての戦場だと思います。メジャーのマウンドに立っている時は、将軍のように球場の何万人といる空間を自分が支配しているような感覚になるものですか?

原 私もそのように想像していましたが、精神状態は意外とフラットということですよね。

千賀 めちゃくちゃフラットですね。

原 三振を取ってワーッと高揚したり「気持ちいい」という感情になったりすることは?

千賀 チェンジになればホッとする気持ちはありますが、1アウトや2アウトだとまだまだという気持ちでいるので。マウンドを支配......うーん、でも日本の時よりちょっと強いかもしれないですね。応援の仕方が違って、球場の雰囲気が日本とは違うのがそう感じさせるのかもしれません。日本の応援って形式に沿ってるじゃないですか。メジャーってつまらない試合だと「とことんつまらない」みたいな雰囲気をお客さんも全員出しますし。

原 そうなんですね(笑)。

千賀 でも、すごくわかりやすい。面白かったらみんなすごく声を出しますし。見ていて面白いし、やっていても面白い。一体感がすごいなと思います。

原 日本ってつまらないから帰るという雰囲気はそこまでないですよね。

千賀 日本は応援にも一定のリズムがあって、ある意味最初から最後まで応援しようみたいな雰囲気をつくっている感じがします。メジャーは試合開始の頃はそんなに盛り上がってなくて、チャンスになるとだんだんとテンションが上がっていくみたいな。サヨナラの時なんてもう怖いくらい(苦笑)。でも、それが面白かったりします。

【お互いに期待すること】

── 千賀投手の代名詞といえば、やはり「ゴーストフォーク」ですよね。

原 強い武器があるのって本当に魅力。ツワモノたちからフォークで三振をとったのを見るだけで痛快です。千賀投手のフォークはやはり特殊なんですか?

千賀 フォークって指の間から抜くのが一般的ですが、横滑り気味に落ちることがあります。僕はとにかく真下に落としたいので逆スピンをかけています。

原 それ、言っていいんですか? 企業秘密みたいなこと。

千賀 今はデータで何でも解析できちゃうので。

── 原先生が高校球児だと仮定して、ゴーストフォークを伝授してみてください。

原 僕、意外とやろうと思ったらできますよ。

千賀 本当ですか(笑)。僕がいつも話すのは、まずバックスピンをかけないこと。ほとんどのピッチャーはバックスピンがかかっちゃう。直球を投げる時に最後指先で離すじゃないですか。その感覚で投げるとそうなってしまうんです。

原 僕はナックルみたいに無回転で投げるのかと思っていました。

千賀 そのイメージはすごく大事だと思います。

原 縫い目は関係ありますか?

千賀 縫い目を使わないと投げられないですね。人差し指をかけるようにして握ります。

原 それも言っていいんですか?

千賀 全然。どんどんこのボールを投げる選手が増えてほしい。で、親指はボールの下に置きます。

原 写真撮っておこう。今度アシスタントとキャッチボールをする時のために。

千賀 あと浅く握ります。フォークボールって深く挟んで投げるにはめちゃくちゃ握力が必要なんです。僕は握力がそんなにないので。そして思いっきり腕を振る。この投げ方だと想像しているより結構腕を振らないとボールが落ちてくれないんです。

原 直伝のゴーストフォーク、今度投げてみますね。

── では2024年、お互いに期待することを。

原 去年以上の成績は期待していますし、日本人初のサイヤング賞も......と言いたいところですが、あまり言うとプレッシャーになりますよね。

千賀 いえ全然。僕自身は、サイヤング賞を獲ることを目指した行動に移しているので。

原 やはり目標は一番上。

千賀 もちろんです。

── 逆に千賀投手は『キングダム』のこれからにどんな期待を?

千賀 まず原先生がずっと健康でいてもらわないと。それが一番。あとは羌瘣(きょうかい)と信のこれからの感じがどうなるのか楽しみですね。

原 それはちょっと期待しておいてください(笑)。


千賀滉大(せんが・こうだい)/1993年1月30日生まれ。愛知県出身。蒲郡高から2010年育成ドラフト4位でソフトバンクに入団。12年に支配下登録され、13年にリリーフとして頭角を現す。16年は先発として12勝をマーク。19年にはノーヒット・ノーランを達成し、20年にはエースとして投手三冠を達成。22年オフに海外FA権を行使し、ニューヨーク・メッツに移籍。1年目から29試合に登板し、12勝(9敗)を挙げる活躍を見せた。

原泰久(はら・やすひさ)/1975年6月9日生まれ。佐賀県出身。大学院卒業後、システムエンジニアとして就職するも、漫画家になる夢をあきらめきれず勤務先を退社。2003年に『週刊ヤングジャンプ』(集英社)主催のMANGAグランプリにて奨励賞を受賞。06年『キングダム』連載開始。13年に第17回手塚治虫文化賞にてマンガ大賞を受賞。23年、『キングダム』の累計発行部数が1億部を突破。好きなプロ野球チームは福岡ソフトバンクホークス。

撮影協力●ヒルトン福岡シーホーク