平日昼間にもかかわらず、外国人観光客でごった返す築地場外市場

 東京・豊洲市場の隣に、2月1日にオープンした複合施設「豊洲 千客万来」。飲食店など65店舗が軒を連ね、温浴施設も兼ね備えた観光地だ。しかし、江戸の街並みを再現した内装とは打って変わり、その内実は日本の新たな“魔界”ともいえそうだ。

「1万8000円もするうに丼など、高級料理が並んでいるのです。購入するのはおもに外国人のインバウンド客だということから、『インバウン丼』などとネット上でいわれていますよ」(社会部記者)

 だが、「インバウン丼」現象は、豊洲だけで起こっているのではない。移転前に市場があった築地場外市場を訪れると、「千客万来」よりもさらに高額な海鮮丼の数々が販売されているのだ。日本人客は驚きの表情でこう話す。

「ラーメン5500円、うに丼2万2000円には驚きました。高いうに丼でも、5000〜7000円ほどだと思っていたのですが……。さすがに手が出ません」

 ある海鮮丼店の店員は、「日本人には入れない領域」と自らの店を表現するが、食材には自信があるという。

「客の95%は外国人で、特に中国人が多い。朝7時の開店前には並んでいます。なかには、うにだけ食べて米を残す人もいますよ(笑)。一見高額ですが、ウチで使っているのは厳選された6種類のうにですから、この値段は当然です」

 庶民の感覚ではとうてい理解できないが……。フードジャーナリストの山路力也氏は「日本人の感覚でモノの値段を測るのは危うい」と語る。

「東京だけでなく、京都や北海道・ニセコでも同様に、高額商品が並ぶ現象が起きています。しかし、長引く円安ですから、私たち日本人にとっては高額でも、外国人観光客にとってはそれほど高額とは受け取られていないのではないでしょうか」

 こうした「インバウン丼」現象は「広がっていくべき」と語る識者もいる。亜細亜大学経営学部の横川潤教授だ。

「海外には、外国人をターゲットとした高級店が多くありますが、これまで日本は、インバウンド客を狙った高級志向のビジネスはあまりしてこなかった。日本ブランドに憧れる外国人は、食以外でもアニメやフィギュアなどに高額出費を惜しみません。安易なゆるキャラなどで観光客を誘うのではなく、胸を張ってよいものを高く売るべきです」

「インバウン丼」が高い、という感覚は、令和にはもう古いのだ。

写真・久保貴弘